日本でも始まった「司法取引制度」って何? アメリカとの違いは?

2016年に成立した改正刑事訴訟法によって、2018年6月から日本でも司法取引制度が実施されることになりました。アメリカなどでは広く実施されている司法取引制度とはいったいどんな制度なのでしょうか?司法取制度のメリット、デメリットやアメリカとの制度の違い、今後の課題などを解説していきます。

裁判の時間と費用を節約!司法取引のメリット

司法取引制度が施行されることで当事者から証拠の提出が行われやすくなることが大きなメリットです。アメリカなどでは場合によって天文学的な懲役刑が課されることがあり、これを回避するためには司法取引が有力であり、大幅な減刑を可能にさせます。このメリットは被疑者側のものですが、捜査する側のメリットもあります。

被疑者が否認を続ければ証拠を見つけるために人員を割くことになりますが、司法取引が行われれば証拠固めを簡単に行えて、時間や費用を節約できます。

これまでの事件の中には当事者とされた人物が黙秘を続ける、もしくは自ら命を絶つことで幕引きを図るケースがあまりにも多く、結局真相解明は叶わなかったケースが目立ちました。司法取引を行えば、黒幕が誰だったのかというのがクローズアップされて事件解決に貢献することが期待されています。当然裁判にかける時間も労力も、そしてそれに費やす費用も少なくなり、さまざまな面でメリットがあります。

日本ではあまり受け入れがたい制度とも言えますが、巨悪を倒すために必要不可欠な制度であることは間違いなく、あとは適切な運用と効果的な活用を心掛けていけば司法取引のメリットのみを享受できるはずです。

冤罪を生む可能性も!司法取引のデメリット

一見するとメリットしかない司法取引ですが、デメリットもあります。まずは犯罪の増加であり、最初から司法取引ありきで犯罪を行う人が増えることが指摘されています。実に本末転倒な話ですが、組織犯罪などを中心にもし捕まっても司法取引で減刑されるから問題ないと犯罪行為に加担することを求められ、実際に手を染めてしまう人が出てくる可能性は否定できません。

次に冤罪の可能性が高まる点についてです。素直に罪を認めれば懲役刑などが軽減されると取り調べ段階で刑事に促され、本当は何もしていないのにその状況を逃れたいからと虚偽の供述を行って罪を軽減してもらうが起こりやすくなります。

長時間の取り調べで正常な判断ができない人は多くなり、やってもいない罪を認めるようなこともあり得る話です。それに輪をかける可能性があるのが司法取引であり、その点は大きなデメリットです。

日本でも多くの冤罪事件がありましたが、そのほとんどは物証がなく、容疑者とされる人物の自白に頼り過ぎたことが原因です。司法取引制度を伝えてうまく自白を引き出すことも十分に考えられます。後で違ったと言ってもなかなか信じてもらえない可能性も高まります。いかに冤罪を防ぐかが今後の課題と言えます。

日本は捜査・公判協力型を採用

日本の司法取引制度は対象となる事件が限られており、企業が絡む経済犯罪や組織の薬物犯罪などに限定されています。そして第三者の犯罪を明らかにするために協力する形を採用しており、これを捜査・公判協力型と呼び、アメリカとはやや異なる制度です。協力者に対し検察側は起訴の回避や求刑段階で大幅に軽くすることを見返りに重要な証言を引き出せます。証拠として確かなものにするために、虚偽の証言をすれば5年以下の懲役刑になってしまいます。

一方でこの司法取引は本人だけで決められることではありません。司法取引をするかどうかの協議の場に被疑者側の弁護人が関与することになります。協議の開始から実際に合意するかどうかを決定するまでの過程で必ず弁護人は関与しなければなりません。被疑者は先に弁護人と話し合いを行って、方向性を決めていきます。最初は前向きな姿勢を見せても、得られるものが少なければ交渉を決裂させることも可能です。

実際に合意をする場合はそれぞれの立場の人物が合意文書に署名をして、確かにそのような合意に至ったという文書を残すことになります。懸念されることは急に証言を翻す行為ですが、懲罰などを与えることでそれを防いでいます。

アメリカは自己負罪型で凶悪犯罪にも適用

アメリカの司法取引制度は自己負罪型とされて、被疑者が自分の罪を認める代わりに起訴の回避や減刑が可能になるというものです。自己負罪型のメリットは刑事司法のコストがカットできる点にあり、アメリカではこの司法取引が行われると証拠集めをせずにもう裁判が行われて判決が下されることになります。対象となる事件も凶悪犯罪を含んでおり、強盗などの罪を犯しながらあっさりと罪を認めて制度を利用するケースもかなり目立ちます。

実際にアメリカでは大半が司法取引によってある程度の決着がつきます。一方で多くの人物を殺害し、明らかに死刑判決が出るような被疑者も取引をすれば終身刑に減刑されることもアメリカではよく見られます。冤罪事件も起こりやすく、この人物の殺害を認めれば終身刑にしてやると持ち掛けられて、本当は何もしていないのにそれを受け入れてしまい、結果的に冤罪であったことが発覚するケースもあるなど、問題は多いです。

もちろんアメリカにも日本のような制度は存在し、捜査・公判協力型による制度も存在しています。ただ幅広く実施されているのがアメリカという国で、残忍な犯罪を行った人物であっても適用されてしまうのが実情であり、日本では受け入れがたいものがあります。

日本での司法取引適用事例とこれからの課題

初めて日本でも司法取引が適用された事例として、タイの発電所建設に関する不正競争防止法違反に問われたケースがあります。日本の法人が法人としての刑事責任の回避を約束してもらう代わりに、外国の公務員への賄賂を行った社員への捜査協力を受け入れるという司法取引が成立しました。ただ、法人の罪を回避する代わりに個人がそれを被るような現象が起きていることや外国が絡む特殊事情があることもやや違和感を感じさせることにつながっています。

企業に関する犯罪や組織犯罪の撲滅などがメインとなっており、個人が殺人を犯しその罪を軽減してもらうような制度にはなっていないことは確かです。しかし、司法取引という制度自体が日本では全く慣れていない状態にあり、手探りで行われていることも事実です。また合意までの過程を可視化すべきではないかという意見も出ており、本当にその合意は自然に行われたのかという疑問をどう解決するかが課題です。

特に組織犯罪では末端の人物が司法取引を利用して供述を行ったことで、後々不利益を被る可能性も否定できません。それが分かっている状況では司法取引で見返りをもらおうにも、それ以上の代償を払うことも想定されており、想定以上の効果が得られるかは未知数です。

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政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。