大阪が繁栄した昭和の夢をもう1度ということなのでしょう。大阪府が2025年の万国博覧会招致に向け、本格的に動きだしました。政府も本腰を入れて後押しする構えで、正式に立候補する意向です。成功すれば地盤沈下が深刻な関西経済に大きな弾みとなりますが、地元では冷ややかな声の方が多く聞こえます。
健康や長寿をテーマに世界の最先端技術を紹介
府の基本構想によると、万博の開催期間は2025年5月から10月までの半年間で、大阪府此花区で埋め立て工事が続く人工島「夢洲(ゆめしま)」が舞台になります。会場用地はざっと100ヘクタール。このうち、60ヘクタールほどにテーマ館や各国のパビリオンが建ち並ぶ計画です。
テーマは「人類の健康・長寿への挑戦」。中心施設のテーマ館では、未来の長寿社会を実感できる内容を紹介し、入場者が健康になる万博を目指しています。このほか、AI(人工知能)や先進医療技術を公開するとともに、伝統的な日本の住宅に健康増進技術を詰め込んだ「滞在型究極健康ハウス」、入場者が着衣のまま健康チェックできる「健康スマートタウン」なども計画されています。京都市の京都大iPS細胞研究所と提携し、iPS細胞が生み出す明るい長寿社会の未来も展示したい考えです。
70年万博は6400万人以上が入場、関西全体が好景気に
大阪万博は日本が高度経済成長期にあった1970年、大阪府吹田市の千里丘陵で開催され、大きな反響を呼びました。
テーマは「人類の進歩と調和」で、米国がアポロ計画で持ち帰った月の石、旧ソ連がソユーズ、ボストークなど宇宙船を展示、ひと目見ようと集まった全国の人たちが長蛇の列を作りました。カラーテレビが生まれたばかりで、インターネットなどまだ登場する気配もない時代です。展示されたものは大人から子供までみんなが夢をかき立てられるものばかりで、総入場者は6400万人以上に達しました。万博に合わせ、大阪市周辺は急速にインフラ整備が進みました。万博にやってきた観光客が落としたお金も莫大でした。
発展する日本、成長する大阪を象徴する出来事が1970年の大阪万博だったのです。当時を知る人たちにとって、夢をもう1度という思いが強くなっていることは間違いないでしょう。
財政危機の府にとって重い負担
現在の大阪を中心とした関西経済界は、主力の家電や繊維産業が不振で、暗い話題が後を絶ちません。人口減少が首都圏よりひと足早く始まり、東京へ本社を移す企業も少なくないのです。
この状況を万博で挽回するとともに、大阪五輪の招致失敗で活用方法の定まらない臨海地区の有効利用を目論んでいるわけですが、大阪府や大阪市の財政状況は多額の借金を抱えて安心してはいられない状況です。
特に大阪府は2016年度当初予算段階で6兆円を上回る府債発行残高を抱えています。2015年度決算の実質公債費比率も19%を超し、地方債発行に総務省の許可が必要な起債許可団体に転落しています。2009年には財政非常事態宣言まで出されているのです。万博開催に必要な予算は会場建設費で1200~1300億円、運営費で690~740億円、地下鉄の延伸など関連事業費で700億円以上が見込まれています。国や民間の支出はあっても、財政危機の府が簡単にひねり出せる額ではありません。府議会や府民の間でこの点に対する不安を指摘する声が相次いでいるのが現実です。
6兆円の経済効果に疑問の声も
府の基本構想で示された案で入場者がどれだけわくわく感を持つかも議論の分かれるところでしょう。インターネットのサイトを開けば、世界の最先端技術を知ることが簡単な時代です。全国の子供たちが月の石に胸を躍らせたのを再現するのは並大抵のことではないでしょう。
府は3000万人の入場、6兆円の経済効果を見込んでいますが、本当にそれだけの結果を残せるのかについては、疑問の声が出ています。
2025年の万博には、フランスのパリが立候補しています。招致競争でパリに勝てる保証はありません。招致競争で敗れれば、大阪五輪の二の舞です。府は夢洲を万博とカジノを中心としたIR(統合型リゾート)用地にしたい考えですが、1970年の万博を知る中高年層だけが盛り上がり、若い層は「昭和の発想の焼き直し」と冷ややかに受け止めています。この状態を打開するには官民合わせた関西の知恵の結集が必要でしょう。