NHKから国民を守る党はNHKを本当にぶっ壊すの?

「NHKから国民を守る党」がなぜ議席を獲得できたのか?

2019年7月21日、令和初の大型国政選挙である第25回参議院議員通常選挙が実施されました。投票率は24年ぶりに50%を下回る、48.8%という結果で、有権者の関心がとても低い選挙でした。

低投票率の原因はいくつかあると思いますが、総じて「自分が一票を投じても何も変わらない」と考えた方が多かったからではないでしょうか? 実際、自民党、公明党が政権与党ですし、安倍総理が代わるということもありません。消費税も予定通り10%に上がるでしょう。

でも、今回の参院選で大きく変わったことがあります。政党要件を得た政党が2つ誕生したのです。山本太郎代表が率いる「れいわ新選組」と立花孝志代表が率いる「NHKから国民を守る党」(N国党)です。

れいわ新選組は比例代表で2議席、N国党は比例代表で1議席を獲得しました。

「れいわ」は代表の山本太郎氏がもともと現職の参議院議員(今回は落選)であり、そもそもNHK大河ドラマにも出演経験がある俳優さんですから、実績と知名度で、議席を獲得できたのも不思議ではありません。

ではN国党はなぜ、議席を獲得できたのでしょうか? ここではN国党が議席を獲得できた理由について考えてみたいと思います。

NHKのスクランブル化というワンイシューを掲げる政党

そもそもNHKから国民を守る党とはどんな政党なのでしょうか?

党首の立花孝志氏は、元NHK職員です。2005年にNHKの不正経理を内部告発しました。同年、NHKから不正経理で懲戒処分を受けNHKを依願退職という形で辞めています(Wikiより)。組織の不正経理を内部告発して、組織から不正経理で懲戒処分を受けるというのは、どうもキナ臭い話ですが、このあたりは事実関係がよくわからないので深入りしません。

立花氏はNHKを退職して8年後に政治団体「NHKから国民を守る党」を設立し、そこから政治活動を始めていきます。

N国党の掲げる政策は基本的には1つです
「NHKをぶっ壊す!」ですね。
いや、いや、物理的に破壊するとか、NHKを解散させるとか、民営化させるとか、そういったことではありません。

NHK放送スクランブル化の実現です

放送のスクランブル化とは、放送事業者側で、電波に暗号をかけることで料金を支払った人だけが放送を見られる仕組みで、すでにWOWOWやCSのスカパー!などで採用されています。

要するに、お金を支払った人だけがNHKを見られるようにするということですね。
電気やガス、水道料金と一緒です。

N国党はこの唯一の公約実現のみを掲げるワンイシューの政党なのです。

※NHKから国民を守る党はWebサイトでもうひとつの公約として生活保護費を現金支給から現物支給へ変更することを掲げています

立花氏の活動のメインはYouTube かなりやんちゃなYouTuber

N国党は今回の参院選で議席を獲得し、政党助成金が得られる政党要件も取得しました。参議院選挙の前に、すでに27名の地方議員が所属しており、党の知名度も都市部を中心にそれなりに高まってきていました。

始めは立花代表が一人で立ち上げた政党です。では、どのように仲間を増やし、党の活動を浸透させていったのでしょうか?

立花氏は普段はYouTuberとして生計を立てています。立花氏のYouTubeチャンネル登録者数は2019年7月現在、18万人です。1つの動画の再生回数はおよそ5万~10万。人気の動画は再生回数100万回を超えます。毎日YouTubeで自身の活動をアップし続けているのです。

ではどのような動画をYouTubeで流しているのか。一言で言うと、
NHKと戦っている姿を動画で流しているのです

NHKと戦うと言っても、武器を持って戦闘をするわけではありません。血は流れません。

また、NHKの前でデモをしたりシュプレヒコールを上げたりするわけでもありません。

けれども、デモをしたりシュプレヒコールを上げるよりも過激です。
NHKの集金人を撃退したり、NHKと裁判をしたり、対立する人や組織を言論で攻撃する動画をYouTubeで公開しているのです。警察沙汰もしょっちゅうです(立花氏はよく動画で110番通報しています)。

N国党の主張はNHKのスクランブル化です。なぜスクランブル化をするのかというと、NHK料金は税金ではないにも関わらず、NHKを観ていない、観たくない人から料金を徴収するのはおかしいという考えからです。

そしてこの考え方に賛同する日本人はかなり多いということです。

しかし、現在の法律では、受信装置を設置している場合は、NHKと契約し、料金を支払わなければならないということになっています。

その法律がバックにあるためか、NHK集金人はかなり強引な方法で契約を結ばせたり、料金を徴収したりします。なかには詐欺師みたいに契約を結ばせる人もいれば、ヤクザみたいに脅して集金する人もいます。

そんなNHK集金人と対決するのですから、動画も結構なものです。

実際に、市民に代わってNHKと裁判もしていますし、NHK集金人を追い返す方法や、契約を結ばない方法、料金を支払わない方法などもレクチャーしています。
「セールスお断り」的な効果を発揮するNHK撃退シールなんてものも無料で配布しています。

