7月2日に実施された東京都議会議員選挙は、都民ファーストの会を中心とした小池都知事の支持勢力が圧勝し、自民党の歴史的惨敗という結果に終わりました。安倍首相の「もり・かけ」疑惑や、豊田議員の暴言、稲田大臣の失言、下村都連会長の献金疑惑など、国政における自民党への不信感が逆風となりその煽りをもろに受けた形です。
都議会議員選挙は、同年に実施される国政選挙の結果に大きな影響を及ぼすため、準国政選挙とも言われています。今回の都議選の結果を受け、年内に衆議院の解散総選挙が実施される可能性は低くなったものの、2018年12月に任期を迎える衆議院は、この1年半の間に必ず実施されます。
次回の解散総選挙はどのような情勢になるのでしょうか?都議選の結果を踏まえて考えてみたいと思います。
際立つ公明党の強さ、自民党は公明党なしでは選挙で勝てない?
今回の都議選は「自民VS都民ファースト」の構図が大きくクローズアップされていましたが、自民党大敗の大きな要因は2つ。ひとつが選挙直前の国会議員たちの相次ぐエラーによる逆風。もうひとつは公明党の選挙協力がなかったことです。
公明党は創価学会を母体とする組織票と的確な票読みで、候補者を確実に当選させます。今回の都議選でも公認候補23名は全員当選。全員当選が7回連続だというのだから驚きです。
公明党が公認候補を立てない選挙区では、公明党の組織票は、公明党が選挙協力する推薦候補へ流れます。都議選におけるその組織票の数は選挙区にもよりますが、3,000票とも5,000票とも言われています。単純に考えると、自民党の候補は3,000~5,000票を確実に失い、その票がそのまま都民ファーストの候補に上積みされたのです。
今回の選挙で見ると、例えば府中市、西東京市、北多摩2区の2人区では、いずれも都民ファースト公認候補と推薦候補が勝利し、議席を独占しています。(府中市・西東京市の推薦候補は当選後に追加公認。北多摩2区は生活者ネット公認で都民ファースト推薦。)
府中市の都民ファースト公認候補・推薦候補2人と、西東京市の公認候補、北多摩2区の公認候補にはいずれも公明党の推薦が出ています。
自民党候補はいずれも3位で落選していますが、当落の票差は、府中市2,738票、西東京市4,136票、北多摩2区2,928票です。公明党が味方になっていれば、これらの選挙区で自民党は議席を獲得できていた可能性が高いといえます。公明党の選挙協力が得られなかった影響は他の選挙区でもみられました。
これまでの自民党の圧倒的強さは、公明党の下支えがあってこそであり、国政においてもそれは同様です。国政では今のところ自民党と連立を維持している公明党ですが、公明党が離脱するようなことがあれば、自民党のダメージは相当なものになることが容易に想像できます。
反自民の受け皿となれない民進党、維新の会
自民党の逆風を追い風とした都民ファーストの会が大躍進したた陰に隠れていますが、日本共産党は前回よりも議席を2つ伸ばし、反自民の受け皿としての存在感を示しました。一方で反自民の受け皿になれなかったのが、民進党と日本維新の会です。
大阪では圧倒的な知名度と強固な支持層を持つ日本維新の会ですが、東京では完全に埋没してしまいました。議会改革を錦の御旗としていた都民ファーストの会と同様、日本維新の会も改革を標榜する政党です。地方議会改革に関しては、日本維新の会の前身、大阪維新の会が元祖であるとさえ言えます。しかし、同じ改革政党として、政策協定などを結んで共同歩調を取るという選択もしませんでした。
また、国政においては、民進党をはじめとする野党共闘とは一線を画し、安倍政権に近い存在という意識が都民にあったのでしょう。加えて、都民ファーストの会の応援に入った渡辺喜美参議院議員を除名してしまい、都民ファーストと対立してしまいます。結果、反自民の追い風にも乗れずに現職の1議席をなんとか死守したという形になりました。
国政では未だに野党第一党の体裁を保っている民進党ですが、都議会選挙前には離党者が続出。選挙告示前の民進党の議員はわずか7名。選挙前に大敗が確定していたという状態です。選挙ではさらに議席を減らし5議席となってしまいました。
定数2の小平市では、自民候補にわずか297票届かずに3位。定数8の大田区では11位。自民も議席を失った北区では、5人の候補者のなかで唯一1万票に届かないなど、逆風の自民党の後塵を拝する選挙区も多く、数字以上に弱さが際立った選挙となりました。
民進党に関しては選挙結果以上に、国会議員をはじめとする所属議員のマインドが深刻です。
都議選前に多くの離党者が出た時も、「会派(東京改革議員団)としては一緒にやっている」「選挙が終わっても同じ会派で一緒にやれる」といった楽観論がありました。
確かに、選挙時は民進党を離党した候補の多くは、都民ファーストの会からは公認が出ず、推薦という形でした。そのため、民進党所属の地元区議や市議の応援を得て選挙戦を戦った候補もいます。しかし、投票結果が出ると、都民ファーストの会からすぐに公認が出たのです。同じ会派でやっていくという思いは、儚く消えました。
また、選挙直後は「それなりに存在感は示せた」と胸をなでおろす党幹部がいたとの報道もあります。国政で野党第一党勢力の「それなり」とは5/127なのでしょうか?
