世界ではポピュリズムが台頭しはじめています。フランスの国民戦線とアメリカのトランプ氏です。かれらの基本理念と政策とはいったいどのようなものなのでしょうか?では日本はどうでしょうか?ポピュリズムが台頭しているのでしょうか?あの人は果たしてポピュリストなのでしょうか?
現在の衆議院選挙制度の問題点について その1
皆さんご存知でしょうが、現在の衆議院選挙は小選挙区比例代表並立制で行われています。
これは全国の議席を480議席に分け、それを小選挙区300、比例区180に割り当てるものです。そして小選挙区では勝者である一人にのみ議席を与え、比例区では各比例ブロックごとに政党名を書いた得票に応じて議席が割り振られます。
それが現代日本の衆院選の選挙システムになりますが、このシステム、素人目に見ても大きな問題があります。
それは小選挙区の部分です。この小選挙区では勝者一人が議席を取るので、他の候補はたとえ1票差であっても議席を取れないのです。これは小選挙区で1位をとった人しか議席をとれないので、2位以下の人に得票した人の票が無意味になってしまうという問題もありますが、それ以上に深刻な問題があります。
その時勢いのある政党が勝ちすぎるのです。
現在の衆議院選挙制度の問題点について その2
現行の選挙システムでは、その時勢いのある政党が勝ちすぎてしまいます。近年の選挙を見ても、自民党、民主党、自民党、自民党と第一党が圧勝、その議席数は単独過半数どころか300議席前後も獲得してしまうのです。
ひとつの政党が勝ちすぎて他が全滅と言うような選挙ばかりになると、色々な問題が生じます。
まずひとつめは、真面目に地元を見て選挙活動を行う議員がいなくなることです。
何故そうなるのかと言いますと、この手の圧勝選挙では風の吹いたほうが勝ちます。
A候補が優秀で名声もある候補で、B候補がさっぱりだったとしても、風がB候補の属する政党に吹けば、B候補が勝つのです。
そんな状況が何回も続けば、真面目に選挙活動を行う者などいなくなります。それは当然です。「何をやっても風には勝てない」からです。
であるならば、地道な議員活動などはやめて日々を適当に過ごすか、公認権を持っている政党の有力者にご機嫌とりをして、少しでも印象を良くしようとするでしょう。
自分のやりたいことを(地元有権者の思いに関係なく)好き放題やるかもしれません。何故なら何をやっても結果は当落に結びつかないからです。
自分の当落も含め、全ては風で決まるのですから。そうなったら落選イコール運が悪かっただけ、当選イコール上の人が上手くやって風を吹かせたからになりかねません。そんな状況になれば議員の質がどんどん劣化して収拾がつかなくなります。
今の選挙制度を変えるしかないのではない
ではどうすればいいのでしょうか。
結論から言うと、選挙制度を変えるしかありません。
完全な比例制にするか、完全な中選挙区制にするのです。どちらの制度にしても、どこかの党が毎回圧勝するようなことにはならないでしょうし、風に任せてわけのわからない議員が当選するような事態も少なくなることでしょう。
もちろんどちらの制度も欠点があります。
完全比例制はどこかの政党が単独過半数を取ることが難しいことです。前回の選挙も、前々回の選挙も比例区では自民党は40%の得票率も取っていません。あれだけ圧勝した自民党でもこれなのですから、当然この選挙制度だと、常に政権は連立政権(それもどこかの政党が1強ではない連立政権)になります。なので政権が常に不安定になるでしょう。
完全な中選挙区制はそれよりマシですが、これにも問題があります。
元々日本は中選挙区制でしたが、派閥政治や金権政治が問題になったので政治改革の一環として現在の政治制度に変更した経緯があります。ゆえに中選挙区制度に戻すと昔の自民党のような派閥談合政治に戻るかもしれません。
しかし、それでも私は今の制度より中選挙区制のほうがマシだと考えています。すべてが風で決まってしまう選挙より、昔の派閥政治の方がマシだと思うからです。これを読んでいる皆さんは、どうお考えになりますか?
