1年で140万円も負担!?日本の医療制度の現状と問題点

2018年、日本の医療費は1年間で約42兆円となっています。国民一人当たりにすると約35万円、4人家族なら約140万円もの負担です。この医療費は、今後も高齢化により増加する見通しで、政府の試算では2040年には約67兆円にも達する見込みとされています。

財政赤字が問題となっている今の日本において、今後も医療保険制度を現在のままで続けていくことができるのでしょうか。日本の財政と医療保険について考えてみました。

参考:厚生労働省ホームページ 2040年の政府の試算予測

借金の返済と社会保障で限界!?日本の国家予算の現状

2018年度の国家予算は約98兆円で、その内の約33兆円が社会保障費に支出されています。これは国家予算の約34%にも上り、支出のトップを占めています。2番目に大きな支出は公債費(借金の返済)で、約23兆円が支出されています。この2つをあわせると日本の国家予算の56兆円、約6割程度が使われていることになります。

一方の収入は、借金に大半を頼っている状況です。2018年の予算では約34兆円を国債(借金)に依存しています。税収は64兆円程度です。こうした財政赤字の状態は長い間続いています。身の丈にあった財政運営ができていないといえるでしょう。

つぎに支出と収入を比較してみると、税収の約9割を社会保障と借金の返済にあてる必要があることが分かります。社会保障がいかに大きな負担となっているかよく分かります。
仮に財政赤字をなくして無借金経営を実現しようとすると、社会保障を削減しない限り、残りの1割で教育、防衛、公共事業をすることが必要になります。日本財政の厳しい現状がよく分かります。

参考:財務省ホームページ 平成30年度(2018年)予算内訳

70歳以上の自己負担を拡大した効果は

では、日本の社会保障費の内訳はどうなっているのでしょうか。その内訳を調べてみると、医療費が12兆円、年金12兆円、介護3兆円となっており、社会保障費の大部分が高齢者にかかる費用が占めており、合計で約27兆円と全体の82%を占めていました。その中でも医療費は12兆円と年金とならび非常に高い水準となっています。

医療費は国民が病院にかかるときに必要となる負担ですが、大半が65歳以上の高齢者に必要な費用といわれています。このため、医療費の増加とともに高齢者負担の見直しが検討され、これまで何度か見直しがされてきました。

最近も現役世代と同程度の収入がある70歳以上の高齢者を対象に、医療費の自己負担額を拡大しました。医療費の割合が大きい高齢者の方にも一定の負担をしてもらおうということでしょう。

しかし、この見直しには大きな疑問があります。70歳以上の高齢者の方は現役を引退している人が大半です。ですので、年金と資産で暮らす人がほとんどだと思います。

とすれば、収入が現役世代と同程度という方は、ごく少数派ではないでしょうか。すなわち今回の自己負担拡大はあまり効果がないような気がします。

何か医療費負担が拡大する中、負担の大きい現役世代を納得させ、高齢者世代から不満がでてこないように考えたかのようにも思えます。

参考:財務省ホームページ 平成30年度(2018年)社会保障費内訳

身近に感じる医療費負担と給付の格差

そもそも医療保険の制度は、国民が健康保険に加入して保険料を支払うとともに事業主や国が一定の負担をすることで、病院での窓口負担を低く抑え、病気などになったときに皆で助け合うという制度です。基本的には、保険料で運営されるものですが、社会保障として国も一定の負担をしています。

この制度は1961年に国民皆保険制度として成立しました。1960年当時の65歳以上の人口に対する割合は約5.7%でした。一般的に医療にかかる費用が大きくなるのは65歳以上といわれていますので、医療にかかる費用も今より大幅に少ないものでした。

一方、現在の65歳以上の人口は27.7%です。制度ができた当時の5倍程度となっています。当然、医療費も跳ね上がっています。

ちなみに2018年の医療費負担は42兆円、国民一人当たりにすると約35万円になっています。4人家族だと140万円です。年収500万円の4人家族なら約3割も負担している計算になります。

そんなに負担しているのかと思う方もいると思います。私自身、ここ10年間の病院にかかった費用を振り返ってみても、10万円もかかっていないと思います。それに対し350万円も支払っている計算になるのですから、いくら助け合いの制度といっても、この格差には納得できない感じがします。

無理な制度を続けたツケ

確かに、過去に比べて高齢者の負担割合拡大や保険料の見直し等も行われています。また、医療保険制度が助け合いの制度で、自分自身が高齢者になったときのことも考えないといけないともいえます。

しかし、この制度ができた1960年と比較して現在は根本的に人口構造が大きく違います。制度として維持していくのが不可能に感じます。実際、現在の医療費負担を自分自身にあてはめてみると制度の不合理がよくわかります。

それでもこれまで医療制度が維持されてきたのは、利益を得る世代の顔色をうかがいながら制度を見直してきたからではないでしょうか。それでは何ら抜本的な解決にならず、結局、問題を先送りにしてきただけで、どんどんツケがたまってきたのではないでしょうか。その結果、日本の財政赤字は例年35兆円前後となり、国の借金は1087兆円にも達してしまったといえます。

社会保障は高齢者の制度?社会保障を本来の姿に

そもそも社会保障は国民の生活上の問題を解決するために国が行うものです。国が国民の最低限度の生活を保障し、人間として安心して暮らせる社会を実現するという考えのもとに生まれた制度なのです。本来は高齢者対策だけでなく、失業、生活苦、障がい対策などに幅広く給付されるものなのです。

今の日本の社会保障の制度では約80%が高齢者に割り当てられています。本来、社会において助けを必要とする人に平等に割り当てられるべき社会保障のほとんどが高齢者に割り当てられています。これは著しく不公平です。投票率が高く、短期的利益に対する投票弾力性の高い高齢者に利益を多く配分することが選挙戦略としては正しいのかもしれません。
しかし、働く現役世代の過大な負担と借金で維持するような現在の医療制度を今後も維持できる可能性は低いでしょう。

社会保障制度の本来の趣旨に立ち戻り、制度の抜本的な見直しが求められる時期にきているといえるのではないでしょうか。

2030年からの警告 社会保障 砂上の安心網

二宮憲志

二宮憲志

40代前半、滋賀県在住、男性、元公務員、元コンサルタント、現在はフリーランス。30代は仕事をしながら勉強に励み、政治学と経済学の学位を取得。日本社会の柔軟性のなさに日々疑問を感じながら、日本の政治と経済を考えています。「言葉で日本に振動を」、そんな気持ちで発言(政say)していきます。