地方創生に貢献しない地銀は不要、金融庁が新指標で評価スタート

金融庁が地方銀行を評価する新しい指標を導入しました。融資先企業への経営支援や企業再生への取り組みを判定するもので、いわば地方創生の通信簿です。地銀各行は地方創生担当部局を設けるなど地域密着を前面に打ち出していますが、金融庁は十分でないとみているようです。どうしてなのでしょうか。

55項目の新指標で地域貢献度を評価

金融庁が導入した新指標は全行に共通した5項目と、各行が選択できる50項目の計55項目です。共通の項目には取引先のうち経営改善や就業者数の増加が見られた件数、企業の事業内容を精査して無担保融資した件数などが入っています。選択項目にも販路拡大の支援をした件数、取引先とやり取りする頻度、人材育成の支援件数など、取引先の経営改善に結びつく指標を盛り込みました。

当面は年に1度、各地銀から報告を受け、地域貢献度を評価することになります。金融庁関係者は「あくまで地銀との対話に役立てるもので、数値改善を求める意図はない」としていますが、本音は地元の取引先支援にもっと積極的になってほしいと考えているようです。地銀が本気で地方創生に取り組んでいないとの見方を示す関係者もいました。

地方創生関連のニュースリリースは花盛りだが…

地銀各行のホームページを見ると、最近特に目立つのが地方創生関係のニュースリリースです。地元の地方自治体や大学との包括連携協定、自治体や特殊法人など公的部門への投資などが度々、発表されています。

ほとんどの地銀には既に、地方創生の担当部署が置かれています。地方創生融資制度の創設、農業法人への出資など地域振興に向けた新たな方策を打ち出す地銀も少なくありません。

地銀各行は古くから、地元の第三セクター会社への出資や中心市街地再開発事業への協力などを通じ、自治体と共同歩調を取って地域振興の旗振り役を務めてきました。商工会議所会頭など地元経済団体のトップを務め、経済界を束ねる役割も多くの地銀が果たしてきました。地銀側には、地方創生に一定の貢献をしているとの自負があるはずです。

担保ばかりに目が向いているとの批判も

しかし、金融庁がまとめた「企業ヒアリングとアンケート調査」を見る限り、取引先の間で地銀の評判は思わしくありません。調査対象の全国約3,200社のうち、1,200社以上が「メインバンクの地銀に経営相談をしたことがない」と答えました。その理由で最も多かったのが、「良いアドバイスを期待できない」で、取引先を向いていない地銀の実態が浮き彫りになっています。このほか、「事業内容より担保ばかりに目が向いている」、「地銀側の都合に合わせた融資提案しか聞く耳を持っていない」など恨み節に聞こえるような辛辣な声も上がりました。

広島県尾道市の街おこし、岩手県紫波町のオガールプラザなど地方創生の優等生といわれる事業の中には当初、地銀に相手にしてもらえなかったものもあり、貸し倒れを恐れて担保重視に陥っている地銀の姿勢を疑問視する声は少なくないのです。

地元企業を育てるのも地銀の重要な役割

地銀の多くがバブル経済崩壊後の金融危機で不良債権処理に苦しんだ経験を持ちます。このため、貸し倒れを避けようとする思いが身に染みついているのでしょう。その結果、貸し倒れの心配が少ない自治体関連の融資には前向きでも、地元の民間企業を育てようとする姿勢が欠けたのかもしれません。地方の人口減少が進む中、地価が下落して十分な担保価値がないとして融資を断られる事例が後を絶たないのがその一例でしょう。

地域おこし協力隊員の中には、融資を受けられずに起業を断念した例もあります。事業内容に見込みがあると判断すれば、担保とかかわりなく融資するのも地域に密着した地銀の役割です。地銀は今、経営統合や提携ばかりに目が向き、合従連衡を各地で繰り返しています。

人口減少時代を迎え、企業としての体力強化に努めることは問題ありませんが、本来の設立趣旨に立ち返り、足元を固めることも忘れてはならないように見えます。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。