AIを活用して食品ロスを減らす

まだ食べられるのに捨てられている、いわゆる「食品ロス」の多さが社会的な問題になっています。世界には、なお飢餓に苦しむ人々が多く存在するにもかかわらず、日本における食品ロスの多さは、各国の批判の的にもなっています。食品ロスを減らす取り組みは、農林水産省などの旗振りでようやく始まりつつありますが、先端技術のAI(人工知能)を活用した新しい取組が今、各国からも注目されています。

NECと日本気象協会が取り組む

AIを活用した食品ロス削減の取り組みを進めているのは、NEC(日本電気)と日本気象協会(JWA)です。この取組は、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」をベースにしたもので、技術群はバリューチェーン(付加価値を生み出す生産から加工、販売にかかわる一連の企業群)における需要予測結果、在庫情報や販売実績をそれぞれの企業と共有することで、バリューチェーン全体の需給を最適化し、作りすぎや品不足などを回避する事を目的とした技術です。この技術によって食品の需給ミスをなくし、ロスを減らす新たなデータ流通基盤(プラットフォーム)が作成され、関連企業はプラットフォームを利用することで、適正な生産・販売を行うことができるのです。

食品ロスの多くは、メーカーと販売事業者の需要予測のミスマッチによるといわれます。今回作成されたプラットフォームは、そうしたミスマッチをなくし、需要に対応した的確な供給を図ることによって、バリューチェーン全体での需給を適正なものにすることを目指しています。

お天気などの気象情報も不可欠

食品の需要予測に関しては、お天気や気温などの気象情報が不可欠となります。日本気象協会はこれまでの商品需要予測に関するコンサルティング実績をベースに、プラットフォームにおけるデータ解析の基礎となる気象データの提供や、それらを活用した商品需要予測サービスの提供を行っていきます。

NECと日本気象協会はこのプラットフォームについて、今年1月から飲料に関する需給適正化のための実証実験を実施しています。両者はこうした実証実験を通じて将来的に、日本気象協会が持つ気象データやデータ解析技術と、NECの持つAI技術を用いて、需要予測から需給計画、生産計画、さらには、発注計画や在庫配置などの業務システムとの連携を見据えたシステムの構築を目指す考えです。

これらのシステムは食品だけでなく、さまざまな商品の需給予測に利用することが可能です。今回のプラットフォームは、その第一弾として、食品のロス低減を目指し、食のバリューチェーン全体の最適化を図ることを目的として提供されます。

プラットフォームの仕組みとして、中核技術となるのは「NEC the WISE」ですが、この技術は、業務の遂行や意思決定に必要な予測分析の根拠を示すことが可能な異種混合学習などのAIが用いられます。異種混合学習は、ビッグデータに混在するデータ同士の関連性から、多数の規則性を見出し、分析するデータに応じた規則を自動で切り替えられる技術です。

分析精度を高めるため商品の販売に影響を与える外部要因、例えば、気象情報、人口統計、交通量などのデータについてもプラットフォームに用意されています。また、企業間のデータ連携に際してセキュリティを確保するため、金融機関等で採用されている匿名化加工技術や秘匿化技術なども採用しています。

NECと日本気象協会では、今回の食品ロス低減をめざすプラットフォームの提供を手始めとして、今後廃棄物問題や労働力不足問題など、企業間の連携が必要な社会的課題に対し、AIやIoT(モノのインターネット化)を活用したバリューチェーンのイノベーションによって、新たな社会価値を創造していきたい、としています。

世界では9人に1人が栄養不足

近年、食品ロスの問題は先進国における豊か過ぎる食生活の一方で、飢えに苦しむ途上国の人々が多いことから、世界的な関心事となっています。FAO(国連食糧農業機関)によると、世界の栄養不足人口は2017年現在、いぜん8億人と高水準であり、世界人口の9人の1人が栄養不足といわれます。発展途上国では、5歳になる前に命を落とす子どもの数は年間500万人といわれます。

農水省によると、日本における食品廃棄物の量(食品リサイクル法の規定による)は、平成26年度の推計で、事業系の廃棄物が339万トン、家庭系の廃棄物が282万トンの合計621万トンとなっています。事業系の廃棄物は、規格外品や返品、外食における食べ残しなどの合計で、食べることができるにもかかわらず処分されている食品を指します。家庭系の場合も、食卓における食べ残しや、直接廃棄する食品、野菜などを過剰に除去するケースなどを含みます。

日本における事業系と家庭系の食品ロスの合計量621万トンは、国連WFP(食料支援機関)による世界全体の食料援助量320万トン(2015年)の2倍近い量に相当します。日本の食品ロスの1年分を食料援助に回せば、飢えに苦しむ人たちの2年分を援助することができる計算です。

食品ロスの量を日本人一人1日当たりに直すと、約134g、お茶碗約1杯のご飯の量に相当します。毎日それだけの量の食料が捨てられていると考えると、改めて日本の食品ロスの大きさを感じないわけにはいきません。暮らしの中での食べ物の大切さを考えるとともに、企業にも、さまざまな技術を活用して食品ロスの削減に取り組んでもらうことを期待したいものです。

食品ロス統計調査報告(世帯調査)〈平成26年度〉

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。