NHKからしてみれば、N国党はかなり厄介な存在です

立花孝志氏はよく言えばやんちゃなYouTuber、別の言い方をすると、タチの悪い人です。

しかし、NHKから国民を守る活動を実践していることは確かです

破天荒に見える選挙戦略と行動力・実行力で選挙戦を戦う

前段でも書きましたが、N国党代表、立花孝志参議院議員は、かなりタチが悪いです。
敵対する組織や人物はYouTubeで徹底的に叩きます。場合によっては訴えられます。個人的には敵にまわしたくないですね。面倒くさい。

でも、この面倒くさいキャラ、どうも計算してやっているようなのです。

立花氏は「NHKから国民を守る党」を設立後、2013年大阪府摂津市議会議員選挙、2014年東京都町田市議会議員選挙に相次いで出馬し落選。2015年千葉県船橋市議会議員選挙に出馬し当選しています。

この船橋市議で実績を積んでいくのかと思いきや、翌年に当時の舛添要一東京都知事の辞任に伴う東京都知事選挙に出馬します。結果は落選ですが、NHKの政見放送で「NHKをぶっ壊す!」とNHK批判を展開するのです。

その後も2017年大阪府茨木市議会議員選挙、同年7月の東京都議会議員選挙に出馬し落選。同年11月の東京都葛飾区議会議員選挙に出馬し当選し、再び地方議員となります。
でも、2019年5月に再び葛飾区議の地位を捨て、大阪府堺市長選に出馬し落選します。

東京都知事選挙や政令市の堺市長選挙は、国政選挙並みの大きな選挙です。当選するのは1人ですし、主要政党の力の入れ方も半端ではありません。立花氏が当選する確率は万にひとつもありません。でも、立花氏は地方議員の地位を捨ててでも立候補するのです。

なぜなら、知名度アップに効果的だからです。

当選者が1人の首長選挙は議会選挙よりも立候補者が少ないため、有権者の目に留まりやすく、より多くの有権者に自分の名前や政党名を周知することができます。

立花氏は地方ではなく、大阪や東京などの都市部で出馬します。YotTubeの視聴層が地方よりも都市部の方が多いことと、ワンイシュー政策の共感や浸透、拡散などが都市部の方が効果的に行えるからです。

その結果、N国党のワンイシュー政策に賛同する人を増やし、自分以外の地方議員を誕生させました。なかには、政策に賛同したわけではなく、広がりつつある「NHKから国民を守る党」の知名度を利用して地方議員になった人もいます。

そして立花氏は、この地方議員から資金を集め、今回の参議院議員選挙では比例区4名選挙区37名の候補者を擁立し、1議席を獲得するのです。

選挙区から出馬した37名は初めから当選する可能性のない候補者として出馬させています。1つの議席を獲得し、政党要件を得るための捨て駒として使っています。

そのため、各候補の政見放送もむちゃくちゃでした。しかし、それが話題となり本来選挙に行くつもりのなかった有権者や無党派層を掘り起こしたのです。

当選見込みのない首長選挙への出馬や、売名のための選挙という考え方には賛否両論でしょう。しかし、法的には問題ない。立花氏は制度の隙を突きながら参議院の議席を手に入れたのです。

一見、むちゃくちゃに見える動画での行動も戦略であり、その戦略を実行できる行動力がN国党の強みと言えます。

立花孝志氏の2019参院選の政見放送

立花孝志氏の2016都知事選の政見放送

ブレない目的が支持を得ている

立花孝志参議院議員はタチが悪いです。
選挙本来の在り方を逸脱したやり方や、モラル的に疑問符の付く行動も多々あります。彼は目的のためには手段を選びません。法律違反もします。ただし、刑事犯罪的な行為は避けています。民事訴訟は恐れていないのです。

そして、お金を欲しています。参議院選挙で政党要件が欲しかったのは、政党助成金が欲しかったからにほかなりません。

しかし、それは一つのブレない目的があるからです。
NHK放送のスクランブル化

この目的を達成するために、資金が必要であることを隠しません。
その目的がブレていないから、支持を集めているのでしょう。

主要政党は責任政党として、経済から外交、教育、福祉などさまざまな政策を掲げます。その政策を実現するために多くの支援者を集めます。でも、支援者がその政党の政策すべてを是としているわけではありません。

ある支援者は外交はAの政策で、教育はBの政策といい、ある支援者は外交はCの政策で、教育はAの政策といいます。政党はどちらの支援者からの支持が欲しいから、結局、先送りで何も実現できないというジレンマが起こります。

N国党はワンイシューの政党です。NHK放送のスクランブル化以外の政策は直接民主主義の手法で支持者から意見を募ると言っていますが、NHK放送スクランブル化の政策実現のためには、どこの政党とも組むでしょうし、その取引としてどんな政策も受け入れると思います。

ワンイシューの政党の強みは、その政策実現以外はほかの政策は気にしなくてよいという点です。

ほかの政治家は、「政策の実現」を掲げながらも、その地位に恋々としている方が多いように思えます。
けれども、立花孝志氏はNHK放送のスクランブル化が実現したら政治家を辞めると言っています。本当なんですかねー?
機会があれば一度、立花孝志参議院議員を取材してみたいと思います。

立花孝志氏のページはこちら

武山雅樹

武山雅樹

40代男性、千葉県在住のフリーライター。グルメ雑誌、歴史雑誌、ペット誌、医療系フリーペーパーなど幅広いジャンルで活躍。最近は企業のインタビュー企画やWebサイトのライティングなども手がけている。