広がる買い物難民、全国自治体の8割以上が「対策必要」と回答

全国の地方自治体の8割以上が食料品購入に困難を感じる消費者が増え、何らかの対策が必要と考えていることが、農林水産省のアンケート調査で分かりました。

経済産業省は全国の買い物難民を約700万人と推計していますが、急激な人口減少と高齢化で地方自治体の危機感がさらに高まっているようです。

小売り業者廃業や公共交通機関の廃止を機に買い物難民が発生

農水省の調査は2016年11~12月、全国の1,741市区町村を対象に実施し、うち1,245市区町村から回答を得ました。

それによると、食料品購入で何らかの対策が必要と考えている市区町村は、回答した市区町村の81.9%に当たる1,020に上りました。

前年に比べ、市区町村数は61増えています。このうち、対策を実施している市区町村は622で、実施率は61.0%。対策の内容はコミュニティーバスや乗り合いタクシー運行などへの支援が最も多く、72.7%に達しました。

このほか、空き店舗対策29.3%、買い物代行サービスなどの導入28.3%、移動販売車の導入や移動販売業者への支援21.5%が目立っています。

対策が必要となった背景としては住民の高齢化が最も多く、97.8%を占めました。次いで地元小売業者の廃業78.2%、中心市街地の衰退58.2%、単身世帯の増加51.0%、公共交通機関の廃止40.8%と続いています。

ただ、大都市圏では地域の支援機能の低下が高い傾向を示しました。

2014年時点の買い物難民は経産省推計で約700万人

一方、経産省は買い物難民を最寄りの食料品店から500メートル以上離れ、車の運転免許を持たない人と定義しています。

2014年10月時点のデータを基にその数を推計したところ、全国で約700万人が該当しました。2010年の推計値は約600万人。4年間で実に100万人もの買い物難民が生まれたことになります。

日本全体の人口が減少に転じ、人口の東京一極集中が進む中、地方は今、深刻な人口減少と高齢化に直面しています。2014年以降の推計値はまだ出ていませんが、調査から2年以上が過ぎ、買い物難民の実数はさらに増えているとみられます。

日常の買い物が不便になれば、それを理由に転居することも考えられます。農水省が発表した今回の調査結果には、厳しい現状に苦悩する自治体の姿が浮き彫りになっているのです。

過疎地の自治体は住民運営のスーパー開設など懸命の対策

自治体側も手をこまねいているわけではありません。

兵庫県淡路島の淡路市では、山間部の集落を巡回する移動販売車が2016年2月から運行を始めました。運行しているのは淡路市社会福祉協議会。移動販売車は毎週月~金曜日に曜日ごとの訪問先を決め、各集落を回っています。

淡路市は淡路島の北部にある人口約4万5,000人。明石海峡大橋を渡れば神戸市ですが、多くの過疎集落を抱えており、移動販売の登場で命をつなぐことができる高齢者も少なくないのです。

秋田県は2016年3月から羽後町、五城目町、由利本荘市に「お互いさまスーパー」をオープンしました。県が費用を出し、地域住民が運営するスーパーです。

3市町では、買い物もままならず、自宅へ引きこもりがちな高齢者が増えていました。そんな高齢者に新鮮な食材を提供するとともに、店舗へ集まってもらって交流の場にしてもらうのが狙いです。

内閣府のまとめでは、食品スーパーなど地域の食料品店は周辺に500人程度の人口があれば、80%の確率で存続できるとされますが、それを下回ると経営が厳しくなっていきます。

過疎地域ではもはや人口100人を下回る地域も少なくありません。しかも、住民の大半は高齢者です。

公共交通が消えてしまえば生活に支障が出ることとなり、自治体が何とかしなければ地域が一気に崩壊しかねません。

大都市圏でもニュータウンで移動販売車が登場

買い物難民で悩んでいるのは、過疎地域に限った話ではありません。都会の中にも買い物難民は増えているのです。

大きな問題になっているのが、大阪府堺市の泉北ニュータウンです。人口13万人近くを数える西日本最大のニュータウンの1つですが、老朽化による人口減少から一部の地域では食料品店が撤退し、買い物難民が生まれています。

もともと何もなかった山を開発して住宅街としました。堺市の中心部とつながる電車が通っていますが、駅までは厳しいアップダウンの連続。車を運転できない高齢者は買い物に苦労しています。

このため、2016年5月から茶山台地区で週に1回、移動販売車が新鮮な食品を届けるようになりました。「買い物ができない」という住民の声を受け、大阪府住宅供給公社が団地内の集会所に移動販売業者を呼び、野菜や果物を販売しているのです。

土曜日の午前中に開かれている移動販売には、地域の高齢者らが次々に集まり、野菜などを品定めしています。

過疎地と同じ光景が大都市圏の真ん中で見られるわけです。

泉北に限らず、首都圏や京阪神のニュータウンは大半が高齢化し、人口減少に直面しています。

これからは3大都市圏であっても、買い物難民になる人が増えると予想されています。この現実をどう打開すればいいのでしょうか。

都市部、地方を問わず、すべての自治体に重い課題がのしかかっているといえそうです。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。