神戸製鋼所のデータ改ざん、再発防止策はどこまで進んだか?

企業不祥事の典型的な事例としてヤリ玉にあがった神戸製鋼所のデータ改ざん問題。今年3月に外部調査委員会の報告書が出された後、再発防止策の進捗状況がこのほど明らかになりました。再発防止策はどこまで進んだのか、神戸製鋼所のデータ改ざんの原因や再発防止策の今後の見通しなどを探ってみました。

データ改ざんに3つの要因

今回の神戸製鋼所データ改ざんの要因としては、さまざま見方、要因分析がなされていますが、大きくは3つの要因によると見られます。1つは収益評価に偏った経営と閉鎖的な企業風土です。これは、神戸製鋼所に限った要因ではなく、不祥事を起こした企業には共通して見られるといえます。企業が厳しい競争環境の中で利益を上げていくためには、従業員の成績を収益実績に置き換えて評価するのは、ある意味でやむをえないと思われます。

収益部門に直接携わっていない従業員についても、会社全体の収益が上がっている場合は比較的評価は緩やかであり、収益環境が厳しくなると厳しい評価がなされます。こうしたことは、生産現場の工場についてもいえるのです。

神戸製鋼の場合、工場での収益が上がっている限りは、品質管理がおざなりになっていたのではないかと見られます。そこにデータ改ざんの生まれる要因が醸成されていたといえます。つまり、会社の利益が上がっている限り、品質管理面での問題をそれほど厳しく問わないと言う、上層部の考え方があったといえるでしょう。

事実、外部委員会の報告書でも

「本社経営部門による事業部門への統制が、収益評価に偏っていたことから、経営として工場において収益が上がっている限りは、品質管理について不適切な行為が行われているような状況にあるか否か等、工場での生産活動に伴い生じる諸問題を把握しようと言う姿勢が不十分であった」と指摘しています。

非常に回りくどい表現ですが、ポイントは収益重視の経営の姿勢に問題があったというわけです。

閉鎖的企業風土については、経営トップが企業内の批判的意見を封殺するというより、収益重視の姿勢のため、品質管理面における社内体制を現場にまかせっきりにし、他の部署との連携や社内のコミュニケーションが取られなかったことが閉鎖的風土を醸成したといえます。

2つ目の要因は、品質管理において、製品の品質が社内基準に合致するかどうかというより、顧客からクレームを受けない対応、つまり基準の変質が常態化したことがあげられます。言葉を換えれば、顧客からクレームを受けない範囲で改ざんが行われたということです。

3つ目の要因は、こうした品質管理における社内体制を組織としてチェックできなかったと言う点です。組織が巨大になり、高度化すればするほど各事業所の専門性が強く、裁量権が大きくなるのはやむを得ません。そのため、トップや社内上層部の目が届きにくくなっていたことは事実です。外部委員会の報告書も「品質管理が十分行き届かなかったどころか、アルミ・銅事業部門の直轄組織である企画管理部、技術部には品質管理機能が無きに等しい状況だった」と述べています。

今回明らかになった再発防止策の進捗状況については、こうしたデータ改ざんの要因を踏まえて、神戸製鋼所がまとめたもので、かなり具体的な対策が進んでいます。

例えば、以下のような対策が評価されています

  • 品質ガバナンス体制の構築に関し、企業理念の浸透のため社長による対話活動を実施してきた
  • 新たにコンプライアンス統括部を設置し、グループ全体のリスク管理強化に向けた施策を実施している
  • 2018年2月に品質管理憲章を制定した

また、品質マネジメントの徹底について、品質統括部を設置し、あらたに「品質ガイドライン」を制定したこと、品質にかかわる社員教育の実施なども再発防止策として取り組まれています。

成果をあげるための検証が必要

再発防止策は、それなりに評価できるものの、肝心なことは、これら再発防止策が実際にどの程度の成果をあげることができるのか、と言う点でしょう。再発防止策は単なるお題目で終わってはなりません。もちろん、再発防止策はまとめられてから日も浅いので、成果が出るのはなお時間がかかるかもしれません。しかし、現在の時点でも直ちに検証が可能なことはあるはずです。

例えば、2018年2月に制定したと言う品質憲章。それを社員がどの程度理解し、実際の業務に活かしているのか、アンケート調査などによって社員の意識を確認することはできるはずです。

また、品質保証体制を見直すとした点。これについても、具体的にどのように見直し、どういう体制を進めていくのか、本社だけでなくグループ会社全体にも進めていくのかなど、再発防止の進捗はむしろ、これからが本番です。

企業の不祥事では、トップはいずれも「再発防止策」を口にします。しかし、それにもかかわらず、不祥事は後を絶ちません。同じ企業が2度、3度、不祥事を繰り返すケースさえ見られます。再発防止策がその場逃れのお題目に終わらせず、不祥事根絶のための原動力になることを期待したいものです。

日産、神戸製鋼は何を間違えたのか (毎日新聞出版)

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。