築地市場移転問題で改修案が再浮上、小池知事の思惑をどこに

東京都中央区の築地市場移転問題で、都の「市場問題プロジェクトチーム(PT)」は、築地市場の具体的な改修案を市場業者に提示しました。
PT側は同時に示した江東区の豊洲への移転計画とともに、小池百合子都知事の判断材料にすると説明しましたが、改修案の提示で移転問題がますます混迷の度を深めています。小池知事の思惑はどこにあるのでしょうか。

総工費734億円で、営業しながら施設を改修

市場業者との意見交換会で提示された改修案は、3月のPT会合で示された案をPT座長の小島敏郎弁護士が具体化させたものです。

説明によると、工期は設計1年半、工事5年半の合計7年。施設内に仮設売り場を確保して業者の一部移転を繰り返し、営業しながら改築工事とアスベストの除去を進めるとしています。

総工費は734億円と見積もられています。予想外に安いとの声も出ていますが、その中に土壌汚染が確認された場合の対策費は盛り込まれていませんから、土壌汚染対策の有無で高いか安いかの評価が分かれそうです。

豊洲市場は建物の撤去などに150億円かかるものの、商業施設やタワーマンション用地として売却すれば4,370億円で売却が可能と試算しました。売却益は豊洲市場整備のために起債した企業債の返還に充当します。

提示した案はPTが5月にまとめる報告書に反映される予定です。小島座長は記者会見で「最終的な判断を下すのは小池知事で、今回の案はそのための材料。築地市場の改修は可能だが、課題も残る」などと述べました。

移転見送りが現実味を帯びる意見交換会の反応

都は1990年代に400億円を投じ、築地再整備を目指しましたが、営業中の業者と調整が難航し、断念しました。その後、約6,000億円を投入して豊洲移転を進めてきました。

しかし、今年に入って豊洲市場の地下水から環境基準を大きく上回るベンゼンなど有害物質が検出され、都民の不安感を一気に拡大させました。

地下水を市場で使うわけではありませんから、「移転に問題はない」との声もありますが、都民感情を考えれば都として簡単に移転できなくなっているのが実情です。今回の意見交換会では、豊洲移転案も同時に提示されました。

小島座長の試算によると、豊洲市場に移転すれば減価償却費を含めて年間100億円近い赤字が見込まれるため、赤字の解消策として

  • 市場業者の使用料引き上げ
  • 都税の投入
  • 豊洲以外の都内の卸売市場の順次閉鎖

-が選択肢として挙げられています。豊洲移転派の業者の多くが意見交換会に出席しなかったため、改修案に賛成する声が多く出され、交換会の雰囲気は移転見送りが現実味を帯びてきたようにも感じられました。

深まる一方の闇、手詰まり感も徐々に色濃く

小池知事は2016年11月に予定されていた豊洲移転を延期しました。

都は移転を想定せず、築地市場を1年間運営することを前提として市場会計当初予算を計上しました。その間に盛り土問題や移転にまつわる闇を解明する方向だったわけです。

移転を推進してきた石原慎太郎元知事や都の幹部を“悪役”に見立てる演出は成功しましたが、闇の解明は十分にできたといえません。

それとは別に都の検査で明るみに出た地下水の汚染は、過去の検査に対する疑念を都民に生じさせ、これまでのところ闇が余計に深まったようにも見えます。

移転延期による損失は1カ月で4億円以上といわれます。都は業者の損失補てんのため、2017年度補正予算に50億円を計上する方針を明らかにしています。どこかの段階で何らかの決断をしなければ、こうした余分の費用がかさむ一方です。

築地市場の跡地を通り、2020年東京五輪の会場や選手村を結ぶ計画の環状2号線整備にも、大きな影響が出ています。できるだけ早い時期に結論を出す必要があるのに、手詰まり感が漂っているのも事実なのです。

都議選を控え、注目される小池知事の決断

7月には東京都議選の投開票が控えています。

小池知事は地域政党の「都民ファーストの会」を率い、公明党などと連携して都議会議席の過半数獲得を目指す勢いです。

民進党から離党者が相次ぎ、都民ファーストの会への合流が続く一方、民進党の支持母体でもある連合東京も都民ファーストの会の一部候補者を支援する方針です。

都議選では当然、築地市場の移転問題が大きな争点となるでしょう。小池知事としてはそれまでに何らかの新しい方向を打ち出し、都民の支持を取りつけたいところです。

今回、小島座長から示された改修案と豊洲移転案は、そのための選択肢となります。ただ、小池知事は豊洲か築地かで大いに頭を悩ませているはずです。
闇の解明が遅れる以上、すんなりと豊洲へ移転できないものの、築地へとどまるにもそれを正当化する理由が求められます。

市場関係者の意見も豊洲移転派と築地残留派で対立しています。意見交換会で築地市場の改修案が打ち上げられた背景には、世論の動向をうかがいながら、どちらに事態が転んでも対応を正当化できるよう周到な準備を始めたのかもしれません。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。