将来起こるかもしれない憲法改正について、自民党憲法草案を絡めながら説明しています。その自民党憲法草案は、現実的で理解出来る点と、危なっかしい点が同居しているので、このまま改憲案にするのはどうかということと、これはあくまで改憲案の試案なので、これがそのまま改憲案になるわけではない点を述べています。
改憲案の軸になる案、それが自民党憲法草案です。
2016年参議院選挙の結果、いわゆる改憲勢力が衆議院、参議院の3分の2を確保したことによって、憲法改正が現実味を帯びてきました。しかし、憲法のどこを改正すべきなのか、また、すべきではないのかについて、改憲勢力の足並みは揃っていません。
将来どのように憲法が改正されるのかは誰にもわからないのですが、少なくとも、将来の憲法改正のヒントになるものがあります。それが、現在与党である自民党が作った「自民党憲法草案」です。
もちろん、憲法改正は自民党だけで出来る仕事ではないので、この憲法草案が、そのまま改憲草案になることはありえません。しかし、議会で多数を占める自民党の改憲草案が、改憲案の軸になる事は確かです。その自民党の憲法草案は、今の日本国憲法とどこが違うのが、それを、これから見ていきましょう。
自民党憲法草案の良い点と悪い点について
結論から言うと、自民党の憲法草案は、今の日本国憲法と比べて大きく変わっているわけではありません。少なくとも、日本国憲法と大日本帝国憲法のような、大きな違いはありません。ただし、何から何までまったく同じと言うわけではなく、相違点がいくつかあります。
そのうち、もっとも注目すべき点が憲法9条です。現在の日本国憲法では、戦争放棄、陸海空軍を保持しない、国の交戦権を認めないと書かれていますが、自民党改憲草案では、このうち戦争放棄はそのままですが、陸海空軍(国防軍)を保持する、国の交戦権を認めないが自衛権は別、と微妙に変更が加えられています。確かにある程度の規模の国が、軍を持たず自衛権すら否定するというのは無理があるので、この点は、現実に即した憲法草案ということで、評価出来ます。
しかし、自民党憲法草案は評価出来る点ばかりではありません。これはとても評価出来ない、というような条文が、この憲法草案にはいくつもまぎれています。その中で最たるものが、憲法12条です。
現在の日本国憲法では、この憲法が国民に保障する権利を乱用してはいけない、その権利は公共の福祉のために使いましょう。と書いてあるのに対し、自民党憲法草案には次の一文が追加されます。
「自由と権利には責任と義務が伴います。常に公益及び公の秩序に反してはなりません」
この条文の恐ろしいところは後者です。公益及び公の秩序に反してはいけないと書いていますが、何が公益及び公の秩序に反するのか、誰にもわからないのです。
例えば、反政府デモは公の秩序に反するのでしょうか。政府の方針に反対することは、公益に反するのでしょうか。政府の方針が公益を守ることであるならば、それに反対する事は公益に反するということになります。ここまで露骨な解釈を今の自民党がするかどうかはわかりませんが、将来の政権与党がそういう解釈をして、「公益」を守ろうとする可能性があります。
このように、自民党の憲法草案には、解釈によっては危険な事になりかねない条文がいくつもあります。このまま自民党憲法草案を改憲草案にするのは、いかかなものかと思います。
あくまで、自民党憲法草案は憲法改正案のたたき台に過ぎません。
もっとも、憲法改正という重大な事が国会で論議されないはずがないので、この、憲法12条のような「怪しい」条文は徹底的に叩かれるでしょう。そうして、色々な政党によって叩かれた結果、憲法改正案が出来るので、今の自民党憲法草案のような危なっかしいものが、そのまま国民投票にかけられることにはならないでしょう。その点では安心することが出来ます。
そして、そうして出来た憲法改正案を審議するのは国民です。この国民投票で否決されたら、憲法改正は出来ないのです。そう考えると、この国民投票は極めて重要なプロセスとなります。
出来た憲法改正案に賛成にせよ反対にせよ、その意思は投票と言う形できっちりと示さなければなりません。憲法改正という重要な事を国民が投票で決めること、それこそが、国民主権であり民主主義なのです。