平成の大合併から10年余り、今も各地で続く失政の後始末

2004年から2006年にかけて全国でピークを迎えた平成の大合併。全国の市町村は約3,200が約1,700に減りましたが、「合併バブル」に浮かれ、合併特例債を使って公共施設を次々に建設した自治体は、膨大な借金を抱えて今も後始末に追われています。公共施設を再編しないまま広域合併した自治体も、過剰な施設の維持に四苦八苦しているのです。

篠山市は豪華な箱物事業を連発し、財政危機に

平成の大合併第1号として1999年に誕生したのが、篠山、丹南、西紀、今田の旧多紀郡4町が集まった兵庫県篠山市です。JR大阪駅から快速電車で約1時間、盆地の中にのどかな農村風景が広がっています。古民家を改修した宿泊施設の先駆けといえる「集落丸山」や日本遺産の「丹波篠山デカンショ節」で有名です。

市は当時、4万7,000人の人口を抱えていました。それが6万人に増えると予想し、次々に箱物事業に取り組みます。返済の7割を国が交付税で補てんしてくれる合併特例債が活用できるからでした。

温水プール付きの運動公園、時計塔を持つ図書館など財政規模の大きい大都市圏と間違うような豪華施設も含まれています。中でも、図書館は増築する生涯学習センターの一角に図書コーナーを設けるはずの計画が、いつの間にか豪華施設に生まれ変わってしまいました。

次々に箱物事業に乗り出す合併自治体の様子を「合併バブル」と呼びましたが、その典型が篠山市だったのです。ところが人口はすぐに減少へ向かいます。合併からわずか4年で市の借金は1,136億円に膨れ上がり、財政が急激に悪化、年間10億円以上の収入不足が見込まれる事態となりました。

身を切る思いの借金返済を今も続行中

市は2007年の市長交代を契機に市民参加で財政再建を始めました。当時、670人いた市職員を450人に削減し、給与も10%カットしました。市長の給与は20%削減。市が交付していた補助金も次々にカットしたのです。

小学校19校を14校に統合したほか、各地域にあった公民館16館を廃止しました。冷暖房費を節約するため、春と秋にしか開館しない公共施設も登場しました。市の職員だけでなく、市民や市議会から提案があった考えうる限りの経費節約策を実施し、超緊縮財政に踏み切ったわけです。

市民もボランティアで市政に参加し、図書コーナーなどの運営を担当しました。こうした努力の結果、2015年度末で市の借金はピーク時のほぼ半分に当たる642億円まで減っています。財政も2019年度にはようやく黒字転換する見込みとなりました。

しかし、これでひと安心というわけではありません。市は歳出削減一辺倒の財政方針を見直すとしていますが、借金返済はしばらく続くのです。無謀な箱物事業のつけを市民は今も背負わされていることになります。

10市町村合併の津市は過剰な施設が重荷に

2006年に近隣市町村との合併であらためて発足した三重県津市も、合併のつけに苦しんでいます。

津市は久居市、河芸町、美杉村など1市7町1村と合併したため、類似施設を多数抱えることになったのです。

市内にある公共施設数は1,100余り、延べ床面積約110万平方メートル。市民約28万人の1人当たりの延べ床面積は3.93平方メートルに達し、人口25万人以上の自治体の平均値1.92平方メートルの倍以上になっています。しかも、延べ床面積で60%以上に当たる公共施設が築30年以上。老朽化に伴う大規模改修が必要で、施設の維持管理が大きな課題となってきました。

これら施設をすべて保有し続けると仮定すると、今後40年間で4,700億円近い予算が必要になります。

市の人口は既に減少傾向にあるだけに、市が対応可能な規模まで統廃合を進めなければなりません。施設を6割削減しなければ、財政が将来パンクするとの見方も出ています。

市は公共施設等総合管理計画をまとめ、市民のニーズをくみ取りながら、再集約する考えを示していますが、合併時点で施設再編を進めなかったつけが今の状態になって表れたといえそうです。

アメとムチで合併を推進した総務省にも責任の一端

平成の大合併は当初、なかなか進みませんでしたが、2004年度からの三位一体改革で交付税が約5兆円も削減され、一気に動き始めました。

その際、総務省とその指示を受けた都道府県は合併特例債の発行や合併自治体に対する交付税増額をPRして市町村に推進を求めました。いわばアメとムチで実現させたのが平成の大合併なわけです。

当時から日本全体が人口減少に入ることは予測されていました。高度成長期やバブル期に建てた施設がやがて、自治体の重荷となることも十分に承知していたはずです。

しかし、合併の推進ばかりに目が行き、そうした点に十分な指導があったとはいえないようです。その結果、箱物事業のつけに苦しみ、過剰な公共施設を抱える自治体が生まれてきたのです。

地方分権推進委員会の中心人物として合併を牽引した西尾勝東京大名誉教授も、2015年の参議院参考人招致で平成の大合併を失敗と認めました。「合併バブル」に浮かれた現場の自治体が失政の張本人であることは間違いありません。

しかし、音頭を取った総務省とその指示を受けて合併を推進した都道府県にも責任の一端があるといえるでしょう。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。