「憲法違反ですけどね、まあ良いじゃないですか」~憲法軽視の中での論議~

憲法の重要な役割は立法に制限を設けることで、法律自体の有効性を問うもの、そして法律の適用や運用の有効性を問うものです。早い話が政治家がやりたい放題に振舞うことを防ぐため、理念に基づいた法治国家にするためということでしょう。そして今、安倍政権にとってこの憲法がやりにくくて仕方がない様子です。

憲法9条が邪魔で仕方がない

2013年7月自民党 麻生氏の発言より。
「憲法はある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。」
この後、麻生氏陣営では、民主主義を否定する意図ではなく、むしろかつてのナチスドイツのようなことが起こらないよう、冷静に憲法を考えるべきだとの趣旨だと釈明してます。

当時のドイツのナチス党は、経済政策を訴えて票を集めドイツの軍国主義化を図り、ワイマール憲法を無力化した政党です。
そして、安倍政権は経済政策を訴えて、邪魔な憲法を改正しようと図り…。どうやらあの手口によく学んだようです。
しかし、経済政策3本の矢のうち、国民には1本しか見えず、その1本も折れかかっているかのようです。

日銀の白川前総裁から黒田現総裁に交代後の、派手な金融緩和政策での円安誘導はマクロ的には経済効果はあったでしょう。巨額の赤字を垂れ流していた輸出企業が次々と黒字転換を果たしたのは確かです。
そこまでは良かったでしょうが、そこから先がどうも躓いているようです。安倍内閣はというと、「経済政策も頑張ったし、さあ憲法を改正しようよ!」とそちらの方に夢中なようです。

憲法は機能しているか?

憲法改正議論も色々あると思いますが、そもそも憲法自体が本当に有効に機能しているのか疑問に思えてなりません。
2012年の衆議院選挙では民主党から自民党へと政権交代がなされ、第2次安倍内閣が発足しています。その際の1票の格差が最高裁にて違憲状態との判決が出ながらも、選挙結果自体は有効という奇妙な判決が話題になりました。
司法が「憲法違反ですけどね、まあ良いじゃないですか。」と表明していることになります。この時の選挙を無効にすると、日本では政治的な停滞がどのように災いとなるか懸念もあったでしょう。

過去にも選挙にからんで似たような判決が出ています。1976年や1985年にも1票の格差から違憲ではあるが、選挙自体は有効との判決が出ています。
いずれも実情を鑑みて「違憲でも有効にしておくので、後で是正してね。」ということでしょう。

憲法は、「ごめんね。後で何とかするからね。」としておけば済む程度の軽さなのでしょうか。

また、民法で定めた女性の再婚禁止の期間が2015年に違憲との判決が出ました。民法と言えば、新しく施行されたものではなく、ずいぶんと前から民事の基本となってきたものです。
それにもかかわらず今頃になってやっと違憲の判決です。ということは、憲法に違反した法律がとても長きに渡って国民に課せられていたということになります。

誰かが年月と大金を注ぎ込んで、最高裁まで戦い続けて、ようやく憲法が物を言う…これで憲法は機能していると言えるでしょうか。

改正するなら機能する憲法に

安倍政権の憲法改正議論には、このような視点が全く欠けていますね。安全保障関連法案も日本弁護士連合会は立憲主義に反すると見解を述べています。
改憲派の弁護士、小林節・慶応大名誉教授も憲法9条に反すると述べています。集団的自衛権の是非だけが問題ではなく、憲法が軽んじられていることが根深い問題ではないでしょうか。

いつから「憲法の条文で都合の悪いものは軽んじてよし!」となってきたのでしょう。
もともと憲法には罰則規定がありません。道路交通法のスピード違反も駐車違反も罰則と取締りが強化されると守られる傾向が明らかです。

実際、罰則規定のない法律は守られない傾向が顕著です。罰則規定のない憲法はいずれさらに軽んじられて行くように思えます。

今、集団的自衛権に絡んでの憲法改正論議があり、「9条をどうするか?」に関心が集中しているのも、何か大事なことを忘れているように思えます。
そもそも憲法は安保のみならず、憲法がしっかりと機能するように抜本的に見直すべきものだと思います。

横山靖

横山靖

30代、男性、法学部卒業後、法律事務所で事務をやっています。日本が法治国家であり続けるにはどうあるべきかに関心があります。

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