令和初の大型国政選挙である、第25回参議院議員通常選挙が7月4日に公示されました。投票日は7月21日。
今回の参議院議員選挙では定数が6増され(半数が改選なので3増)、鳥取・島根、高知・徳島が合区となりました。また、合区になることによって現職が出馬できなくなることを防ぐ救済制度として、特定枠制度が設けられました。
この特定枠制度は自民党のための制度と言われ、野党からは自分たちの都合のいいように選挙制度変えていると批判を浴びました。2019年の参院選では、山本太郎参議院議員が代表を務める「れいわ新選組」がこの特定枠を使って、難病患者と障害者の立候補者を立てました。
そもそも、この特定枠制度はどんな経緯で決まったのでしょうか? その経緯を見てみましょう。
※この記事は昨年7月に作成されたものを加筆修正したものです。
2018年に各党が出した、参議院選挙の改正案
政党 | 概要案 | 総増減数 |
---|---|---|
自民党 | 埼玉選挙区・・・2増 比例特定枠・・・4増 | +6 |
公明党(当初) | 11ブロックによる大選挙区制 | ±0 |
公明党(修正案) | 埼玉選挙区・・・2増 比例区・・・2増 | +4 |
日本維新の会 | 11ブロックによる大選挙区制 | -24 (1割減) |
国民民主党 | 埼玉選挙区・・・2増 比例・・・2減 | ±0 |
希望の党 立憲民主党 | 埼玉選挙区・・・2増 石川・福井を合区・・・2減 | ±0 |
共産党 | 10ブロックの比例代表制 | ±0 |
1票の格差と合区問題
選挙制度で毎回問題になるのが1票の格差問題です。
一票の格差とは、一人の議員が当選するために必要な得票数が選挙区ごとに異なることによって生じる格差のことです。参議院の場合、基本的に都道府県単位で選挙区が区切られているため、都市部ほど1票あたりの価値が低い傾向があります。また2016年の参議院選挙から、1票の格差是正のため、合区制度が導入され、鳥取・島根、高知・徳島が合区となりました。
合区によって1票の格差がいくぶん是正されたものの、今度は、自県からの代表者がゼロになるという事態が発生し、当該選挙区からは不満の声も数多く上がっています。
また、都市部に議席が多く偏ることから、「地方切り捨て」との声も上がっています。
特定枠を設けたわかりにくい自民案
自民党案は、埼玉選挙区を2議席増とし、比例枠を4議席増としたもので、本来非拘束名簿式の比例枠に一部拘束名簿式を導入しています。これが非常にわかりにくく、また、野党などからは「合区のために出馬できない候補者の救済だ」と批判が上がっています。
拘束名簿式と非拘束名簿式の違い
- 拘束名簿式
- 比例名簿にあらかじめ順位を設けて、順位の高いものから当選していきます。日本では衆議院議員選挙の比例代表で採用されています。
- 非拘束名簿式
- 名簿に順位が決められておらず、選挙で個人名で多く得票を得た候補者から当選していきます。現在の参議院議員選挙の比例代表で採用されています。
最多得票者でも当選できない可能性がある特例枠
今回自民党案に盛り込まれている特定枠は、非拘束名簿の一部を拘束名簿にするというもので、全名簿のどの部分まで特定枠を設けるかは各政党に委ねられます。
極端な話、50人の名簿で49まで特定枠を設けてもよいというのです。
また、特定枠は、非拘束名簿よりも優先的に当選できるため、下記のように個人名での得票がゼロでも当選できてしまう可能性があります。
上記のような例は極端ですが、圧倒的な知名度と人気のあるタレントを擁立し、そのタレント以外の候補全員を特定枠として優先的に当選させていけば、タレントを集票マシンとして、選挙を戦うことができるのです。
もともと政治家になりたくないタレント候補でも、自分が多くの票を獲得しても当選しないから、立候補できてしまうのです。
2019年の参議院議員選挙では、れいわ新選組は圧倒的な知名度を誇る山本太郎代表が東京選挙区から比例代表で出馬しました。特定枠をほかの候補2人に使ったため、山本太郎候補は、党内で得票数が1位であっても、3人以上当選とならなければ再選できないことになります。
現行制度で、定数を調整した国民民主・希望・立憲
自民党案の対案として、国民民主党は、埼玉選挙区で定数2を増やす代わりに、比例の定数を2削減する2増2減の案を提案しました。
また、希望の党と立憲民主党は、埼玉選挙区で定数2を増やす代わりに、石川・福井を合区として2減する案を提案しました。
いずれも、抜本的改革には程遠いもので、来年の参議院選挙に合わせた(現実的に準備が間に合う)定数の調整案と言えます。
希望の党と立憲民主党の案は、合区を増やすという案ですから、地方の声を拾うことよりも人口比による一票の格差是正を優先させた案と言えるでしょう。
維新・公明は11ブロックによる大選挙区制
自民党と連立を組む公明党は、自民党案とは別の対案を出しています。
定数は増減なしで、現在の選挙区制度を廃止し、大選挙区制度による抜本的な改革です。
日本維新の会は、公明党案よりさらに踏み込んだもので、参議院の議員定数を1割(24議席)削減します。
「身を切る改革」を掲げ、将来的に一院制も見据えている日本維新の会らしい対案と言えます。
大選挙区制度に改正することで、違憲状態とされている一票の格差は解消することができます。
その一方で、大きな選挙制度改革なので、来年の参議院選挙までには総務省や地方自治体の準備が間に合わないのではないかと言われています。
公明党は、自分たちの案が自民党に受け入れられないことが分かると、
自民党案の6増案を修正した4増案で、自民党案に賛成するとした修正案も出しています。
共産党はブロックごとの比例代表制
共産党はもともと、議員定数削減には反対している政党です。
ですから、定数は現状のままで、全国を10ブロックに分けた完全比例代表制度の案を提唱しています。
共産党は組織として選挙をしている傾向が強いので、選挙区制度よりも比例代表制度の方が強みを発揮できるからでしょう。
しかし、今回の国会で法案として提出するつもりはないようです。
議会で多数を占める自民案が圧倒的有利
選挙制度や議員定数については、国会議員自身が議員でいられるかどうかを左右する仕組みです。国会でいくら話し合っても、よりよい制度というよりは、「自分たちの有利な制度」という各党の思惑や党利党略が絡み、まとまることはないでしょう。
現在の国会でも、多数決で過半数を取れる自民党が圧倒的に有利なことは間違いありません。
選挙制度などの議員たち自身に関わるルールを自分たちで決めるということに無理があるのかもしれませんね。