アラブの平和と欧米の平和の違いなど(イスラエル訪問報告)

7月10日より移動のぞいて3日間、イスラエルを訪問して参りました。内閣府大臣、外務省国連担当事務次官、元情報機関のアラブ専門官、メレツ党、クラヌ党、リクード党のそれぞれの国会議員と面談。また、元国会議員でシオニズムの専門家やイスラエル国防軍サイバーセキュリティー担当官、日本企業の現地研究所、外務省アジア局との意見交換、そしてエルサレム旧市街、ホロコースト記念館に訪問して参りました。

内閣府大臣との会談では、大臣からはイスラエルがなぜイノベーションに長けているのかについて、砂漠が多く水が無いから嘆くのではなく、イノベーションで答えをだすしかないという現実と、それを解決しようとする楽観主義の話を頂きました。実は香川県も水がないのだけど・・・などと思いながら、日系ハリウッド映画スターの話を思い出しました。いわく、「日本は負けるのを恐れる、我々は勝てないのを恐れる」と。チャレンジングスピリットは楽観主義に基づくものだし、事態打開のキーワードなのだと思います。

もう一つ、大臣の話で印象に残ったのは、ドイツとの関係。今は大変良好な関係を築いているとのこと。イスラエルへの訪問は今回を含めて2回目ですが、いずれもドイツのフランクフルトやミュンヘン経由で入っています。機中思うのが、おそらく70年前には想像もできなかったことなのだと思います。あとで触れますが、イスラエルも非常に多様な考え方があり、それを政治がまとめて、難局を打開するという、あたりまえだけども困難を成し遂げた国の姿にあらためて賞賛を送りたくなります。

国連担当事務次官との会談では、強烈なインパクトがあったのは、イスラエルが国連総会で年間2~30の決議を出されていることに関する議論でした。イスラエルが国際機関の中でいかに困難を強いられているかということが十二分に理解できましたが、逆に言えばそれだけ国際会議で違和感をもって迎えられているかということなのでしょう。日本は中韓から、最近特にUNESCOなどで、全く事実無根のいちゃもんを付けられますが、それと比べたら子供のようなものです。次官は「差別されている」という言葉を何度も使っていらっしゃいましたが、すり合わせの困難な課題も多くあるのでしょう。

元情報機関のアラブ専門官の話は、イスラエルがアラブ諸国をどうみているのかを知るのに大変役に立ちました。と言ってももちろん政府を代表する意見でも何でもなく、淡々と事実を語ってくれただけですが、話の仕方やら、どこに多くの時間を割いているかが面白いと感じました。

アラブはご存知のように部族単位の活動の方が国家という単位よりも重要で、それなのにもかかわらず20世紀初頭に英国などによってアラブを無視した西欧のためだけの人工国家が多く生まれた訳ですが、現在、不安定なのはイラクやシリアなど国家が多くの部族を抱えていて多種族国家である場合が多く、安定しているのはクェートやカタールなど1つの部族の国家(首長国)か、UAEのように首長国の連邦(EはEmiratesで、部族長のアミールはEmiratesの語源)の場合。つまり人工的境界線引きがいかに中東を不安定にしてきたのかが認識の出発点になります。

そこで今回改めて気付きを頂いた話に触れますが、それはこの専門家が「砂漠では戦わなければ生きていけない」「アラブの平和(サラーム)は欧米の平和(ピース)とは違うのだ(サラームは文書による停戦という程度の意味)」という趣旨のことをおっしゃっていたことが妙に心から離れないことによります。血族的結束が部族ならばその部族単位を無視することは不可能で、そうした部族間の切磋琢磨が部族を豊かにするならば、そしてサラームを成し遂げているのだとすれば、それはステートではなくエミレーツを目指すべきという、当たり前と言えば当たり前の結論になるわけで、今後の中東安定の一つの大きな見方になるのだと思います。

その他、シオニズムについて語ってくれた元国会議員。今回の出張では一番インパクトがあった会談でした。ユダヤ人の定義やらイスラエル人の定義など考えてみれば不思議で、実は私自身、シオニズムというものを離散したユダヤ人の熱狂的信者達がパレスチナの地に帰ろうとする運動としか思っていなかったものですから、大衝撃を受けました。

参考までに触れておけば、この方のシオニズム観は、ユダヤ人というのはユダヤ教を信じることではなく、ユダの部族に属することであって、信じることは重要だけど宗教が中心ではないというもの。まぁ確かに、ユダヤという名前自体は、古代ローマが入ってくるまでは使われていたであろうし、古代ローマがユダヤを一掃しようとしてペリシテ人を入植させ、名前もそれにちなんでパレスチナにしたという歴史をたどれば、必ずしも宗教ではない、という考え方は、頭では納得できるのですが、なにせ極めて多様な考えが内在した国家であるということは理解できました。

それもそのはず、わずか120の議席をもつ国会でも、10くらいの政党があるわけで、一番右翼の、ザ・宗教みたいな政党があるから、それだけが目立ってそういう国として見てしまうのかもしれません。確かにテルアビブの若者などは、ユダヤ教などどこ吹く風の様子で極めて西欧的にカフェで仲間と深夜まで酒を飲むのですから。

その他、エルサレム旧市街散策、ホロコースト記念館などに訪問。多くの刺激を頂きました。こういうスピリチュアルな意味での肌感覚というのは、現場に行かないと決してわからないものがあります。

出典:大野敬太郎オフィシャルサイト「オピニオン」【2017年7月17日公開】

コラム:先憂後楽

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