コンビニなどの流通・サービス企業の人手不足が深刻化しています。人手を確保できず、倒産に追い込まれる企業も出かねない状況も懸念されています。そうした中で大学と連携し、早手回しに人材の確保をめざす企業が話題を集めています。産学連携を人材の“青田買い”に活かす戦略ともいえます。
最近の事例から、戦略の意義や取組の中身を探っていきます。
イオンが上智大学と連携
流通・サービス企業が大学と連携して人材の確保に乗り出すケースとして最近話題になっているのは、イオン(千葉市)です。去る6月29日、グループのイオンファンタジー、イオン銀行が、学校法人上智学院と産学連携協定を締結したと発表しました。上智学院は上智大学などを運営する学校法人で、グローバル化する世界の変化に対応できる人材の育成が産学連携の狙いとしています。
イオンは、総合スーパーやショッピングモールを国内外で展開する流通企業で、グループ従業員数は52万人にのぼります。同社はダイバーシティ(多様性尊重型)経営を目指しており、従業員や経営幹部には、民族、文化、宗教などにとらわれない多様な人材を登用することを基本としています。とくに流通・サービス事業では、事業展開地域や事業の内容そのものにグローバル化を求められており、それに対応できる人材の確保が早急な課題となっています。
同社では、そうした人材の確保や育成には、さまざまな国籍の人たちが交流することによって、新しいイノベーションを生み出すことが重要と判断。国際色豊かな上智大学と連携協定を締結することになったものです。
上智大学の学生には、イオングループの海外事業とりわけアジア地域を中心とする国々における事業で就業体験を積んでもらい、国際社会における適応力や創造的能力を養ってもらいたいとしています。
就業体験通じ、将来の人材確保
就業体験は、具体的には、まずイオン銀行で国内就業体験を積んでもらい、その後マレーシアの金融事業会社「イオンクレジットサービス マレーシア」で就業体験を実施します。「イオンファンタジー」では、国内での就業体験後、フィリピンのエンターテイメント事業会社「イオンファンタジー フィリピン」で就業体験を実施します。
イオンでは、こうした上智大学学生による就業体験を通じ、国際的な視野を持つ人材の育成を図っていくことにしています。就業体験を積んだ上智大学の学生は、卒業後の進路はさまざまですが、卒業生の一部はイオングループに就職するとみられ、同社では就業体験を経験した卒業生の入社を大いに歓迎しています。
同社は上智大学と「シハヌーク・イオン博物館」を共同でカンボジア政府に寄贈したり、イオン社員の上智大学への国内留学を実施するなど、緊密な連携を重ねています。また、上智大学の留学生に対する奨学金支援なども行っています。
グリーンサービスは京都大学と連携
フードサービス事業を展開するグリーンサービス(東京・西新宿)は、先ごろ京都大学と連携し、インテグレイテッド・ホスピタリティ事業を推進することにしています。インテグレイテッド・ホスピタリティ事業というのは、京都大学の教育プログラムに基づく新しい経営サービス事業で、さまざまな「おもてなし経営」、接客方式やグローバルな活動能力などを高めることを目的としています。
京都大学の教育プログラムは「インテグレイテッド・ホスピタリティ教育プログラム」と呼ばれ、2017年度の経済産業省の産学連携サービス経営人材育成事業のプログラムの一つとして採択されました。近年、各国で注目されている「日本型おもてなし経営」を実践する教育プログラムであり、企業にとっては、サービスの生産性向上や地方再生、さらには国際競争力を向上できるなどのメリットが期待されています。
グリーンハウスは、企業・オフィス、病院、工場などへの給食サービス、レストラン、デリカショップの経営やホテル・旅館の経営受託など、幅広い事業を手がけています。フードサービス事業が今後さらに多様化するとともに、そのための人材確保が重要な経営課題となっていることから、京都大学との連携に踏み切ったものです。
人手に多くを頼るサービスや流通企業では、人材の確保が最大の経営課題となっています。とくにコンビニ業界では、従業員不足が店舗の運営に支障をきたすという実態が明らかになっています。経済産業省の実態調査では、コンビニ加盟店の9割が「従業員の確保が出来ないと、店舗の運営ができない」としています。
コンビニをはじめとした、小売・流通・サービス企業では、従業員の確保だけでなく、将来の経営を担う次世代幹部社員の確保も、企業の死活問題となっています。流通サービス企業の事業を取り巻く環境は、消費者の嗜好の多様化や、IT化の進展、国内市場における競争激化などで、近年様変わりとなっています。そうした状況の中、企業として、次世代の経営者の育成・確保が経営を左右する重要課題であるとの認識が高まっています。大学との産学連携は当面の人材確保という視点だけでなく、長期的な経営者育成という観点からも強く求められています。