安倍内閣総理大臣は、日本国憲法を改正し「緊急事態条項」を新しく加えるとして、現在、否定派を中心に激しく議論がなされています。この緊急事態条項とは、国家緊急権として多くの国で採用されています。
簡単に説明すれば、大災害やテロ、戦争が起こった際、内閣の権限を強化させ、国民の人権には、基本的人権を最大限に尊重しつつも制限をかけ、国難にあたるというものです。
なぜ、この緊急事態条項に反対するのか?
反対派の多くは、緊急事態条項と全権委任法をイコールのものとして、反対の理由とする声があります。
全権委任法とは、ナチスが国権を握るために使用した法律です。この法律によりワイマール憲法を死文化させて、ナチスの独裁の法的な根拠としました。
つまり、反対派は自然災害という国難を隠れ蓑として、日本国憲法を合法的に停止させて、国民を統制下に置き独裁を敷き最終的に戦争遂行をするために、緊急事態条項を使用することが否定できない、というのです。
緊急事態条項と全権委任法はイコールなのか?
日本国憲法改正草案PDFが、インターネット上に公開されており、確認することができます。
【参考】
自民党日本国憲法改正草案(現行憲法対照)
自民党日本国憲法改正草案Q&A【増補版】
緊急事態条項にあたるのは、日本国憲法改正草案の第98条と第99条です。
そして、全権委任法である「民族および国家の危機を除去するための法律」についても調べるとすぐに見つかります。
この緊急事態条項と全権委任法の明確な違いは、ナチス党が発した法律は憲法に背くことを認めている点です。つまり、ナチスが発した法が、憲法そして国会に優越するのですが、緊急事態条項はそうではありません。
また、緊急事態条項を盾にして内閣が発した政令(法律と同等の効力)は、国会の追認が必要になります。国会が認めなければ、内閣が発した政令は取り消されます。
さらに、この政令によって身分により身体が拘束されること、表現の自由を奪われることはありません。
そして、なぜ内閣が政令を出したのか、内閣は国民に説明する義務をおいます。
客観的に見れば、緊急事態条項と全権委任法はイコールとはなりえません。
この緊急事態条項を改憲時に盛り込む自民党は、ナチスが権力を取る過程との意見も耳にしますが、見当違いです。緊急事態条項が独裁や国民管理の道ならば、先進国の多くが独裁体制になるはずです……。
緊急事態条項の問題点
もちろん、緊急事態条項に関しては問題もあります。
例えば、緊急事態を宣言した後、内閣は国会を通さずに予算を決定する力を持ちます。国会は追認の形で、予算案を廃案にした場合、既に支払われてしまった予算はどうなるのかというものです。
また、与党が国会の過半数を握っていれば、ある程度、緊急事態の際に内閣が好き勝手できてしまう危険性です。残念なことですが、現在の野党を国民の多くが支持していない、という現実があります。2015年12月に行われた合同世論調査では、野党第一党の民主党の支持率は9.4%なので、残念なことですが、このような疑念を抱いてしまう人もいるのです。
改憲は国民投票で決めます!
日本国憲法の改憲は、国民投票で決めます。もし緊急事態条項が独裁の手段であると危惧するのであれば、反対の一票を投じればいいのです。
「ナチス」や「戦争」、「独裁」といったワンフレーズから、何となく危ないもの? と怖がる前に「緊急事態条項」とは、果たしてどのようなものなのか、と原文に目を通してみることもいいかもしれません。