1票の格差是正、地方への配慮を忘れていませんか

衆議院の定数削減が参議院で可決、成立しました。参議院は今夏から「10増10減」の定数是正が実施され、合区となって地域代表を選出できない県も出ます。地方創生の時代というのに、議席が減るのは常に地方。1票の格差是正は民主主義として当然ですが、地方の声を国政に反映させることを忘れているようにも見えます。

衆院は10減、参院は合区の選挙区が出現

衆院の定数削減は、選挙区で6減、比例代表で4減。選挙区は青森、岩手、奈良の3県が現在の4議席から3議席へ減り、三重、熊本、鹿児島の3県が5議席から4議席になります。
比例代表は東北ブロックが14議席から13議席、北陸・信越ブロックが11議席から10議席、近畿ブロックが29議席から28議席、九州ブロックが21議席から20議席に削減されます。適用は来年夏以降の衆院選から。

参院は北海道、東京、愛知、兵庫、福岡の5選挙区が各2議席増、宮城、新潟、長野の3選挙区が各2議席減、鳥取と島根、徳島と高知の選挙区が合区となり、各2議席減となります。増えたのは大都市圏で、減ったのは地方。地方から大都市圏への人口移動が止まらないだけに、1票の格差是正にやむを得ない措置でしょうが、合区となった地域では選挙の結果次第で都道府県の代表不在となることも考えられます。

2020年には衆院議席の3分の1が首都圏に

政府が地方創生を政策の柱の1つに掲げるのは、東京1極集中が止まらないからです。地方から3大都市圏や札幌、仙台、福岡など大都市への人口流出も続いています。過疎の波は中山間地域から農村部、漁村部へ広がり、地方都市も巻き込もうとしています。
1票の格差を是正することだけを続けたなら、今後も地方の議席が減っていくでしょう。

衆院議長の諮問機関「衆院選挙制度に関する調査会」が、2020年の推計人口を基に試算したところ、選挙区は今回の「0増6減」を含めて「9増15減」となります。
内訳をみると、東京都が4増となる一方で、九州や東北などの15県で1議席ずつ減ります。比例代表も加えると、首都圏の8都県が159議席を確保し、全体の3分の1を占めるのです。「地方の声が国政に反映されにくくなるのではないか」(三村申吾青森県知事)、「地方創生に逆行する」(蒲島郁夫熊本県知事)などと地方から懸念の声も上がっています。

地方の声が国政に届かなくなる可能性も

地方選出の議員がこれ以上、減少すれば、国政にさまざまな影響が出てくるとみられています。

まず、心配されるのが、都会の目線ばかりで政策が論じられることです。打ち出される政策も都会に有利なものが多くなるでしょう。地方は置き去りにされ、1極集中がますます進むとみられます。

例えば、島根県に対し「中山間地域は行政コストがかかるため、松江市に人を集めたら良い」などという暴論が出てくるかもしれません。中山間地域では今後、高齢化と人口減少で地域の自助、共助の力が衰え、自治体による公助の役割が大きくなりそうです。そういう問題も大都市圏選出の議員では把握しづらいでしょう。特に参議院はこれまで、都道府県代表を選出して国政の光を地方の課題に当ててきました。

東京1極集中を是正し、地方創生を実現するには、地方の声がこれまで以上に必要になるはずなのに、地方の声が届かなくなる可能性があるのです。

米国は上院で各州を代表する議員を選出

海外ではこうした問題にどう対処しているのでしょうか。米国は上院と下院で異なる仕組みを採用しています。下院の435議席は10年に1回の国勢調査に基づき、定数が50州に振り分けられています。
これに対し、上院は各州当たり2人ずつ。人口3800万人を抱える全米最多のカリフォルニア州も、最小の57万人しかいないワイオミング州も変わりありません。下院が人口比に応じて議員を選出しているのに対し、上院は各州の代表を集めることで地方の声を反映させようとしているわけです。

日本でも憲法や公職選挙法の改正も視野に入れ、衆院で1票の格差を最小限に抑える定数配分を続ける一方、参院を都道府県代表とすることが対策として考えられます。地方の声を国政に反映させる方策を議席の上からも担保することは、東京1極集中を解消し、地方創生で新しい日本を築くため、急ぎ検討しなければならない課題です。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。

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