大学

大学等研究機関と運営資金

昨年のことになりますが、いわゆるSNSで見た若手研究者のとても印象的なコメントが未だに頭から離れません。曰く、日本では年金が数百円下がっただけで日本中が大騒ぎしているのに、日本最高の研究機関で研究する若手研究者が、数年で終わる任期切れに怯えながら15万円の月給が下がっても文句も言わず漠然とした不安を抱えながら研究に没頭している、と。

念のためですが、私自身は年金は若者の将来の安心の担保になるものですので重要だと思っていますが、このコメントは深く心に突き刺さるものを感じました。年金は政治叩きにもってこいの課題です。年寄りを虐めるな、というのは極めて主張しやすい。

昨年も年金制度改革の最終詰めを行う微修正でしたが(賃金物価の増減に合わせて年金支給額を増減させる仕組みの詰め)、この際も野党マスコミ大騒ぎでした。理性で考えれば当然の改革でした。しかし、若手研究者の窮状をマスコミは騒ぐことをしません。

日本の科学技術研究開発力が相当に危機的な状況にあります。

なぜこうなったのか。

第一に、研究機関の運営費を削ってきたからです。運営費交付金と呼ばれるものです。なぜ削ったかというと、例えば大学は無駄ばかりするから、競争させて成功しそうなものにお金を使うべきだとなったからです。いわゆる競争的資金というやつです。

その側面は正しいのですが、バランスが全くとれていません。そもそも、理想となるバランスがどこにあるのかを示さないまま、基盤的な運営費交付金を減らし続け、競争的資金を増やしてきた。どこまでという哲学が全くないままにです。

第二に、入学するであろう18歳の人口が、例えば私が学生であったときは200万人いたのに、今は140万人くらいしかいない。でも定員は5%くらいしか減っていない。つまりとても広き門になってきたことが挙げられます。つまり、大学進学率が高くなってきたとも言えます。

以降、この2点について議論したいと思います。

基盤的経費と競争的経費のバランスの哲学を示せ

研究者がボールペンを買うのも躊躇する、という話をよく聞きます。ボールペンとは少し比喩的表現だと思いますが、実態としては雰囲気は伝わります。競争的資金が多くなると資金調達に努力をしなければなりません。もちろんそれは当然だとしても、仕事の時間のうち、研究資金調達に削ぐエネルギーが8割で2割が研究だとしたら、これは本末転倒の話なはずです。

しかも、研究ですから成果があるわけではない。営業であれば、自慢できる商品が目の前にあって、どのように売るかが勝負です。しかし、研究はほとんど政治と同じで未来を語るものです。そして、実現する可能性は分からない。

運営費交付金は人間に投資すると考えなければなりません。であれば、どの程度の投資を人間に対して行うのかを決めなければなりません。競争的資金の拡充は分かりやすい。私も賛成ですが、競争的資金を増やせば増やすほど、具体的に信ぴょう性の高い分野、成果や結果が出やすい研究が増えてくるのも必然です。

そして、当たり前ですがそうした分野は民間企業が担うべき領域に近づきます。結果を設定して、その結果が出るように研究を行う領域です。必然的に、研究のすそ野が狭まり、基礎研究がおろそかになってきます。

基盤的経費と競争的経費のバランスの哲学をしっかりと議論して示し、一刻も早く今の流れを食い止めるべきです。

例えば大学の定数は過大なのか?

基盤的経費である運営費交付金が増やせればよいわけですが、現在の財政事情から簡単ではないので、人口バランスにマッチした大学改革を行うべきだという論があります。つまり、18歳〜22歳の人口が4割ほど減っているのだから、その分、大学も狭き門にしてダウンサイジングするべきだという論です。

私自身は、大手を振って賛成ということではありません。大学入学を狭き門にしてトップエリートだけを養成すれば質は下がらないということだと思いますが、高等教育をなるべく多くの人に提供することも、すそ野が広がると思うからです。問題は、やはり大学卒というラベルのために入学を希望する傾向が強い日本の文化を変えることにあると思います。

つまり、入学という入り口を狭くするのではなく、所定の学問を真面目に受けない場合には卒業という証書を出さないという方向です。この方向で議論が進まなければ、全く意味はありません。必然的に大学はダウンサイジングが行われ、質が保てる。

問題はあります。全ての大学が、一斉に同じ改革を行わなければ、この改革に取り組んだ大学だけが損をする。あの大学は入学後が厳しいから卒業できないと就職に影響すると学生が思うからです。であるならば、行政が目標となる像を明確に示す必要があるし、そのインセンティブ制度も創設する必要があるし、大学自身も、自分の大学が卒業生に求める能力の哲学を明確に打ち出せないといけません。

もちろんこの方向にも問題がないわけではないと思います。多くの議論が必要になってくると思います。ただ、入学定数を絞る方向よりは百万倍正しいと思っているということをまずは申し上げたいと思います。

まだまだ改善の余地はあります。世の中全てが研究開発であるわけでは全くありませんが、少なくとも日本が生む価値の何割というレベルで影響がある問題であるとは思っています。

出典:大野敬太郎オフィシャルサイト「オピニオン」【2018年1月12日公開】

大野敬太郎

大野敬太郎

衆議院議員

1968年11月1日生まれ。
坂出中央小・付属坂出中・丸亀高校・東京工大卒・同大院修士。
東京大学博士号取得。富士通研究所・カリフォルニア大バークレー校客員フェロー・国務大臣秘書官・東大産官学連携研究員・国会議員秘書などを経て、第46回総選挙で初当選。

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