任期満了に伴う秋田県知事選挙が告示され、元参院議員で返り咲き4選を目指す寺田典城氏(76)=無所属=、新人で元県議の山内梅良氏(69)=共産=、3選を目指す現職の佐竹敬久氏(69)=無所属=の3人(届け出順)が立候補しました。秋田県は全国一、人口減少率が高く、高齢化も進んでいます。4月9日の投開票日に向け、人口減少、高齢化対策を最大の争点に激しい舌戦が始まっています。
全市町村で人口減少、県人口は戦前の水準に低下
2015年の国勢調査によると、秋田県の人口は102万3,119人。2010年の前回調査に比べ、6万2,878人減りました。国勢調査での人口減少は1985年以来、7回連続。県人口は第2次世界大戦前の水準まで低下しています。前回調査からの減少率は5.8%。東日本大震災の福島第一原子力発電所事故被災地を抱える福島県を抑え、全国の都道府県で最大を記録しています。
25市町村別にみても、全市町村が人口を減らしました。減少数が最も大きいのは、秋田市の7,786人で、次いで横手市6,170人、大仙市5,518人。減少率が最も高いのは、上小阿仁村、藤里町の12.7%で、男鹿市の12.1%、小坂町の11.8%と続きます。高校を出た若者が就職や大学進学で秋田県を離れ、宮城県や首都圏へ出たまま戻ってこないのが現状です。
人口減少の点で10年、20年先の日本の姿を先取りした地域が秋田県なのです。国立社会保障・人口問題研究所は、2020年に95.9万人と100万人の大台を割り、2030年に82.7万人、2040年に70.0万人と坂道を転がるように急激な減少が続くと予測しています。
大潟村以外の24市町村が消滅可能性都市に
65歳以上のお年寄りが全人口に占める割合を示す高齢化率も、33.8%に達し、全国の都道府県で最も高くなりました。全国ワーストワンは前回調査から2回連続。この5年間で4.3ポイント上昇して30%の大台を超えました。
これに対し、15歳未満の若年人口は前回の11.4%から10.5%、15~64歳の生産年齢人口は59.0%から55.7%に減少しています。高齢化率が市町村別で最も高いのは上小阿仁村の48.7%、最も低い秋田市でも28.6%を記録しました。
民間有識者でつくる日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)は2014年、20~39歳の出産適齢の女性人口を推計して国内のほぼ半数の自治体を消滅の恐れがある消滅可能性都市としました。秋田県は県都の秋田市を含めて24市町村が該当しています。
唯一、消滅可能性都市を免れたのは、八郎潟の干拓で誕生した大潟村。干拓地で大規模農業を進め、所得の高い農家が多いことから、出産適齢の女性人口の減少幅が小さくなっているようです。しかし、大潟村以外は人口減少と高齢化のダブルパンチが地域の明るい未来を閉ざしているように見えます。
コンパクトシティが失敗し、秋田駅前は閑散
人口減少と高齢化の影響は地域経済に大きな影響を与えています。
県と秋田市はJR秋田駅前が「県都の顔」であるとして、各種施設を集中させるコンパクトシティを推進してきました。その中核施設が複合施設「エリアなかいち」です。総事業費は135億円。うち、80%を公費で負担しましたが、商業施設の核テナントが撤退するなど思うような効果を上げられていません。多額の血税をつぎ込みながら、人口減少と郊外型ショッピングセンターとの競合で苦戦を続けているわけです。
経営破たんした青森県青森市のアウガとよく似た状況とされ、早くもコンパクトシティの失敗例に挙げられています。秋田駅西口ではいくつかの商店街振興組合が解散し、駅前は閑散としています。
企業誘致も高度経済成長期のように数百人の雇用を一社の誘致で得られる時代ではありません。県は2013年から2016年にかけ、航空機部品製造の山本精機など30社を誘致しましたが、若者の働く場所がないと嘆く声がしばしば聞こえてきます。
農畜産業では、ブランド米のあきたこまちやかづの牛、比内地鶏などが有名ですが、安い輸入品との競争が激化し、苦しい経営を強いられる農家が増えています。残念ながら、明るい兆しがあまり見えてこないのが実情です。
若者の人手不足が中小企業に追い打ち
人口減少と高齢化の進展が与えるもう1つの悪影響が若者の人手不足です。秋田県内の有効求人倍率は2016年12月現在1.27倍で、過去最高を更新しています。地域にとってはうれしい話題のはずなのですが、若い働き手、特に理工系、技術系の奪い合いが激化し、中小企業を中心に若手社員の定着率が悪くなりつつあるのです。
中小企業が大手並みの給与を出せば、経営が立ち行きません。かといって何もしなければ、労働条件の良い大手へ若手社員が流れてしまいます。特に若者不足が深刻なのは建設業界です。高齢者や女性を確保してしのいでいますが、人手不足で作業がはかどらないと頭を抱えています。
県は中小企業の底上げを図ろうと、「がんばる中小企業応援事業」などを通じて補助金を出しています。しかし、補助金だけでは十分な効果を上げられていません。人口減少と高齢化が産業を沈滞させ、さらに人口減少と高齢化が進むという悪循環に陥っているからです。
立候補した3候補は連日、県の活性化策について熱弁をふるっていますが、瀬戸際に立たされた県の苦境をどう打開するのか、有権者の注目もその1点に集中しています。