省庁再々編?過去の省庁再編を振り返る

今年春頃から省庁再編成がかまびすしくなっています。省庁再編成といえば2001年に実施された橋本元首相による中央省庁再編が記憶に浮かびますが、それから20年近く、社会経済環境も大きく変わったというのが、今回の再編成の大儀名分です。前回の再編成からみると、今回は再々編成と言ってもよいでしょう。

なぜ今、再々編成がクローズアップされているのでしょうか?再々編成の背景とその中身、さらに過去の省庁再編や今回の再々編成への政権の思惑などを探ってみました。

自民党行革推進本部の通達文書がきっかけ

再々編成構想が表面化したのは、今年3月、安倍首相の直轄組織である自民党行政改革推進本部が各府省庁に通達した文書がきっかけとなりました。この文書には、社会経済状況の変化による新たな行政需要が生じており、それに対応した行政体系との整合性について、各府省庁の考え方を示してほしい、との趣旨が盛り込まれていました。直接、省庁再々編成について言及していないものの、ありていに言えば、社会経済環境が大きく変化しているので、それに対応した新たな省庁体系の枠組みについて各府省庁の考え方を聞きたい、ということです。

霞が関の官僚たちが真っ先に頭に思い浮かべたのは、「大儀名分は名分として、そのウラには、安倍内閣の長期政権への戦略が隠されている」という見方です。とくに財務省の内部には「前回の再編成と同様、再び財務省がやり玉にあがっている。財務省の解体を突破口として、再々編成を断行することで政権の長期化を狙っている」と言う見方が浮上しています。

橋本行革の成果の一つ

確かに2001年の橋本元首相による中央省庁再編は、行政改革を旗印に掲げ、省庁のスリム化、公務員の削減、予算の節減などをスローガンにうたいました。そして、その突破口となったのが、大蔵省(現財務省)に対する大ナタなのです。

当時、大蔵省は、銀行・証券などの金融機関による接待汚職が表面化し、国民の間にも厳しい批判が出されていました。これを契機に、橋本内閣は大蔵省から銀行・証券などの金融業務を分離・独立させ、金融庁を設置したのです。霞が関で最強の官庁といわれる大蔵省の権限は、これによって大きく削がれました。橋本行革の成果の一つとも言われました。

大蔵省だけでなく、他の府省庁にも大幅なメスをいれました。それまであった旧総理府、旧経済企画庁、旧沖縄開発庁はすべて内閣府に統合されました。さらに旧厚生省と旧労働省は厚生労働省に統合、旧自治省、旧郵政省、旧総務庁は総務省として統合されました。このほか、旧建設省、旧運輸省、旧北海道開発庁は国土交通省に、旧文部省と旧科学技術庁は文部科学省にそれぞれ統合されたのです。

行政改革を錦の御旗にした橋本改革は国民の支持もあり、それまでの1府22省庁から1府12省庁に、大幅な縮減しました。かなり大胆な省庁再編成を実行できたと言えます。

森友・加計問題の“見せしめ効果”狙う

今回の再々編成は、橋本改革から18年あまり、たしかに社会経済環境は大きく変わりましたが、ここにきて再々編成を実施する必然性は薄いと言う意見もあります。それにもかかわらず、自民党行政改革推進本部がその方針を固めているのは、一つには森友・加計問題から国民の目をそらせたい、と言う思惑があります。

昨年から今年にかけ、政府・自民党は国会でこの問題に振り回されてきたという苦い思いがあり、それに終止符を打つためには、当事者である財務省や文部科学省、さらには、不適切データ使用の厚生労働省などの組織改革を実行する必要があると判断したからです。

財務省の組織改革は、森友・加計問題で文書改ざんしたことに対する、いわば“見せしめ”の効果も狙っているようです。財務省の改革、とりわけ主税局・国税庁のいわば国民の税金を徴収・管理する権限を財務省から分離・独立させようと言う案が自民党行政改革推進本部で検討されています。

税の徴収から予算の配分までの権限を、新たに設置する歳入庁に移行させようと言う考え方です。しかし、それらの権限を削がれることは、財務省の存在意義がなくなるに等しいと官僚たちは考えているわけです。

厚生労働省に関しては、業務量が膨大になっているため、「年金・介護・医療」と「少子化対策・雇用・労働」の二つの業務に分割すべきだ、と言う案が、自民党内で議論されています。ただ、これについても、「橋本行革の意味がなくなる」と言う意見や、「役所の数や公務員の人数をふやすだけ」との批判も出されています。

今回の再々編成では、総務省や経済産業省なども対象に上っています。前回、総務省は2省1庁が統合されましたが、これについても業務量の多さが問題になっています。自民党内では、近年業務が増している情報通信分野について、それぞれの省庁から分離し、さらに経済産業省の情報通信部門も取り込んで、新たな組織を作る必要があるとの意見もあります。

省庁の再々編成は、それぞれの省庁についてさまざまな課題や問題点がありますが、政府・自民党としては省庁の再々編成によって、森友・加計問題などに終止符を打つと同時に、9月の自民党総裁選挙をにらんで、安倍政権の長期化の布石を打てるとの見方が多いようです。省庁再々編成には、官僚の抵抗などを考えると2~3年の長期スケジュールで取り組む必要があると判断されています。そのため、安倍首相は総裁選で3選した後、腰をすえてこの問題に取り組む決意のようです。

従来、各省庁に属していた幹部官僚の人事権はすでに内閣府が掌握しており、役所の抵抗が激しい場合は、人事権を行使して改革を断行することが予想されます。

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政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。