任期満了に伴う茨城県知事選挙が8月10日、告示されました。
立候補したのは現職で7選を目指す橋本昌氏(71)、自民、公明の両党が推薦する新人の大井川和彦氏(53)、共産党が推薦する新人の鶴田真子美氏(52)の無所属3氏。橋本氏の多選の是非を最大の争点に熱い論戦がスタートしていますが、選挙戦の行方は支持率急降下に苦しむ安倍政権にも大きな影響を与えそうです。
橋本氏と自民県連、蜜月から暗闘の歴史
橋本氏は茨城県東海村生まれの元自治官僚。東京大を卒業して自治省(現総務省)に入り、公営企業第一課長、消防庁消防課長などを歴任しました。1993年に自民党のほか、当時の新生党、新党さきがけ、日本新党の推薦を受けて茨城県知事選に出馬、初当選しています。
以後、自民党と蜜月関係を築き、当選を重ねますが、2009年の知事選で自民党との関係が破たんします。
自民党は元国土交通省事務次官を擁立し、5選出馬の橋本氏に対抗したのです。自民党県連が橋本氏と交わしたとする「4期限り」の密約を暴露し、引退を迫ったのに対し、橋本氏は密約の存在を認めず、5選出馬に踏み切って圧勝しました。混乱に陥った自民党県連は2013年の知事選に対抗馬を擁立できず、橋本氏は6選を果たします。
この2回の選挙戦で橋本氏は自前で培ってきた人脈、組織をフル回転し、実力を見せつけました。そして今回の選挙では、現職知事で最多となる7選に向けて立候補したのです。
橋本陣営は実績強調と自民党批判を展開
橋本氏は在職中、県内の高速道路網整備や企業誘致に力を入れたほか、首都圏第3の空港として茨城空港を開港しました。元官僚らしく手堅い行政手腕に定評があるほか、全国知事会副会長、全国港湾知事協議会会長などの要職も務めています。
自民党との違いを強調するため、県民党を掲げて「中央の介入・支配にノー」と訴え、官邸とのつながりを強調する大井川陣営を暗に批判してきました。安倍政権が進める原発再稼働では、日本原子力発電の東海第2原発再稼働に対して安全性と避難体制が確保されない限り、認められないと慎重姿勢を崩していません。
茨城県市長会から推薦を受けるほか、民進党の支持母体である連合茨城から推薦を取り付け、反自民勢力の結集にも余念がないようです。ただ、茨城県は典型的な保守王国。与野党対決の構図よりも保守分裂選挙の色合いがより強くうかがえます。
自民党は大井川氏、共産党は鶴田氏を推薦
これに対し、自民党は茨城県土浦市出身の大井川氏を擁立しました。
大井川氏は元経済産業省官僚で、ニコニコ動画の運営会社として知られるIT企業ドワンゴの元取締役。自民党は行政とITの両方に精通した人物として県民に売り込み、菅義偉官房長官、石破茂元地方創生相、小泉進次郎衆院議員ら大物を早い時期から茨城県に投入、支持固めを進めてきました。
今回は安倍内閣の支持率が森友、加計問題で低迷し、自民党への逆風が吹き始めた中での選挙戦。7月の仙台市長選では自民、公明両党の支持候補が民進、共産両党などが推す候補に敗れています。態勢立て直しのため、何としても勝ちたい戦いです。
選挙戦では橋本氏の多選批判を前面に掲げる方針ですが、前哨戦での攻撃は抽象的な発言に終始しています。多選の決定的な弊害をまだ見いだせずにいるのかもしれません。
ここに割って入ったのが、東海第2原発の再稼働に明確に反対するNPO法人理事長の鶴田氏です。鶴田氏の立候補が橋本、大井川両陣営にどのような影響を与えるのかはまだ分かりませんが、骨肉の保守分裂選挙をよりいっそう混とんとさせているようにも見えます。
選挙結果は安倍政権の行方にも少なからぬ影響
公選制になって以来、最も当選回数が多い知事は、奥田良三奈良県知事(在任1951~1980年)、中西陽一石川県知事(1963~1994年)の8選です。橋本氏が7選を果たせばこれに続く多選となり、実に30年近く県政のトップに座り続けることになります。
米国の大統領選挙が3選出馬を禁じているように、多選には行政機構の硬直化など多様な弊害が生まれやすいとされますが、具体的にどのような弊害が生じつつあるのかは問題が明るみに出ない限り、有権者の目に届きにくいものです。
全国の地方自治体の間でも多選自粛を求める条例を制定したところはたくさんあります。しかし、憲法の職業選択の自由や基本的人権に触れる可能性があり、一律に禁止することは難しくなっています。結局は有権者が選挙で判断するしかないのが実情です。
今回の選挙で注目されるのは多選だけでありません。安倍政権の行方に大きな影響を及ぼしかねないこともその1つです。大井川氏が当選できなければ、自民党は仙台市長選に続いて地方の有力首長選で敗北したことになり、逆風がさらに強くなる可能性もあるのです。有権者はどのような判断を下すのでしょうか、審判の日は8月27日です。