コスト意識もリスクマネジメントもなかった大阪阿倍野再開発、損失は2,000億円

コスト意識に欠け、問題が発覚しても解決を先送り、どうにもならなくなって事態を公表したら、とんでもない大赤字。ときおり明るみに出る国や地方自治体の公共事業の失態ですが、飛び抜けて大きな失態が大阪市で見つかりました。市が40年以上かけて進めてきた阿倍野再開発です。損失はざっと2,000億円。いくら大阪といえども、これでは笑いでごまかすこともできません。

バブル崩壊とそごう撤退で計画完成に大幅な遅れ

阿倍野再開発はJR天王寺駅南西側約28ヘクタールが対象区域。再開発面積としては西日本最大です。天王寺は梅田、難波に次ぐ大阪南部の繁華街で、周辺には日本一ののっぽビル「あべのハルカス」や通天閣などがあります。再開発区域は戦災を免れ、木造の商店や住宅が建ち並んでいました。道路も狭く、繁華街として十分に機能したとはいえませんが、昔の大阪らしい下町情緒を漂わせていました。それを近代的な街に生まれ変わらせるため、約2,700軒に及ぶ商店や住宅を立ち退かせ、29棟のビルに建て替える計画でした。

構想が浮上したのは、日本が高度経済成長を遂げていた1969年。7年後の1976年から事業に着手しました。ビルの分譲益で用地買収費や建設費を捻出するはずでしたが、地権者が3,100人と多かったため、用地買収が難航します。不運なことにどうにか買収が進んだと思った段階で、バブルが弾けて不況になってしまいました。しかも、中核ビルの核テナントに予定していた大手百貨店のそごうが経営破たんで撤退します。当初、15年で完成させる予定の事業は、大きく遅れてしまったのです。

一般会計からの損失補てんは2032年度まで

中核ビルは63階建ての高層になる予定でしたが、計画を見直して規模を縮小するとともに、分譲方式を賃貸方式に変えました。再開発自体も2017年度に最後の道路整備を完成させれば終了です。ようやく40年以上かけてほぼ完成までこぎつけたわけですが、この間に市が用地買収や商業ビル、マンション、道路、公園などの建設に費やした金は4,810億円に達しています。市債発行額は4,224億円。利子総額も1,639億円まで膨らみました。

これに対し、土地の売却収入は1,193億円で、賃貸収入も1,064億円にとどまります。その結果、巨額の損失が市に残ることになりました。一般会計からの損失補てんは2032年度まで続きます。市債の返済は2041年度まで終わらない見込みで、市の財政に暗い影を落としているのです。もちろん、返済は市民の税金からです。損失補てんや市債の返済があるおかげで、その分市民サービスが削られていることにもなります。約2,000億円に達する損失は国内の再開発事業で例がなく、地方自治体が犯した日本一の大失敗と呼ぶことができるでしょう。

地区内の南北格差が深刻、南側は空き店舗が続出

幸い再開発区域と大通りを挟んで向かい側にあべのハルカスが2014年、民間の手でオープンしました。このため、再開発地区の北側はにぎわいを見せていますが、南側はぱたっと客足が遠のき、閑古鳥が鳴くありさまです。南側の商業ビルは完成時期が早かったことから、既に老朽化が進み、空き店舗も目立っています。

再開発地区の西側は高層マンションが立ち並ぶ都心の住宅街になりました。電線が地中化されたうえ、広い歩道と車道を備え、高級住宅街を思わせるたたずまいです。再開発の結果、地区内の住宅数は開発前の約900戸が約3100戸に増えました。夜間人口も約6,300人が約8,000人になっています。戦前からの姿をとどめていた地域が、大阪を代表する拠点の駅前らしい近代的な姿に生まれ変わったことは間違いありません。ただ、その代償があまりにも大きかったのです。

問題先送りの役人体質が招いた悲劇

市がもっと早く方針を転換していれば、ここまでの損失になることはなかったはずです。しかし、市は中核となる高層ビルの分譲益で出費を埋め合わせることにこだわり、見直しになかなか着手しませんでした。コスト意識もリスクマネジメントもないまま、前任者の方針を踏襲して問題を先送りし、傷口を広げていきました。役所の典型的な失敗パターンです。

市は1990年代、テナントビルの「ワールドトレードセンター」や「アジア太平洋トレードセンター」、地下街の「クリスタ長堀」、複合商業施設の「湊町開発センター」など採算を度外視した開発を第三セクター方式で続け、次々に経営破たんさせていました。

その教訓は阿倍野再開発に生かされることなく、巨額の損失を生みました。民間企業ならトップも担当者も首が飛んでも不思議でありません。しかし、市はこれまでだれ1人として責任を取っていないのです。これもまた役所ならではの厚顔ぶりといえるでしょう。吉村洋文市長は記者会見で市民に陳謝し、反省の弁を述べましたが、市民は怒りを通り越してあきれ果てています。

市は今後万博やカジノを核とする統合型リゾートの誘致を目指す方針です。大阪五輪誘致の失敗が生んだ人工島の広大な空き地を開発しようとしているわけですが、2度と同じ轍を踏まないよう肝に銘じる必要があります。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。