忘れてはいけない被災地の現状、国民の支援が復興の鍵握る

東日本大震災の集中復興期間が3月末で終わります。政府は4月からの5年間を復興創生期間と位置づけ、新たなステップに入る方針ですが、被災者の生活支援など多くの課題が積み残されたままになっています。
なぜ、こんなことになったのでしょうか。国民が震災を過去の出来事と受け止め始めているからかもしれません。

集中復興期間が3月で終了

政府は震災発生から3月末までを集中復興期間と位置づけ、5年間で約25兆円を投じて被災地の復興に当たってきました。
しかし、復興庁によると、故郷を離れた避難者は2015年12月末現在で18万人以上。
集落の高台移転、福島の除染事業など積み残された課題が少なくないほか、東北産の農水産物を市場に出しても他産地より安い価格でしか売れないなど、風評被害も消えていません。
被災地の仮設商店街で本格的に再建できたのは、岩手県大船渡市の「三陸サンコー商店会」だけ。被災地を訪れるボランティアの数が減ると、売り上げが激減し、廃業する店が相次いでいるのが現状です。

もともと宮城県仙台市を除けば、人口減少と高齢化が進んでいた地域ですが、子育て世代など若い世代の避難が目立ち、被災地には高齢者ばかりが取り残されました。
被災地の多くが65歳以上の高齢者が過半数を占める限界集落の様相を示し、孤独死や買い物難民、医療・介護難民が増えつつあるのです。
もはや被災地は地方消滅の寸前だといえるでしょう。それにもかかわらず、集中復興期間が打ち切られることに対し、被災地の自治体は強い不満を政府にぶつけましたが、その思いは十分に届きませんでした。

阪神大震災モデルに計画策定

政府が5年で集中復興期間を打ち切るのは、阪神大震災をモデルに霞が関の机上で復興について考えていたからでしょう。
阪神大震災では5年で仮設住宅が解消され、復興の道筋がついていました。しかし、阪神大震災で被害を出したのは地震だけ。東日本大震災のような津波被害や原子力発電所の事故はありませんでした。

自治体の体力も全く異なります。阪神大震災で壊滅した兵庫県神戸市や阪神地区は大阪を中心とする関西都市圏に入ります。財政需要に対し、税収など自治体の自主財源が占める割合を示す被災10市の財政力指数は、総務省のまとめで平均0.77。人口が多く、それなりに豊かな財源を持っていたわけです。
これに対し、岩手県沿岸部自治体の平均は、わずか0.25。国の補助金や交付金に依存し、自治体がひねり出せる予算はごくわずかしかないのです。
大都市圏と過疎地を同列に比較したことが、集中復興期間の打ち切りにつながったと考えても間違いではないでしょう。
国の役人はつくづく霞が関からの視点でしか物事を見ることができないと感じました。

国民の関心が政治家を後押し

政府は地元自治体の反発に配慮し、各自治体に全国から派遣されている助っ人職員の費用などを国が負担するなど譲歩を示しましたが、それでも十分とはいえません。
国民全体が被災地の復興が終わっていないことを理解し、被災地復興を国に求めていかなければならないでしょう。それが政治家を後押しする力になり、役人の机上の判断を打ち破って被災地の未来を開くと思います。

日本人は従順で、忘れっぽいところがあるといわれます。しかし、日本は地震国ですから、いつあなたの地元が被災地と同じ状況になるかもしれないのです。震災を過去の出来事だと思ってしまったら、被災地はこの苦境から抜け出すことができません。
国民1人ひとりにできることはまだたくさんあります。ボランティアに行ったり、寄付をしたりすることだけが、被災地支援ではありません。被災地の特産品を買う、観光に行く、ふるさと納税を被災地の自治体にするなど、個人でもできる手立ては少なくないのです。
震災から5年を迎える被災地のことを、決して忘れてはいけません。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。

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