野田聖子総務相は記者会見で競争の過熱が問題になっているふるさと納税について、高額品や金券などの取り扱い自粛を求めた高市早苗前総務相時代の通達を踏襲するとしながらも、「良い形で競い合ってほしい」と述べ、地方自治体側の裁量に一定の理解を示しました。
総務省通達に対する自治体側の反発や混乱に終止符を打つ狙いがあるとみられます。
特例控除の上限拡大などから受入額が急激に増加
ふるさと納税は自分の故郷など応援したい自治体へ寄付することで、寄付金に応じた税の控除を受けられる制度です。
多くの人が生まれ故郷で教育や医療などさまざまな行政サービスを受けて成長していますが、成人して納税するのは就職した先の自治体になります。地方から都会へ出て就職する人が多いことから、行政サービスを受けてきた故郷へ納税できる仕組みがあってもいいとして発案されたのがふるさと納税です。
寄付金のうち、原則として自己負担額の2,000円を超える部分が控除の対象となります。
総務省によると、制度がスタートした2008年度は、全国の受入額が81億円に過ぎませんでしたが、自治体側が返礼品に高級肉や水産物を出すようになり、人気が沸騰しました。
受入額は2014年度で389億円に達しました。2015年度からは特例控除額の上限が約2倍に拡充されたほか、控除に必要な確定申告の手続きも簡素化されたため、受入額が2015年度1,653億円、2016年度2,844億円と急増しています。
自治体の貴重な財源となる中で返礼品競争が過熱
返礼品は主に地元の特産品があてられました。高級肉やカニなど水産物を送ってくれる自治体には、高額返礼品目当てにふるさと納税が殺到しています。
高知県奈半利町や北海道上士幌町、長野県喬木村のように年間の税収を上回る寄付を集める自治体も次々に登場してきました。多額の寄付を集めた地方の自治体にとり、ふるさと納税が貴重な財源となったわけです。
その結果、ふるさと納税の獲得競争がさらに過熱します。寄付額に匹敵する時価の商品を返礼品に加えた自治体が出てきたほか、パソコン、高級家具、商品券、貴金属、外国産の昆虫などありとあらゆる高額商品が返礼品に並びました。
インターネット上のふるさと納税サイトはまるで大型のネット通販サイトのような状態になり、1,000万円の寄付で750万円相当の土地を提供する自治体まで登場します。
しかも、宝くじや電子マネー、乗用車が返礼品に並ぶ中、返礼品を転売してひと儲けをたくらむ人まで出てきたのです。土地や宝くじ、電子マネーなどあまりにやり過ぎと受け止められた返礼品に対しては、総務省がその都度中止を求める騒ぎとなりました。
東京23区の減収額は2017年度で200億円を超す見込み
ふるさと納税が抱える問題点は、競争の過熱だけにとどまりません。高額所得者ほど寄付金額の上限が高く、軽減される税額が大きくなることもその1つです。
総務省によると、共働きで子どものいない年間給与収入300万円の世帯だと、全額控除されるふるさと納税の上限が年間2万8,000円なのに対し、2,500万円の世帯では84万円以上になるのです。このため、富裕層を優遇し過ぎているとの批判の声が上がるようになりました。
首都圏や京阪神など都会の税収が極端に減ったため、行政サービスの恩恵を受けている人が税を負担する応益負担の原則に反するとの指摘も出ています。
2017年度の減収見込み額は東京23区だけで少なくとも200億円を超す見込みです。減収見込み額が最大の世田谷区は30億円、港区は23.4億円、渋谷区は14.6億円、江東区は12億円、杉並区と大田区がそれぞれ11億円と、巨額の減収が予想されているのです。
世田谷区の場合、区立学校1校分の改築費がふるさと納税で奪われた形になり、特別区長会が「ここまで減収が広がれば応益負担の原則が無視されたといわざるを得ない」と反発する事態に発展しました。
総務省の通達に一部自治体が強硬に反発
総務省は4月、全国の自治体に返礼品の価格を寄付額の3割までに抑え、商品券や家電製品、貴金属、家具などを返礼品に加えないよう求めました。返礼品競争の過熱を食い止め、競争を適正化するのが目的です。
大半の自治体は不満を持ちながらも、総務省の通達に従いましたが、申込額が急減するところが相次いでいます。
2016年度の受入額が全国トップだった宮崎県都城市は、6月の申込額が前年同期の3分の1まで落ち込み、担当者が頭を抱えていました。通達に反発する自治体も出ています。
温泉などで使える感謝券の中止を求められた群馬県草津町は、黒岩信忠町長が総務省に乗り込み、中止を拒否しました。神奈川県箱根町や群馬県中条町も草津町に同調する構えです。
8月の内閣改造で就任した野田総務相は記者会見で「通達を撤回しない」としたものの、最終判断を首長に委ねる姿勢を示しました。
自治体側の混乱や反発を終息させるため、一定の範囲内で商品券なども認める新方針を打ち出したものとみられています。