6月8日告示の静岡県知事選挙、川勝県政2期の評価めぐり一騎打ちに

6月8日告示、25日投開票の静岡県知事選挙は、3選を目指す現職川勝平太氏(68)に無所属で出馬表明したバルセロナ五輪女子柔道銀メダリストの新人溝口紀子氏(45)が挑む一騎打ちの構図が固まりました。川勝氏が民進党や連合静岡の支援、推薦を受けて戦うのに対し、自民党は独自候補を擁立できず、静岡市内の支部などが溝口氏の推薦を打ち出しています。

川勝氏は民進党や連合静岡の支援を受け、3選に挑戦

現職の川勝氏は大阪府で生まれ、京都市で育ちました。早稲田大学政治経済学部教授から石川嘉延前知事のブレーンになり、静岡文化芸術大学の学長も務めました。石川前知事のキャッチコピー「富国有徳」は川勝氏が提唱したもので、豊かな物の集積と廉直の心を重んずる国を目指すという意味が込められています。

「理想の学校教育具現化委員会」の活動などを通じて石川県政を支え、石川前知事の後を受けて2009年の知事選に立候補しました。この選挙では民主党(当時)、社民党、国民新党の推薦を受けましたが、民主党系候補の1本化ができず、分裂選挙となっています。しかし、自民党、公明党の推薦候補との接戦を制して初当選しました。

2013年の前回選挙では、県民党の看板を掲げ、政党推薦を受けずに立候補しています。相手は自民党の支援候補と共産党の公認候補でしたが、民主党や連合静岡の支援を受けて大差で破り、再選を果たしました。今回も連合静岡の推薦、民進党県連の支援などを受け、立候補します。

五輪メダリストの溝口氏は川勝県政を真っ向から批判

これに対し、溝口氏は静岡県磐田市出身。小学校時代から柔道を始め、高校時代に全日本選抜柔道体重別選手権で当時10連覇の女王山口香選手を破るなど頭角を現しました。1992年のバルセロナ五輪では52キロ級決勝で敗れたものの、銀メダルを獲得しています。

引退後は2004年のアテネ五輪で女子柔道フランス代表チームのコーチを務めたほか、静岡文化芸術大学で教員となり、2016年に教授に昇進してスポーツ社会学を教えていました。県教育委員も務め、2014年から委員長として教育改革に力をふるいました。

2期目の川勝県政が強引な政治姿勢で行き詰まりを見せているなどと批判して無所属での立候補を表明。自民党に対して推薦願を出していませんが、「見ている方向は同じ」などと秋波を送り、静岡市内の支部や浜松、沼津支部から推薦を受けました。陣営は反川勝県政を前面に掲げ、来るものを拒まない県民党の立場で広く支援を求める考えを示しています。

自民、共産の両党は独自候補の擁立を断念し、自主投票に

自民党は当初、川勝氏に対抗する独自候補の擁立を模索していました。県議会議員で、県連幹事長を務める宮沢正美氏(67)が立候補の意向を示していたのです。しかし、県連内には前回の選挙で支持した無所属候補が川勝氏に大敗を喫したことや、選挙日程が迫りながら準備が遅れていることなどから、慎重論が強く、擁立を見送りました。

宮沢氏は混乱の責任を取り、幹事長を辞任しています。静岡市の支部などから知事交代を実現するため、溝口氏を県連として支持するよう求める声も出ましたが、総務会で採決の結果、自主投票と決まりました。県連大会では、静岡市の支部から自主投票に異議が唱えられ、決定が覆せなかったことに反発して支部関係者が退席する一幕もありました。事実上、分裂選挙となりそうな気配です。

一方、前回選挙で候補者を擁立した共産党も候補者の検討を進めていましたが、擁立を断念し、自主投票を決定しました。ただ、国政で模索する野党共闘を踏まえ、自民党支部の推薦を受ける溝口氏に対する支援は明確に否定しました。御前崎市の浜岡原発再稼働問題で自民党より意見が近い川勝氏寄りの姿勢に立つとみられています。

川勝氏と静岡市の対立や浜岡原発再稼働問題が争点か

選挙の争点としては浜岡原発再稼働問題や国際線の撤退が続き、苦境に立たされている静岡空港の活性化策などが挙げられていますが、最大の争点は川勝県政2期の評価となりそうです。

川勝氏は浜岡原発の再稼働に対し、明確な賛否を避けながらも「(中部電力は)再稼働しないという想定で考えている」(2016年12月県議会)と再稼働を推進する考えがないことを示唆しました。静岡空港については民営化の方針を打ち出し、運営権譲渡先となる民間事業者の公募を始めるとともに、国土交通省が地方空港の国際線就航を支援する「訪日誘客支援空港」に応募しています。

これに対し、溝口氏が厳しく追及しているのは、川勝氏と静岡市の対立です。川勝氏は2016年12月の県・政令指定都市サミットで「静岡市は政令指定都市の失敗事例」と発言し、静岡市議会が抗議文を提出するなど関係が悪化しています。

田辺信宏静岡市長ともことあるごとに対立してきました。反川勝氏の1点で自民党市議団が溝口氏推薦に動いたとの見方もあり、川勝県政2期の評価を有権者に問うとみられています。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。