憲法9条、そこまで変えたいですか?守りたいですか?

憲法改正について、何かと9条の改正が議論されています。しかし筆者には、それが財政規律条項導入などの論議の隠れ蓑にされている気がしてなりません。
何故かというと、憲法9条は改正してもしなくても、その効力はあまり変わらないと見ているからです。そのワケを、本稿では文言や経緯を整理しながら論じていきます。

導入、憲法9条論議への疑問

参院選を前に、その争点の一つとなりうる憲法改正について、ネットでは様々な議論が交わされています。
ただしその”議論”を見ていると、皆それぞれの前提知識がすれ違っているようで、あまり意見同士が噛み合っていないと筆者は感じています。

もっとも、SNSで見たその議論というのは憲法9条に関するものが大半でした。しかし筆者は、憲法9条については、改正するメリットもデメリットもあまりピンと来ません。
というのも、憲法9条は元々、強制力が弱いのではないかと感じるのです。
どういうことか。本稿では9条成立の経緯や似ている条約との比較を挙げながら、9条の実際を整理していきます。

マッカーサー原案から現在の憲法9条まで

では、原案からの経緯を辿ってみましょう。

①マッカーサー三原則・第二原則の現代語訳

国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、紛争解決のための手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも、放棄する。日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる。日本が陸海空軍を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が日本軍に与えられることもない。(wikipediaより引用)

②憲法改正草案(政府修正案)・第二章戦争の抛棄・第九条

国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。

第二項 陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。(wikipediaより引用)

②が、枢密院で可決され、芦田修正が施される前の憲法9条草案です。初めのマッカーサー三原則のものは、かなり具体的かつ厳しい言葉で日本の無力化を謳っています。ただその後は、自衛権の存在・行使を明文で否定する文言はなくなっています。全ての国は自国を守る固有の権利を有する、との国際慣習法の考え方が9条に埋め込まれていったのです。
また、衆議院での芦田修正も大きな転換点でした。芦田修正とは第90回帝国議会の衆議院帝国憲法改正小委員会で加えられた修正のことです。これで、現在の憲法9条が完成しました。

③日本国憲法・第二章戦争の放棄・第九条

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(wikipediaより引用)

振り返ると、マッカーサー原案の時と比べて、完成形の文言には「正義と秩序」「国際平和」など観念的なものが入っている一方、「さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも、放棄する。」の箇所は削除されています。
芦田均の言うところの「戦争抛棄、 軍備撤退ヲ決意スルニ至ツタ動機ガ、 専ラ人類ノ和協、 世界平和ノ念願ニ出発スル趣旨ヲ明カニセントシタ」(wikipediaより引用)という建前によって、自衛のための戦力保持の可能性は残してきたのです。
この修正が戦力保持の可能性につながると見たGHQは、9条とは別に66条2項で文民条項を挿入するよう日本政府に指示しました。

パリ不戦条約との比較

そしてもう一つ、憲法9条を読む上で欠かせないものがあります。9条と似た文言の条約が、既に存在していることです。それが戦間期に締結されたパリ不戦条約です。以下、関係する部分を抜粋します。

パリ不戦条約(現代語訳)第一条

締約国は、国際紛争の解決のために戦争に頼ることを非難し、相互の関係において国家の政策の手段としての戦争を放棄することを、各自の国民の名において、厳粛に宣言する。

第二条

締約国は、自分たちの間に起き得る、あらゆる論争や紛争が、いかなる性質であっても、またいかなる起源によるものであっても、平和的な手段以外によっては決してその決着や解決を求めないことに同意する。

芦田小委員会は、当時すでに発効していたパリ不戦条約参考にしたといわれています。
しかしパリ不戦条約のような、同じく戦争の放棄を謳った条約があっても、結局世界史から戦争は消えませんでした。

これらの憲法、条約、憲章であってもしっかりと法の抜け道は存在し、パワーバランスによって戦争に巻き込まれる可能性はいつだってあるのです。ちなみにパリ不戦条約は、ポーランドやトルコなどが加盟しており、現在も有効です。そして、加盟国の過半が集団的自衛権の代表例たるNATOに参加しています。何ともやるせないですが、これが現実です。

他の条項の改正論議にも要注意

つまり、突き詰めて考えれば、憲法9条自体には内外に戦争を強力に抑止していくほどの力は持っていません。9条の拘束力はいざという時には案外弱いのではないでしょうか。これまで70年以上にわたり日本が平和であったのは、世界史の成り行きと日本外交の成果、これに尽きるのでしょう。

以上から筆者は憲法9条について、改正するとかしないとかの議論には、少し不毛さを感じています。
他の条項の改正論議の隠れ蓑に憲法9条が使われるのではないか、そんな気さえしてきます。実は、財政規律条項挿入の是非など目立たない所に本当の論点があるのかもしれません。憲法改正についてはよくよく議論を吟味して、後悔のない選択ができるように準備しておく必要があります。

浅枝ゆう

浅枝ゆう

24歳男、東京都在住、現在転職活動中。大学在学中から政治全般に興味を持ち、ツイッターでは与野党関係なく国会議員や地方議員をフォローしている。

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