LRT

実現できるかコンパクトシティ、宇都宮ライトレールが工事施行認可申請へ

栃木県宇都宮市と芳賀町が計画する次世代型路面電車(LRT)の工事施行認可申請が、近く栃木県に提出される見込みになりました。これにより、早ければ2017年度中にも建設に着工できそうです。LRTは富山県富山市などで導入されていますが、軌道の新設は全国で初めて。宇都宮市などはLRTの導入でコンパクトシティの実現を目指しています。

ドイツなど欧米諸国で都市の基幹交通として活躍

LRTは「Light Rail Transit」の略で、次世代型路面電車、軽量軌道交通などと訳されています。一般の鉄道より建設費が安く済み、1両当たりの輸送力は路線バスより大きいのが特徴。従来の路面電車より低床で、高齢者や車いすの人も利用しやすい構造です。フランスやドイツなど欧米諸国では、都市の基幹となる公共交通として利用されています。国内で導入した富山市では、全国から視察が相次ぎ、一時は観光名所のような扱いを受ける街のシンボルになりました。

宇都宮地区のLRTは、宇都宮市宮みらいのJR宇都宮駅東口から芳賀町下高根沢の芳賀・高根沢工業団地までの全長約15キロに軌道を新設します。JR宇都宮駅西側にも計画がありますが、こちらは東側の状況を見て着手する方針。

宇都宮市はLRTの整備に合わせてバス路線を再編、余剰になるとみられる最大約400便を利用して公共交通に空白地帯をなくすことを考えています。同時に、公共施設や住宅をLRT沿線の市街地に集約することも視野に入れています。

栃木県と2市町の9月議会に関連議案が提出見通し

宇都宮市と芳賀町は運営会社の第三セクター「宇都宮ライトレール」を設立しており、市、町、運営会社の3者で提出した事業計画が2016年9月、国の認定を受けました。

当初は2016年度中の着工、2019年度の開業を目指していましたが、工事施行認可申請が遅れました。軌道法では事業計画認定から1年以内に工事施行認可申請をしなければならないと規定しています。宇都宮市などは「申請書類の準備に手間取ったため」と説明していますが、住民の根強い反対があったため、期限ぎりぎりの申請となったようです。

2016年11月の市長選挙で現職の佐藤栄一市長に反対派の新人が善戦したことも影響しました。工事施行認可申請は栃木県を通じて国に行います。栃木県から国への進達の際は、軌道を新設する道路の管理者になる栃木県、宇都宮市、芳賀町の各議会で議決が必要になります。9月定例議会での審議に向けて近く、各議会に今後のスケジュールが説明される見通しです。申請から国の認可までは5カ月程度かかるのが一般的とされます。宇都宮市などは栃木県の都市計画事業認可も得たうえで、2017年度中に着工したい考えです。

宇都宮市東部の交通渋滞緩和を目指して計画

宇都宮市の狙いの1つが市東部の渋滞緩和です。宇都宮市は人口約52万人。北関東最大の都市であるばかりか、人口110万人を超す宇都宮都市圏は政令指定都市を含まない都市圏で最大規模になります。

しかし、関東で唯一、テクノポリスに指定され、市の東部に内陸型工業団地を多数抱えているため、交通渋滞が慢性化し、市民の悩みの種になってきました。

自動車検査登録情報協会のまとめでは、栃木県の1世帯当たりの自家用乗用車普及台数は2015年3月現在で1.6台。どこへ行くにも自家用車を使いがちな県民性も、交通渋滞の深刻さに拍車をかけています。

宇都宮市は1993年から新交通システムの導入に向け、調査を進めていましたが、モノレールより整備費用が安いことなどから、LRTが有力候補に浮上しました。2012年の市長選挙で3選を目指す佐藤市長がLRT導入を公約に掲げて当選し、一気に計画が動き始めました。これに対し、反対派住民は幹線道路をLRTが走ると渋滞が増し、不便になるなどとして反発しています。

コンパクトシティ実現には住民の合意形成が大切

もう1つの狙いはコンパクトシティの実現です。宇都宮市はこれまで、人口増加を続けてきましたが、2018年度から減少に転じると予想されています。人口が減れば税収も少なくなります。インフラ管理や公共施設維持、行政サービスの経費を削減するため、人口減少に対応できる街づくりをしなければなりません。

そのためにLRT沿線と中心市街地に公共施設や住宅を集中させ、コンパクトな街に変えようと考えているのです。ただ、LRTが整備されれば自動的にコンパクトシティが実現するわけではありません。コンパクトシティの先進地ともてはやされた青森県青森市や秋田県秋田市は、商業施設の誘因力で実現しようとしましたが、失敗に終わって大きなつけを市民に残しました。宇都宮市などと同様にLRTで実現を目指した富山市も、LRT利用者の減少傾向が長く続きました。事業が成功だったのかどうかも市民の間で評価が分かれています。

合意形成によるLRTの利用促進が不可欠です。事業が着工に向け、大きく前進した今、宇都宮市などは住民への説明にこれまで以上の努力が求められているようです。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。