兵庫県知事選挙

6月告示の兵庫県知事選挙、有権者は5選出馬の現職にどんな判断を示すのか

任期満了に伴う兵庫県知事選挙が6月15日に告示され、7月2日に投開票されます。

立候補の意向を示しているのは、現職の井戸敏三氏(71)と元兵庫労連議長の津川知久氏(66)、前加西市長の中川暢三氏(61)、コラムニストの勝谷誠彦氏(56)=いずれも無所属。最大の争点となりそうなのが5選を目指す井戸氏の多選評価で、選挙戦でも激しい議論が予想されます。

現職に無所属の3新人が挑戦

兵庫県は2018年で誕生から150年を迎えますが、歴代知事38人に5期務めた人はいません。井戸氏は3月の出馬表明で自身のワンマン化や県組織のマンネリ化など多選の弊害を否定し、5期目への意欲を明らかにしました。

井戸氏の県政与党である自民、民進、公明3党のうち、自民、民進の両党は、井戸氏に代わる有力候補が見当たらないなどとして支援の構えを見せています。

しかし、ともに党本部が4選以上を目指す多選候補を推薦しない方針とあって、両党は県連推薦で対応する方向。公明党は対応を検討中です。民進の支持基盤である連合は本部が推薦対象を原則70歳未満で、3期までとしているため、連合兵庫で推薦します。

これに対し、共産党の推薦を受ける津川氏は、大企業優遇や原発再稼働を進める安倍政権の政策を井戸県政が追従していると批判しています。無党派を掲げる中川氏は知事の任期を3期までとする条例制定を公約に掲げ、多選批判を繰り広げています。勝谷氏は井戸県政に一定の評価を示しながらも、在任期間の長さを疑問視しました。

行財政改革を推し進めた手腕には一定の評価

井戸氏は県西部のたつの市出身。旧自治省(今の総務省)官僚を経て1996年から県副知事、2001年から知事になりました。関西広域連合では2010年の発足から連合長を連続4期(任期2年)務めています。

井戸氏が知事に就任したころ、県は1995年に起きた阪神大震災からの復興途上でした。県の借金に当たる県債を1兆3,000億円も発行しており、復興のめどが立つと財政再建に踏み切らざるを得ませんでした。

このため、井戸氏は2008年度から11年計画の行財政改革に着手しました。その結果、2007年度に1,280億円あった収支不足額を2018年度にゼロにする見通しが立つなど、長い経験を生かした行政手腕を発揮しています。

政治家としては根回しを十分にするバランス型の県政運営を進めてきました。「派手さはないが堅実」と評価され、行財政改革での職員削減や大型事業の見直しだけでなく、ナノテク、先端医療産業の誘致にも成果を上げています。

こうした県政運営には県民の間で一定の評価があるものの、5期20年の多選となると、評価が分かれているのが実情です。

過去最高は8期務めた奈良の奥田、石川の中西知事

全国知事会によると、現職知事で最も多選なのは茨城県の橋本昌知事、石川県の谷本正憲知事の6期目。

5期目はおらず、4期目が井戸氏、北海道の高橋はるみ知事、青森県の三村申吾知事、栃木県の福田富一知事、埼玉県の上田清司知事、富山県の石井隆一知事、福井県の西川一誠知事、岐阜県の古田肇知事、京都府の山田啓二知事、徳島県の飯泉嘉門知事、大分県の広瀬勝貞知事と計11人います。

過去の知事で最も当選回数が多かったのは、奈良県の奥田良三知事(1951~1980年)と石川県の中西陽一知事(1963~1994年)の8選。7選は京都府の蜷川虎三知事(1950~1978年)です。

米国の大統領が3選を禁じられているように、首長の多選は政治や行政機構の腐敗を招くといわれています。

特に知事はその都道府県内で幅広い権限を有しています。多選だからといって必ずしも腐敗が起きるわけではないでしょうが、権力の集中でいったん政策や人事に弊害が生まれると、多方面に影響を与えかねません。このため、多選に対し、批判的な見方が出ているのです。

多選禁止条例を憲法違反とする見方も

多選を禁止する条例は2007年に神奈川県で制定されました。知事の任期を3期12年までとする内容ですが、施行期日を明確に定めておらず、法的拘束力はありません。

1997年には多選禁止を公約に掲げて当選した秋田県の寺田典城知事(当時)が多選禁止条例の検討を始めました。

しかし、旧自治省からクレームがつきました。一律に多選を禁止するのは憲法上の基本的人権の保障や職業選択の自由を奪いかねないと考えられているからです。

そこで、多くの自治体が多選を自粛する条例を制定しました。多選自体を禁止するものではなく、努力規定とする内容で、神奈川県横浜市、大阪府柏原市、徳島県石井町などで制定されました。

このうち、埼玉県や東京都大田区、徳島県阿南市など多くが制定当時の首長だけを対象としています。全国の先駆けとなって条例を制定した東京都杉並区のように廃止された例もあります。

しかし、自粛条例を制定しても、条例に従って引退する首長がいる一方で、埼玉県の上田清司知事のように条例を無視して多選を果たした例が出ています。

多選の是非は結局、有権者の判断に委ねるしかありません。兵庫県民は井戸氏の5選出馬にどのような審判を下すのでしょうか。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。