水道法改正で進む民営化?「中途半端な民営化」と「料金値上げ」

今国会で成立するかに見えた水道法改正ですが、ここにきて参議院への提出が見送られました。政府は法改正により、自治体が運営する水道事業の民営化を一気に加速させる思惑でしたが、少し減速したようです。

民営化といえば、国鉄や郵政の民営化が思い浮かびます。当時は国民を巻き込み大きな議論になりました。しかし、今回の水道法改正はなにやらひっそり進んでいます。このままだと「いつの間にか成立」ということになりそうです。今回の法改正、実は皆さんの家計に大きな影響を与えるかもしれません。

水道ビジネスは儲かるの?

思い返せば、2013年4月にワシントンで行われた講演で麻生大臣が「水道事業をすべて民営化にする」と宣言してから早4年、ようやく民営化に向けて本格的に動きだしました。現在の水道事業は、約3割の自治体で採算がとれておらず原価割れしています。今後、人口減少に伴う需要の減少や施設の老朽化等で、持続的な経営は危機的な状況となっています。政府はこうした状況を打開するため、水道事業に民間のノウハウを積極的に取り入れ、合理化を図る思惑です。

さて、今回の水道法改正ですが、政府は民営化の方向性としてコンセッション方式を念頭においているようです。コンセッション方式とは、施設の所有権は行政側が所有し、運営を民間事業者に委ねるという手法です。国内では空港などですでに導入されており、民営化の一手法として高く評価されています。実際、関西空港では2016年に導入され、1年目から売上高を増加させ一定の成果をあげています。今年4月には高松空港がコンセッション方式による民営化を導入しており、空港における民営化は今後も加速していくでしょう。

では、水道事業も空港と同じように民営化が進んで行くのでしょうか。この点は少し疑問があります。その理由は、提供するサービスの違いです。空港は旅行やビジネスなどに利用でき、私たちもそこに価値を見出しています。

一方で、水は生活に不可欠でありながら、「安全に供給されて当然」というイメージがあるのではないでしょうか。つまり、商品としての価値を感じていないのではないでしょうか。

その背景には、水が一種の自由財であるという点にあります。自由財とは、空気や砂のように常に供給量が需要量を大きく上回り、対価を支払うことなく入手できる財のことです。水は自然が与えてくれるもので、本来「無料」で手に入るものなのです。その水に私たちが対価を支払う理由は、水そのものへの対価ではなく安全を購入しているからといえるでしょう。

ここに水道事業民営化の落とし穴があるように思えます。そもそも民間企業は営利目的で設立されていますから、利潤が見込めない事業には参入しません。空港であれば、路線の多角化や空港内サービスの充実等により積極的な企業努力により新たな利潤が生まれる余地があります。ですが水道事業はどうでしょう。唯一の価値でもある安全は、現時点で十分ともいえます。そうすると新たな価値の創造というのは難しいでしょう。となると利潤を生み出すにはコストの削減という消極的な努力になるでしょう。

しかし、現在、どこの自治体も維持管理や料金徴収などの業務は民間委託しておりコストの削減は図っています。民営化で合理化したとしても限界があり、それほど利潤が生まれるとは考えにくいでしょう。民間企業が利潤を得る方法としては料金値上げ、ということになってくるでしょうか。

世界的には「再公営化」が標準

ところで、この水道事業の民営化の動きは、日本に始まったわけではありません。海外では古くから行われています。アメリカ、ドイツ、フランスなどの先進国、そしてアフリカなどの途上国においては広く取り入れられています。

それでは、これらの国々で民営化は成功しているのでしょうか。奇しくも2013年に麻生大臣が水道事業の民営化を宣言した当時、世界的な動きは民営化ではなく、「再公営化」でした。「再公営化」とは民営化した後に再び行政へと運営を移管することです。いわば民営化の失敗ともいえます。

ベルリンでは、1999年に公社の持株を民間企業に売却し民営化がされました。しかし、民営化後に料金は高騰し、激しい批判が巻き起こった結果、2011年に行政が株式を買い戻すことになりました。「再公営化」後に残ったものは、株式買収の費用を330年間の水道料金に上乗せして支払うというものだけでした。

一方、パリでは、民営化後に運営する民間企業の経営不信から市が経営権を取り戻し「再公営化」をしました。「再公営化」後、経営の見直しを行い、料金を8%削減することに成功しています。「再公営化」の成功事例です。

このように、世界的には水道事業民営化の失敗が表面化し、「再公営化」に向けた動きが活発化していました。なんとも不思議なタイミングで民営化を宣言したものです。確かに、今回の水道法改正では、世界各国の失敗を参考に、国の監督機能を強化し、経営のコントロールを徹底できるようにしています。ですが、その分コンセッション方式の利点である民間企業の自由度も削られています。世界的に民営化が失敗している中、日本だけ民営化がうまくと考えているのでしょうか。

料金値上げのための民営化

なぜ、政府はそこまで民営化を進めたがるのでしょう。その背景には料金値上げという思惑があるのではないでしょうか。

水道管の更新はおおむね40年とされており、現段階で13.6%の管路が40年を経過しています。2048年には59.5%になる見込みです。今後、更新にかなりの費用を要すると見込まれています。つまり、水道料金の抜本的見直しが強く求められている状況といえます。

しかし、これまで増税で苦い思いをしている与党としては、何ら行動をせずに水道料金値上げを認めるわけにいかないでしょう。そこで、民営化という発想ではないでしょうか。今回の水道法改正では、自治体が民間に運営を委ねる場合、国の許可が必要となります。この許可審査の項目には料金も含まれています。

つまり、政府は自治体が料金を値上げするには民営化を条件とすると考えているのではないでしょうか。

そうなると、料金値上げが必要な自治体は民営化せざるを得なくなり、ほとんどの自治体の水道経営は厳しい状況ですから、民営化は必然的に進んでいくでしょう。

しかし、そうした先にあるのは「中途半端な民営化」と「水道料金の値上げ」という姿ではないでしょうか。今国会での成立見送りも、そうした不明確さに対する批判が背景にあるのかもしれません。いずれにせよ、料金値上げを念頭においた形だけの民営化ではなく、国民負担を考えた持続可能な水道事業の未来をしっかり議論していってほしいものです。

水道サービスが止まらないために―水道事業の再構築と官民連携

二宮 憲志

二宮 憲志

40代前半、滋賀県在住、男性、元公務員、元コンサルタント、現在はフリーランス。30代は仕事をしながら勉強に励み、政治学と経済学の学位を取得。日本社会の柔軟性のなさに日々疑問を感じながら、日本の政治と経済を考えています。「言葉で日本に振動を」、そんな気持ちで発言(政say)していきます。