安倍政権は外国人労働者の受け入れ拡大を進めており、これが事実上の移民受け入れではないかと、注目を集めています。ヨーロッパなどでは外国からの移民が働いているのは普通のことです。しかし、日本で移民と聞いてもピンと来ない人が多いのではないでしょうか。
移民と外国人労働者はどのように違い、政策的にどのように位置づけられているのでしょうか。日本の移民政策の課題と今後の見通しについて解説します。
移民とは?外国人労働者とは?その定義
「移民」と「外国人労働者」は、明確に異なる区分です。国や地方によって若干の違いはありますが、移民とはある国に国籍を移し、永住する人のことを指します。これに対して外国人労働者とは、出稼ぎなど短期間の労働を目的として外国から移住する人のことです。日本では移民について厳密な定義はされていませんが、このような区別で理解しておけば問題ないでしょう。
外国人労働者の代表例としてよく話題になるのが、外国人技能実習生です。これはもともと、日本の農村や工場などで外国人の研修生が働きながら技術を学び、本国に技術を持ち帰るという制度です。しかし、この制度で来日した実習生は、実際には低賃金の労働力として使用されているとして批判もされてきました。
外国人労働者の代表例としてよく話題になるのが、外国人技能実習生です。これはもともと、日本の農村や工場などで外国人の研修生が働きながら技術を学び、本国に技術を持ち帰るという制度です。しかし、この制度で来日した実習生は、実際には低賃金の労働力として使用されているとして批判もされてきました。
働くことを目的として来日する外国人としては、出稼ぎに来る留学生も多いことが知られています。ただし、留学生は働ける時間が週当たりで制限されているなど、働くことで生活賃金を稼ぐことはなかなか厳しいのが実情です。日本語学校に通いながら働く留学生は、学費などがかかるために生活が苦しくなりがちであるため、日本政府による公的な補助金の必要性なども指摘されています。
外国人労働者数過去最高 外国人頼みの現状
このように、外国人労働者は日本においてなかなか苦しい立場におかれているのが現状です。しかし、日本国内でも少子高齢化などの影響で人手不足は深刻さを増しており、外国人労働者に頼らざるを得ない状況になっています。内閣府の統計によると、外国人労働者の数は2012年から2017年にかけて約60万人増加し、過去最高の水準となっています。
先ほど解説した外国人技能実習生も、受け入れ枠の拡大が進められています。ただし、移民と違って外国人労働者はあくまで短期間の労働が目的なので、非正規雇用などの一時的な埋め合わせに利用されることが多くなります。実際に、今年に入ってから拡大された技能実習生の受け入れ先も、介護などの人手不足が深刻な業界にスポットが当てられています。
技能実習生制度においては、低賃金労働の問題だけでなく、そもそもアジアの貧困層の労働者が借金を抱えながら日本に来ていたり、過酷な労働環境に耐えかねて実習先から逃亡したりといった問題が多発しています。元来の制度の理念に反して安価な労働力として実習生が利用されるなかでこうした問題が起きていることを考えると、移民労働者の雇用環境についても慎重に考える必要がありそうです。
ドイツの苦悩 安い賃金で働く優秀な労働者
移民大国のドイツでは、多くの外国人労働者が重要な労働力として産業に従事しています(なお、ここでは定義上の「移民」と「外国人労働者」を厳密に区別しないことにします)。ドイツが高度経済成長期に入った1950年代から、イタリアやポルトガルの労働者がドイツに流入してきました。しかし、現在は高い技能やスキルを持った外国人労働者が低賃金で働いていることがドイツ国内の深刻な社会問題になっているのです。
ドイツ連邦統計局によると、全産業に占める移民の割合は約20%であるのに対し、商業、輸送、宿泊、飲食サービス部門では約25%、工業部門では約23%と、サービス業では移民労働者の割合が相対的に高くなっています。サービス業は全体的に平均賃金が低いため、多くの移民労働者は低賃金労働に甘んじていることがわかります。
ドイツの場合は労働組合による賃上げの運動や労働環境の改善に関する交渉が日本と比べて盛んであるため、外国人労働者であるからといって直ちに過酷な労働環境におかれるわけではありません。しかし、実際に移民が基幹労働を担うことは少なく、本国出身者に比べて劣った労働条件を強いられているのが現状といえそうです。
「移民ではなく、外国人労働者」という詭弁
実は、これまでの日本には厳密な意味での「移民政策」は存在してきませんでした。安倍政権が取り組む移民政策についても、外国人技能実習生の場合と同じように、移民が安価な労働力として酷使されるのではないかという批判がなされています。移民と外国人労働者には定義上の違いこそあるものの、人手不足に対応する労働力という意味では本質的に変わりません。
入管法改正の方針では、いわゆる「単純労働」とされる、建設や農業といった分野に大量の外国人労働者を受け入れることが想定されています。一定の在留資格を満たした外国人労働者は5年、ないし10年にわたって日本に定住することになりますが、仮にそれだけの期間を日本で過ごしたとしても、日本国籍を持つ移民とは異なる扱いになります。
こうした場合に、彼らが「移民ではなく、外国人労働者である」という法的な状態は非常に複雑な問題を引き起こします。一定の期間を日本で過ごせば生活基盤が確立するわけですから、本国へ帰ろうと思ってもなかなか難しいでしょう。しかし、日本に定住しようにも法的地位が認められていないわけですから、労働においても生活においても不安定な立場におかれてしまうわけです。こうした問題は、移民政策を議論するうえで欠かせない視点です。
移民政策、外国人労働者の未来、日本の未来
現在の日本における深刻な人手不足に対応するためには、外国人労働者の受け入れ拡大や移民政策の実行が不可欠です。とはいえ、単に労働力不足を解消する目的で受け入れを拡大したのでは、労働環境のトラブルなどが頻発することが容易に予想できます。そこで、外国人労働者が労働問題に直面した際に、相談できる機関が必要になってくるでしょう。現在も一部の労働組合やNPO団体が外国人の労働問題を支援していますが、言葉や文化の壁を乗り越えながら労働問題を解決するのは困難なことなので、より手厚い支援が求められます。
また、外国人労働者の受け入れにあたっては外国人参政権についての議論も欠かせません。現在、日本では日本国籍者のみに参政権が与えられていますが、これを国内在住の外国籍者に拡大することも検討が必要となるでしょう。多くの先進国では国籍を問わず国内在住者には参政権が与えられていますし、個人の事情による二重国籍についても柔軟な対応がとられています。
グローバル化が進展する将来に向けて、日本は外国人に対する現在の向き合い方を大きく変えなければならないかもしれません。外国人労働者や移民にとっても日本が住みよい国になるよう、政策議論が待たれます。