都議選に政治塾から独自候補、小池知事の狙いはどこに

小池百合子東京都知事が今夏の東京都議会議員選挙で自前の候補を擁立し、自民党と全面対決する方針を固めたもようです。自身の政治塾を母体にした政治団体「都民ファーストの会」を事実上の地域政党と位置づけ、都議会に与党勢力を広げることを検討しており、早くも前哨戦に火がついてきました。

現状は少数与党、多数派工作も同時進行

2017年1月現在の東京都議会の議席の内訳

都議会127議席の内訳はグラフのようになっています。

昨年の東京都知事選で小池知事は既存政党の支援を受けずに戦いました。小池知事を支援した都議会の会派はかがやけTokyoだけ。しかし、昨年末に都議会自民党から3議員が離れて新風自民党を結成、小池知事との連携を模索しているほか、公明党は都議会自民党との連携関係を解消し、小池知事と相思相愛の関係になりつつあります。さらに、小池知事は民進党系会派との連携も模索していますが、これらを足しても議席の過半数には及びません。都政運営を確たるものとするためには、都議選で与党議員を増やしたいと考えているのは当然でしょう。

政治塾から約40人を与党系候補として擁立か

与党系候補者擁立の母体となるのは、小池知事が主宰する政治塾「希望の塾」です。塾生は約4000人。政治を単に学びたいという人だけでなく、政治家志望の人もおり、芸人のエド・はるみさんら異色の顔ぶれも加わっています。

このうち、約1600人が1月、筆記試験を受けました。合格者は候補養成を目的とした「都議選対策講座」を5月まで受講し、政治家としての心得や必要な知識を学びます。講座の定員は200人。小池知事はこの中から面接などで絞り込み、約40人を与党系候補者として擁立したい考えだといわれています。このため、今回の筆記試験は候補者選定の事前審査と受け止められています。

こうした政治塾は小池知事が初めてではありません。古くはパナソニック創業者の松下幸之助氏が設立した「松下政経塾」、最近では橋下徹前大阪市長率いる大阪維新の会の「維新政治塾」などがあり、それぞれ多くの政治家を送り出しました。

長野、徳島では少数与党の無党派知事に不信任決議

保守土壌の強い土地で自民党系の候補を破って当選した知事は過去にもたくさんいました。しかし、その多くが議会で多数派を占める自民党系会派と対立し、苦しい議会運営に追い込まれています。

市民団体に担がれ、無党派として長野県知事になった田中康夫氏は就任2年目の2002年、議会から不信任を決議され、出直し知事選出馬を余儀なくされました。環境保護団体に担がれ、無党派で徳島県知事に当選した大田正氏は就任からわずか1年の2003年、不信任決議を突き付けられ、出直し知事選でも敗れて退任しています。ともに保守的な地元紙のネガティブキャンペーンもありましたが、議会内に十分な与党議員を確保できなかったことが響きました。

大都市圏でも青島幸男元東京都知事や横山ノック元大阪府知事のように、思うような施策を展開できず、苦しむ例も数多く見られています。

支持率高いうちに勝負をかけたい思惑

小池知事はこれまで、築地市場の豊洲移転を延期したほか、東京オリンピックの会場見直しを提案するなど、過去の自民党系知事が進めてきた施策の見直しに踏み込んできました。それを可能にしたのは、都議会自民党を悪役に仕立て、それに対抗する姿勢を示すことで、高い支持を都民から得ているからです。小泉純一郎元首相が身内の自民党を徹底的に批判して国民的人気を得たのとよく似た手法です。

しかし、議会が野党多数では思い通りに都政運営をすることができません。議案がなかなか通らず、都政が長く混乱すれば、支持率低下のきっかけになることも考えられます。そうした事態を防ぐために支持率が高いうちに、都議選で勝負に出ようと考えたのでしょう。これに対し、自民党側の対応はまだはっきりしませんが、都議選の結果が小池都政の行く末を左右することは間違いなさそうです。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。