政府が3年に1度の介護保険制度の見直しに合わせ、車いすなど福祉用具レンタル料の支援など要介護度の低い人向けサービス縮小を検討しています。さらに、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会では、サービス利用料の2割負担対象者を拡大するかどうかの議論が進んでおり、低所得者や地方議会から不安の声が出ています。
軽度者向け福祉用具レンタルを全額自己負担に
要介護度の低い軽度者向けサービスの見直しは、2015年6月に閣議決定された骨太の方針に記されました。
政府は2017年度に法改正し、2018年4月から介護報酬改定と同時に実施したい考えです。介護保険を利用してレンタルできるのは、歩行器、車いす、電動ベッド、トイレやベッドに設置できる手すりなど11種。車いすの場合、1割負担だと月数百円程度で借りることができ、大きな負担にならずに自立生活を送れています。政府はこうした福祉用具のレンタルについて、全額自己負担の方向で検討を進めているのです。
厚労省のまとめでは、2016年2月に介護保険で福祉機器をレンタルした人は全国で184万人いました。このうち、要介護度が低いとみなされる要支援1、2、要介護1、2の軽度者は、6割の114万人で、95億円の福祉用具貸与の給付費が支給されています。財務省はこの負担を減らそうとして全額自己負担を提唱しているわけです。
サービス利用料の2割負担対象者も拡大へ
サービス利用料の自己負担が2割となる対象者拡大の動きは、厚労省審議会で出ています。
介護サービスの自己負担割合は2015年8月、一定以上の所得があれば1割から2割に引き上げられました。しかし、厚労省は社会保障審議会介護保険部会に対し、自己負担額がはね上がると保険から一定額を払い戻す仕組みがあり、実質負担率が12.6%になるとして、2割負担の対象拡大を会議の論点に示しました。
今年8月の介護保険部会では、高齢者団体や福祉団体代表の委員から「サービス利用を遠ざけかねない」「毎月の家計に影響が大きい」などと反対意見が相次ぎましたが、年内に意見が取りまとめられる方向で、厚労省の意向をはねつけられるかどうかはまだ何ともいえない状況です。
増え続ける社会保障費抑制が政府の狙い
財務省や厚労省が介護分野で厳しい姿勢を見せているのは、人口減少と高齢化社会の進行で社会保障給付費が急激に増加しているからです。
国の借金は2015年度末で1049兆円に達しました。こうした厳しい財政事情の中、年金、医療、介護を合わせた社会保障給付費は、2000年の78兆円が2014年度の115兆円にはね上がりました。14年間で実に約40兆円も増えたことになります。今後はさらに増加を続け、2020年度に135兆円、2025年度150兆円に膨らむと予想されています。社会保障給付費を構成するのは保険料収入と国が不足分を補う公金支出。国の2016年度予算には32兆円が盛り込まれていますが、保険料収入が伸び悩んでいるため、国の支出は年々増え続けているのです。
政府の思惑は国の財政支出を抑えるため、国民負担をさらに高めようとしていることになります。
地方議会が政府方針に相次いで反発
しかし、政府の思惑通りになると、低所得者の生活が立ち行かなくなる可能性があります。
サービス縮小で要介護者の症状が悪化したり、介護現場の人材難が深刻化したりする不安がつきまとうからです。このため、地方議会が相次いで反対や懸念を示す意見書を可決しています。日本福祉用具供給協会のまとめでは、意見書を可決した地方議会は9月末までで全国22府県と125市区町議会に及びました。京都府や三重県、愛知県豊橋市、石川県金沢市、東京都板橋区などで、このうち、神奈川県議会は「低所得者層など弱者切り捨てになりかねない」と真っ向から政府を批判しています。症状の悪化が給付費のさらなる増加を招くことも考えられます。
自己負担の増加にやむを得ない面もあるでしょうが、年金暮らしの人ら低所得者への十分な配慮が盛り込まれなければ、国民の理解を得るのは難しいかもしれません。