世界でのポピュリズムの台頭
皆さんはポピュリズムという言葉をご存知でしょうか。
ポピュリズムとは民衆の声を聞き、民衆を煽りながら 体制側やエリート層と戦う政治思想のことです。
このポピュリズムが今大きな力を振るっているのが、フランスとアメリカです。
フランスではポピュリズム政党、国民戦線が従来のフランスの右翼(源流はドゴール派)や左翼(社会党)の支配を脅かしています。だいたいフランスの有権者の2割弱から3割弱くらいが国民戦線の支持者であると言われ、前回のフランス地方選では大躍進しました。
この国民戦線、世間一般では(例えば日本の新聞やニュースなどでは) 極右、あるいは右翼と呼ばれますが、主要な政策は弱者保護、社会保障の充実、反EU、反移民(イスラム)です。
こうみると分かりますが、対外、対移民政策を除けば右翼と言うより左翼的な政策をとっています。それでも彼らは「極右のポピュリスト」と呼ばれフランスの政権から排除されています。
実際国民戦線が政権入りしたり、政権入りの交渉相手になったことは(つまり連立政権に入らないかと誘われたことは)私の知る限り一度もありません。
ですが彼らは独自の歩みを進め、近年では地方や中央の第一党を狙える位置まできたのです。
同様に今のアメリカではトランプ旋風が巻き起こっています。
各種世論調査で支持率にばらつきはありますが、彼が共和党候補の中で一番支持されていることは確かです。
そんな彼の政策は、貧困層への所得税免税に高所得者への増税、そして反移民(イスラムにヒスパニック)、中国などへの対外強硬姿勢、そして年金削減反対です。
これも対外、対移民政策を除けば 右翼と言うより左翼的な政策をとっているのです。この点はフランスの国民戦線と同じです。差別的ポピュリストとして叩かれている点も同じなのです。
今、世界の大国であるフランスとアメリカで同じような政策をとっている同じような政治勢力が同じような人気を誇っているのです。
日本ではポピュリズムに勢いがなく、ポピュリストがいない
では日本ではどうでしょうか。
日本でポピュリストというと皆さん、一人の政治家の名前が出てくるでしょう。前大阪市長橋下徹氏です。
でも、彼は本当にポピュリストなのでしょうか。
分裂してしまいましてが、かつての所属政党であった維新の党の前回の衆院選挙でのマニフェストを見てみましょう。
子細は省きますが、行革と改革のオンパレードです。この政党が改革が大好きなことが良くわかります。けど、それだけです。外交に関する記述は少ない上に強硬とは言えませんし、年金制度に関しては支給開始年齢を引き上げると書いてあります。さらに徹底した競争政策を行うとも書いてあります。
ところがアメリカのトランプ氏やフランスの国民戦線はそんなことはひと言も言っていません。
彼らは行政改革や構造改革とは言わないし、競争政策を徹底して行うとも言いません。それは当然です。徹底した競争をやれば一部の人間は勝ちますが、大多数の人間は負けますし貧富の差も拡大します。それは「ポピュリスト」のやることではないのです。
なぜならそれは一握りの勝ち組層を勝たせ、より貧富の差を広げる政策であって、ポピュリストイコール大衆主義者のやることではないのです。そのような社会では大多数の大衆が損をします。だからポピュリストはそのような競争礼賛政策を取らないのです。
ゆえに国民戦線もトランプ氏も、競争礼賛政策ではなくそれと真逆の政策をとっています。だからこそ彼らは「ポピュリスト」と呼ばれるのです。
しかし日本では国民戦線のような政策をとる政党、つまり国内的には左翼、対外、移民的には右翼の政策を取る政党がありません。そんな政治家(少なくとも力のある政治家)もいません。
つまり日本にはポピュリズムがなく、ポピュリストもいないのです。
日本にも国民戦線やトランプ氏のような、健全なポピュリストが必要なのではないでしょうか。