不要論も巻き起こる日本の参議院 必要性はどこにある?

日本の参議院は、度々不要論が巻き起こります。衆議院の決定を否定すると「決められない国会」の原因として批判され、衆議院の決定を是認すると「カーボンコピー」は不要と批判され、タレント議員が当選すると「良識の府」としての機能していないと批判され、緊縮財政論者の視点からは削減可能な無駄として批判されます。存在の足元に、常に不要論の火種が燻っている日本の参議院。参議院は本当に必要なのでしょうか?

元々は貴族院!参議院の歴史と仕組み

戦前の大日本帝国憲法のもとでは、衆議院と貴族院の二院からなる帝国議会が置かれていました。衆議院は公選制、貴族院は皇族・華族・勅任議員(学識経験者等)によって構成されていました。第二次世界大戦後の日本国憲法のもとでは、貴族院は廃されましたが、二院制は引き継がれることになり、参議院が置かれました。

参議院の仕組みは、衆議院と比較すると分りやすくなります。

まず、衆議院議員の任期は4年ですが、参議院議員の任期は6年です。衆議院には解散制度がありますが、参議院に解散はありません。衆議院議員選挙に立候補できる被選挙年齢は満25歳以上ですが、参議院議員の被選挙年齢は満30歳以上です。衆議院は総選挙により一度の選挙で議員全員を選出しますが、参議院は半数改選制で、3年ごとに半数を改選する仕組みとなっています。

また、憲法上、衆議院はさまざまな場面で、参議院よりも優越が認められています。

衆議院には、内閣の提出した予算案を先議する「予算先議権」があります。法律案が、衆議院で可決され、参議院で否決された場合は、衆議院で出席議員の3分の2で再可決すれば、法律となります。条約については、両議院の意見が不一致の場合は、衆議院の議決が国会の議決とされます。内閣総理大臣の指名について両議院の意見が不一致の場合は、衆議院の議決が国会の議決とされます。

また、衆議院で内閣不信任案が可決されると、内閣は総辞職もしくは衆議院を解散することになります。一方、参議院は内閣不信任の議決案(問責決議案)を可決することはできますが、その不信任案に特に法的効力はありません。

カーボンコピーとも揶揄される参議院の現状

大日本憲法の下では、衆議院は公選議員、貴族院は非公選議員という明確な違いがありました。日本国憲法のもとでは、衆議院も参議院も公選制です。

選挙制度については、衆議院は小選挙区と比例代表の並立制、参議院は選挙区と比例代表の並立制となっており、選挙区の広さには違いがあるものの、選挙区と比例代表の並立という点で、大きな違いがあるとは言えません。

このため、政党に属さない有識者などは減少し、衆議院選挙に立候補していた人材が、政党の選挙区事情によって、参議院選挙に出馬する現実があります。

参議院と衆議院の人材供給源や政党構成が同じであれば、参議院と衆議院の違いは少なくなり、参議院の独自性は減少します。参議院議員が、衆議院議員と同じ政党に属し、党議拘束を受けることにより、政府や衆議院に対抗して法案決定には是々非々で臨むような態度は期待できません。その結果、参議院は衆議院がした議決を繰り返すだけということになり、カーボンコピーなどと揶揄される現状があります。

このため、参議院に期待されている「良識の府」としての機能が、十分に果たされなくなっており、参議院の必要性が減少しているとの批判がなされることになります。

たびたび議論される参議院不要論の内容

衆議院と参議院の二院制には、国民の多様な意見をできるだけ広く反映させることができ、複数の議院が予算や法案を再検討することによって審議を慎重に行えるなどの利点があります。

しかし、現在の日本の参議院のように、衆議院と大きな差が無い選出方法や党派構成では、衆議院と同一の決定をするだけとなり、参議院の存在意義や必要性が見い出せない、という批判があります。

一方、参議院不要論には、このような「衆議院と同一の決定をするだけであれば存在意義がないのではないか」という議論がある一方、これとは逆の方向性の参議院不要論もあります。法律案は両議院で可決したこときに法律となりますが、参議院があることによって、衆議院の法案がことごとく覆される、いわゆる「ねじれ国会」が「決められない政治」を生み出し、かえって国政が停滞する原因となる可能性がある、というものです。

また、二院制はコストがかかり過ぎるという財政的な視点からの議論もあります。参議院を廃止すれば、国会議員の数を大幅に減少させることができ、その費用を大幅に節約できるのではないか、という観点からの不要論です。

参議院廃止=一院制のメリット・デメリット

参議院を廃止して一院制とするメリットは、国会の意思決定が迅速に行えるようになる点が考えられます。このため、国の非常時や急激な改革が必要な時には、一院制のほうが上手く機能するという考え方もあります。一方、参議院を廃止して一院制とするデメリットには、衆議院の決定を再考し、一定のブレーキをかける存在が無くなる、と言うことです。

衆議院議員の任期は短く、その任期も常に解散総選挙がなされることを前提としたものです。より国民の目線に近い政治が行える一方、地元や支持者の意向に常に注意を払う必要があり、短期間で結果を出せない政治活動に取り組む姿勢が薄れたり、大局的な視点を失う可能性があります。一方、参議院議員は、任期が長く、解散も無いことから、長期的な政治活動に取り組むことができ、大局的な視点から仕事をしやすい立場と言えます。

また、参議院を廃止するメリットとしては、コスト面があります。一院制を敷くことで、国会議員を大幅に減らすことができ、その分の議員報酬や歳費が要らなくなるのみならず、選挙や国会運営にかかるコストを大幅に削減し、財政負担を減らすことができます。

「良識の府」としての参議院の必要性

衆議院の任期は4年と短く、それに加えて解散総選挙があります。衆議院議員の活動は、常に次の選挙を念頭に置き地元の支持者の意向を意識せざるをえませんし、政治的判断にあたっては政局を意識しなければなりません。国民の直近の世論が反映されやすい一方、国民全体の代表者として振舞うには必ずしも適した立場になっていない構造と言えます。

一方、参議院議員は6年という長い任期が保障されています。さらに、3年ごとに半数が改選されるため、構成員が一度に大きく入れ替わることがなく、安定性が確保されています。参議院議員は、6年という長い任期が保証されることで、長期的な視点に立った活動がしやすい立場と言えます。そして、そのような立場があるからこそ、国民全体代表としての良識をもって、衆議院が可決した議案を、もう一度再考することができ、誤った法律が成立することがないように、国の安全装置として機能することができます。

もっとも、衆議院も国民から選出された代表者の集まりであり、誤った決定ばかりをする機関ではないのだから当然のことです。参議院が、衆議院の議決を是認して、結果として衆議院の議決をなぞるだけになることが多いのは当然のことかもしれません。

国会要覧 第63版

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。