権利が早く消える!?民法改正で変わる「時効」期間

民法が約120年ぶりに改正されることになります。制定されてからこれまで大きな改正が行われてこなかった民法ですが、今回は大幅に改正されるようです。いったいどのような点が変わるのでしょうか。私たちの生活にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。民法改正の背景とポイントを調べてみました。

改正の背景~120年も続いた民法~

120年前と今を比較すると大きく社会や経済、私たちの生活は変化しています。ですが民法は、これまで大きな改正は行われずにきました。なぜ120年も改正をせずに大きな問題が起こらなかったのでしょうか。

民法は個人と個人のもめ事を解決するための法律です。日本には数多くの人が生活し社会を形成しています。そうなるともめ事もさまざまなものがあり、法律で画一的に解決方法を定めることができないものです。

そこで民法は、さまざまな紛争に対して柔軟な対応ができるよう、条文をあいまいに規定していました。あいまいな部分を裁判所が紛争に応じて柔軟に解釈し、個人間の揉め事を解決する。120年もの間、現行の民法を改正せずにすんだのは、裁判所の解釈により運用してきたところが大きいのです。

しかし、制定から120年が経過すると社会も大きく変化して時代に合わない部分も数多くでてきました。それと同時に、120年間積み上げてきた裁判所の解釈もある程度固まってきたところもあります。そういった点を明文化する必要がでてきていました。このような背景から、今回の改正で、民法の「現代化」と「解釈の明文化」が行われました。

民法改正のポイント

今回の民法改正では細かい部分も入れると相当数の条文が変更・追加・削除されています。その大半は、裁判所がこれまで積み重ねてきた解釈の明文化といわれています。一般国民にとっては馴染みがないところですが、法律家の間では、これまであたりまえとされていたことが明文化されているようです。

一方で、従来の民法から大きく変化しているところもあります。今回は民法改正のポイントとして、現行の民法と大きく変わった点、「消滅時効」と「敷金」という2つを紹介したいと思います。

時効期間が短縮!?権利は早めに行使

まず、身近な問題として民法改正により時効の期間が変わります。時効といえば、刑事ドラマなどでよく耳にすると思いますが、民法の時効は一定の時間が経過すると権利が行使できなくなることです。

例えば、お金を貸していても返してもらえなくなることや、商品を買ったのに引き渡してもらえなくなるというものです。日常でも「そんな古い話は時効だ」とかいう会話はよく耳にします。

時間が経つと返してもらえないというと何か卑怯な気がします。なぜこうした制度が設けられているかというと、

  • ①過去の話は証拠も少なく記憶もあいまいなので裁判が難しいという「実務上の理由」
  • ②請求できるのにほったらかしにした自分が悪いという「自己責任」の考え

が背景にあります。

今回の改正では、こういった考えをより強固にしたのか、この時効期間が10年から5年に短縮されます(改正民法166条)。そして、この時効は、権利を行使することを知ったときから進行しますので、例えば、中古車を購入して引渡しの期日を決めていなかったとすると購入を合意した日(契約日)から5年で時効消滅し、引き渡してもらえなくなってしまいます。

改正前に比べて5年も短くなり、より厳しくなったといえるでしょう。気をつけないといけません。

短期消滅時効は長くなる!?

それからあまり知られていないのですが、改正前の民法では短期消滅時効というものが認められていました。これは、日常的によく行われる取引で、金額もあまり大きくないものを、短い期間で時効消滅にしようというものです。例えば、お店で買った商品等は2年(改正前民法173条)で時効になります。飲食代金などは1年(改正前民法174条)で時効となることとされていました。ツケで飲み食いしても1年請求されなかったら時効、支払う必要はなかったのです。(そのお店には二度と行けないと思いますが…。)

この短期消滅時効は、一般の消費者にとっては有利な制度でした。
しかし、今回の改正では、この短期消滅時効がなくなり、すべて原則どおり5年に統一されます。消費者にとっては少し厳しい改正になったといえるでしょう。

賃貸借の費用負担と敷金明確化

それから、私たちの生活に影響を与える、もう一つの改正のポイントが敷金の明確化です。敷金は、家やアパートを借りるときに家主さんに預けるもので、家賃を滞納したときや借りた人の不注意で部屋に傷つけたときなどの修理費用に当てるためのものです。賃貸アパートに住んだことのある人なら支払ったことがあると思います。

ですが、敷金は不動産賃貸において一般的なものでありながら、現行の民法では対応する条文がありませんでした。

そのため、家やアパートを出て行くときにトラブルとなることがあります。貸主は敷金をなるべく返したくない、借主は可能な限り戻してもらいたい。とくに、アパートの部屋に傷があったりした場合の修理費用等、これも民法で明確に定められていなかったので、当事者でトラブルになったりしました。

以外と多い改正点!?

以上、民法改正のポイントとして一部を紹介しましたが、ほかにも改正されている点はたくさんあります。以上、民法改正のポイントとして一部を紹介しましたが、ほかにも改正されている点はたくさんあります。

専門家の中には「今回の民法改正は確立した裁判所の判例が明文化されたものがほとんど」というような話をされる方もいますが、実際に条文を確認してみると結構多くの点が改正されていることが分かりました。

この改正民法は2020年より施行されます。2020年以降は新しい民法が適用されることになりますので、民法を少し勉強して日常の取引に備えたほうがいいかもしれません。

消滅時効法の現状と改正提言 (別冊NBL (No.122))

二宮憲志

二宮憲志

40代前半、滋賀県在住、男性、元公務員、元コンサルタント、現在はフリーランス。30代は仕事をしながら勉強に励み、政治学と経済学の学位を取得。日本社会の柔軟性のなさに日々疑問を感じながら、日本の政治と経済を考えています。「言葉で日本に振動を」、そんな気持ちで発言(政say)していきます。