民進党は全体的にのんびりしているというか、危機感が欠如しているというか、現在の反安倍政権の風が国政選挙において、自分たちの追い風になると思っているのでしょうか?
ある民進党の地方議員に「与党にエラーが出ている今こそ、自分たちの政策や実績をネットなどで積極的に情報発信していく時期ではないか?」と尋ねたところ、「まだ統一地方選挙まで時間があるので、もう少し選挙が近くなってからでよい」との答えが返ってきました。選挙が近くないからこその情報発信、野党だからこその与党以上の努力、そういった意識が民進党にはないのでしょうか?
もちろん、日ごろから地道に情報発信をしている議員もいますが、党全体に「ぬるい」マインドが広がっているのが、今回の選挙、国政での体たらくに繋がっているのではないでしょうか?
都民ファーストの会の国政進出が政界再編の鍵
2012年の第2次安倍内閣発足以降、自民一強、安倍一強体制がずっと続いてきました。しかしながら、この一強体制を国民が望んでいたかというと、必ずしもそうとうは限りません。この5年間、自公政権に対抗しうる健全野党が育ってこなかった、政権を預けられる選択肢が、ほかになかったという、消極的支持。消去法で残ったのが自公政権しかなかったという方が正しい見方でしょう(自民党が民進党の復活や新興勢力台頭の芽を早めに摘んでいたという見方もできます)。
そんな中で、登場した都民ファーストの会が、国政にも新しい風を吹かせるのではないかと期待されるのは当たり前なのかもしれません。
都議選直後に、小池都知事は「二元代表制への懸念、知事に専念」と述べて代表を辞任しました。また、国政進出に関しても「予定はない」としていますが、その言葉とは裏腹に、都民ファーストの会の国政進出への準備は水面下で進められているようです。
その中心となるのは、自民党を離党した若狭勝衆議院議員と、民進党を離党した長島昭久衆議院議員、そして日本維新の会を除名となった渡辺喜美参議院議員でしょう。今回の都議選のように民進党からの離党ドミノも起こりえそうですし、日本維新の会や公明党などとの選挙協力を模索する動きも出てくるかもしれません。
自民党内でも安倍一強体制に反発する動きがあり、党内勢力図を塗り替える地殻変動が起こる気配です。
次の衆議院議員選挙の鍵は小池都知事と言っても過言ではないでしょう。
個人的には与党に対抗しうる野党が育つことはとてもいいことだと思っています。議会で勢力が拮抗することで、建設的な議論が生まれると思うからです。
ただ、ひとつ気になる点は、自民党と拮抗する勢力となることが期待される、都民ファーストの会も保守系勢力だということです。代表を辞任した小池百合子都知事も元は自民党ですし、現代表の野田数氏は、日本国憲法無効論に基づく大日本帝国憲法復活請願を東京都議会に提出したこともある人物です。二大政党のどちらもが右寄りの保守勢力というのは、大政翼賛会的な動きに繋がる恐れもあり、できればリベラル的な政党が出てきてほしいものです。
かといって、民●党には期待できないのですが…。