地方創生が叫ばれる中、地域振興策を生み出すのに外部の目を活用する例が増えてきました。地域の中に長く暮らしていると、貴重な地域資源の魅力を見落としてしまうことがしばしばあります。地方自治体の職員では気づかない地域の魅力を外部の目で発掘してもらい、地域活性化に生かそうというわけです。
首都圏の社員が塩尻の課題に挑戦
長野県中部にある交通の要衝・塩尻市。人口は約6万6,000人で、戦国時代に上杉謙信が武田信玄に対し、敵に塩を送った故事にちなんで名づけられたともいわれる地方都市です。
精密機械工業とワイン、高原野菜の産地として知られていますが、中心市街地の空洞化と高齢化、人口減少に苦しんでいます。
市が地域活性化のために設立したのが、地方創生協働リーダーシッププログラム。
情報サービス大手のリクルート(東京)、携帯電話大手のソフトバンク(同)と連携し、地域の課題解決を図るのが狙いで、市職員と両社社員約30人が「空き家対策」、「情報通信技術基盤の活用」、「新体育館の活用戦略」などテーマ別に5つのチームに分かれ、議論を進めています。
東京都内であった第1回会議では「空き家を改修した工事業者に家賃の一部が入るようにしてはどうか」、「体育館 を同世代交流の場にしよう」などの声が出たそうです。今後、参加者が現地視察をし、具体的な解決策を小口利幸市長に提案することにしています。
「青い池」のライトアップを提案
2014年から同様の活動を進めているのが、北海道上川地方のほぼ中央部に位置する美瑛町です。
町は人口約1万人。ジャガイモ、小麦など農業の町で、美し い丘陵風景がCM撮影のロケ地となり、「ケンとメリーの木」や「マイルドセブンの丘」で有名になりました。
美瑛町地域課題解決プロジェクトには、検索エンジン大手のヤフー(東京)、広告大手の電通北海道(札幌市)、飲料大手のアサヒビール(東京)などの社員に、町職員、地元JA、商工会、観光協会職員が加わり、半年ほどかけて町の振興策を練っています。
町内には絵の具を溶かしたような真っ青の池のバックに、立ち枯れしたカラマツやシラカバの木が並ぶ幻想的 な場所があります。米アップル社のパソコンMacの壁紙になっている「青い池」で、まるでおとぎ話に出てくるような自然の造形美で、人気上昇中です。1年目はこの青い池の夜間ライトアップが浜田哲町長に提案され、既に実行されています。
学生が地域振興イベントを開催
外部の若者の力を活用しようとしているのが、福岡県糸島市です。福岡市に隣接した人口9万7,000人の地方都市ですが、中心商店街の空洞化が長年、悩みの種になってきました。
市は毎年、九州大などの学生に参加してもらい、活性化プランコンテストを開いています。
これまでに東南アジアで多く見られる3輪自転車「トゥクトゥク」の活用、市内各所を会場とする国際芸術祭の開催などが提案されました。
さらに九州大は空き家プロジェクトも始め、中心商店街の空き店舗や古民家を地域の拠点に回収、学生らがイベントを開催して地域を盛り上げています。
苦境打開へ最後の期待
日本の人口減少と高齢化社会の進行は、世界中でかつてないほどの早さで進んでいます。首都圏を除く地方のほとんどが対応に苦しみ、懸命に地域振興策を模索しています。
しかし、学識経験者による審議会の発想やコンサルタント会社の計画は、どこかで聞いたようなものが多く、失敗を続けているのが実情。
そこで本格的に外部の目を導入し、地域の魅力を探し出し、活性化策を生み出そうとしているのです。
世の中を変えるのは「よそ者、若者、変わり者」といわれます。埼玉県川越市の蔵造りの街並み、兵庫県神戸市の異人館通りを見つけたのは、外から来た人たちでした。それをきっかけに市民運動が盛り上がり、観光名所に成長しています。苦境に立たされた地方にとって、外部の目こそが最後の頼みの綱なのかもしれません。