国鉄分割民営化から30年、甘い判断が招いたローカル線の危機

1987年4月に旧国鉄が分割民営化されてから30年。日本全国に鉄道網を張り巡らせていた旧国鉄はJR東日本、西日本など6つの旅客鉄道会社などに分割民営化されました。しかし、JR北海道や四国という経営基盤の弱い地域会社を創設した甘い判断が、ローカル線の危機を招いています。

政府の思惑を外した低金利時代への突入

旧国鉄分割民営化では、旅客鉄道会社を東日本、西日本、東海の本州3社と、北海道、四国、九州の3島会社に分割しました。首都圏や関西、東海道新幹線というドル箱路線を抱える本州3社は、2002年から2006年にかけてそれぞれ完全民営化を達成しています。JR九州も2016年10月、完全民営化にこぎつけました。全国一元気な街といわれる福岡市の人口増加に加え、不動産業、旅行業、ドラッグストア、居酒屋の経営、農業など幅広い副業の収入が鉄道事業を上回り、経営を支えたのです。

これに対し、政令指定都市の札幌市があっても、面積が広大なうえ豪雪地帯を多く抱えて保守点検費用がかさむJR北海道や、政令指定都市が1つもないJR四国は、深刻な経営危機に直面しています。分割民営化当時、政府はJR北海道と四国の経営が厳しくなることを十分に予想していました。そこで、経営安定基金を積み上げ、その利息の運用で赤字を補填しようと考えたのです。しかし、間もなく時代は低金利時代に突入します。政府の思惑は外れ、期待通りの果実を得ることが難しくなりました。両社は懸命に経費節約を進めましたが、そこへ急激な人口減少が追い打ちをかけます。北海道と四国は日本で最も人口減少の深刻な地域の1つ。過疎地域を走るローカル線が多くを占めるだけに、旅客数も人口減少に伴って少なくなっていきました。

JR北海道の経営危機は深刻、2020年に資金不足も

特に深刻な影響を受けたのがJR北海道です。北海道の人口がピークに達したのは1997年の569.9万人。2015年の国勢調査では538.4万人まで減りました。札幌市周辺だけが人口増加を続け、その分道東や道北地方から人口が流出しています。その結果、JR北海道は深刻な経営危機に直面しているのです。2015年度は運行している14路線すべてが赤字に転落しました。2016年度の営業赤字は過去最高の440億円と予想され、借入金の残高も2019年度に1,500億円まで膨れ上がる見込みです。今後も毎年300億円規模の資金不足が生じ、2020年度には資金不足により全道で列車の運行が不可能になるという試算が、北海道議会に示されました。このため、2016年には全営業路線の半分に当たる10路線、13区間(総延長1,237.2キロ)を自社単独で維持できないと判断しました。

このうち、石勝線・新夕張-夕張間16.1キロは、廃止してバス転換で地元の夕張市と合意しました。1日1キロ当たりの平均乗客(輸送密度)が200人未満の留萌線・深川-留萌間50.1キロなど3区間は、バス転換の方向で地元自治体と協議を進めています。輸送密度200人以上、2,000人未満の根室線・釧路-根室間135.4キロなど9区間は、駅や線路など鉄道施設を自治体が所有し、JR北海道は運行に専念する上下分離方式やバス転換を協議しています。うち、高波被害で2年以上前から運休が続く日高線・鵡川-様似間116.0キロについては、復旧を断念し、バス転換する考えを示しました。他の8区間は2020年春までに合意を目指す考えです。

しかし、これら13区間全線が廃止されると、道東や道北は札幌へ向かうごく一部の路線しか残らず、事実上の鉄道空白地帯になります。まさに地方切り捨てが始まろうとしているのです。

JR四国も人口減少で苦しい経営状態

JR四国は当面、今の路線を維持する方針ですが、四国の人口も坂道を下るように急減しています。2015年国勢調査では、4県合わせた総人口は384万人。2010年の前回調査に比べて3.2%の減。愛媛、高知の両県は全市町村で減少を記録しています。2005年には414万人が暮らしていましたから、文字通り減少の一途をたどっているわけです。しかも、2040年には295.5万人まで減ると推計されています。

JR四国の2016年度中間連結決算の営業収入は246億円。これに対し、営業費用は283億円に達し、37億円の営業損失を出しました。2016年度下期は設備修繕費の増加が見込まれ、通期ではもっと厳しい状況になると見込まれています。JR四国は路線別の収支を公表していませんが、全9路線のうち、黒字運行しているのは本州と四国を結ぶ本四備讃線だけとみられています。懸命の経費節減もほとんど効果を上げていないのが実情で、遠からずJR北海道と同じ状態に陥る可能性を否定できません。むしろ、政令指定都市が1つもない中、今までよく持ちこたえてきたというのが実情でしょう。

急ぎ検討すべき上下分離方式の導入

鉄道が消えると地域はどうなるのでしょうか。指摘されているのは、住民の暮らしが余計に不便となり、さらに人口減少の進むことです。1989年に名寄線が廃止された北海道紋別市は、当時の人口3万人が2万3,000人まで落ち込んでいます。徳島県小松島市は1985年に関西向けフェリー乗り場へ乗り入れていた小松島線が廃止され、フェリーがすべて港から消えました。人口も当時の4万4,000人が3万8,000人まで落ち込んでいます。人口減少から鉄道が廃止されると、さらに人口減少が進む悪循環を招いていることがよく分かります。

JR北海道と四国の苦境を打開するには、2つの方法が考えられます。1つはJR北海道と東日本、四国と西日本の合併です。もう1つは国や都道府県がローカル線の施設を保有し、上下分離を図ることです。上下分離は最近、日本でも話題に上るようになりましたが、欧米では当たり前になっています。鉄道も税金で維持する道路と同様に公共インフラだと考えられているからです。政府が本気で地方創生を考えているのなら、人口減少時代に即したローカル線維持の方策を急ぎ検討する必要がありそうです。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。