「現代日本でも奴隷制度が横行している!!」といった刺激的なフレーズで注目されている外国人研修生ですが、余り詳しくない方も多いと思います。彼らは報道されているように本当に奴隷のような生活をしているのでしょうか。
外国人○○生は2つある
外国人が日本で就労する形態にはいくつかあります。各種専門職の就労ビザの他に一般ビザとして研修や技能実習というものがあります。
今回関係するのはこの研修ビザと技能実習ビザで来日した場合の外国人です。
まず、外国人研修生と外国人技能実習生の違いを把握しておきましょう。
研修生というのはほぼ学生のような身分で、労働というよりは勉強を目的としています。対して技能実習生はほぼ労働者で、社会保険にも加入することができる身分を指します。
ところが2010年の7月1日からは技能実習生1号・2号という区分けになり、研修生という身分は消滅しました。そのため、誰もが労働者として日本に来ることになったのです(研修ビザはまだ存在しますが、今回のような件では技能実習生1号に置き換わったと考えて良いようです)。
実は外国人について「奴隷じゃ!日本は恐ろしい国じゃ!」と言えていたのはこの研修生制度廃止前の話でした。
研修という身分には労働賃金の取り決めや社会保険に加入する義務といったものが皆無だったので、企業側は低賃金で働かせることができたのです。
しかし今や外国人研修生は最低賃金や残業代を払わなければいけない身分である技能実習生になりました。そのため「奴隷やばい日本やばい」といった事はもう言えない状況なのです。
労基法違反率が高い高すぎる大変だ
しかしこういった話は中々収まるものではありません。「外国人実習生の受入事業所の76%は労基法違反」という記事があります。やはり日本はやばい国なのでしょうか。
労基法違反と言っても色々な違反の項目があります。安全衛生関係、労働時間、残業代不払い、賃金不払い、最低賃金に満たない、等々の項目があるのです。
そこで76%労基法違反の根拠になっているっぽいこの資料を読んでみましょう。
参考:「外国人技能実習生の実習実施機関に対する監督指導、送検の状況(平成26年 厚生労働省)
違反率の最も高いのは25.8%の労働時間についてですね。他に安全基準23.5%、残業代不払い17.8%、賃金の支払12.4%と続きますが最低賃金は2.0となっています。
ここで義憤に燃える方もいると思います。ですがもうちょい待って下さい。
下の資料は日本企業の労基法違反の統計です。
違反率を見ると70%を超えているのが分かると思います。労働時間違反の割合を計算してみると、労働違反事業者数÷実施事業者数=約27.3%となります。外国人実習生の状況よりひどいですね。あれ日本やばいんじゃ…。
3年から5年への延長は妥当
外国人実習生と日本人労働者というのは統計で見た限り、同じぐらいひどい扱いを受けているようです。確かに「時給300円!!奴隷!!日本やばい!!」といった目立ったニュースには注目が集まりますが、それはほんのごく一部の例というのが正しいところでしょう。
大体は日本人と同じようにこきつかわれているだけなのです。
国会で「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」が提出されました。問題が無ければ可決するでしょう。
この法律案のポイントは、外国人研修生の受け入れ期間を3年から5年へと延長するというものです。
本来外国人研修生というのは海外貢献が目的だったはずなのですが、こうなるともう労働力の受け入れですね。先の統計を見る限り、8割近くは賃金も残業代も払われています。また、9割以上が最低賃金を守っています。ほぼ適正に運用できているので期間延長は企業側と実習生側の両者にとって嬉しい話です。これから少子高齢化が深刻化すれば更なる期間延長やビザ取得条件の緩和が進むでしょう。
多民族国家に備えた環境整備が必要
やがて日本は多民族国家になるかもしれません。国はそうした場合に備えて、外国人の生活環境の整備をするべきです。
具体的には各国のコミュニティの強化から始めてはどうでしょうか。
現在では市民レベルでコミュニティが作られていますが、国が少し支援するだけでも大分助かるはずです。外国人実習生も精神的な支えがあれば気持ちよく仕事ができるようになるでしょう。
また、日本人の持つ外国人への差別意識というのも一つの問題です。日本人は外国人と触れ合う機会がとても少なかったため、実体験が少なく直ぐに恐怖心や嫌悪感を抱いてしまいます。
極端な差別意識はヘイトスピーチという形でも表れるようになってしまいました。多民族国家を形成するためにはこうした点について対策をしなければなりません。これからの国の施策に注目が必要です。
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