政権選択ではない参院選は選挙後の政治を想像して投票する

参議院選挙投票日がいよいよ明日に迫りました。
投票日を直前に控え、どの政党やどの候補に投票するか、まだ決めかねている方も多いのではないかと思います。ここでは、今回の2016年参議院選挙が持つ意味について考えてみたいと思います。

与党? 野党? マスコミ? 選挙の争点はだれが決める?

今回の選挙では、憲法改正や安保法案を争点化したい野党4党(民進、共産、社民、生活)と、憲法改正ではなく、あくまでも経済政策(アベノミクス)などを争点としたい与党がおり、論点がかみ合っていないという状況です。

テレビをはじめとするマスメディアは、選挙公示後は、実質的に言論の自由が抑制されています。かつての「郵政解散」「政権交代」の選挙の時は、選挙の争点を示し世論を煽るような放送も見受けられましたが、大政党も小さな政党も公平に取り扱うという大義名分の下、自主規制気味の無難な報道ばかりで、選挙の争点を強く言及する放送はあまり見られません。
(※参考:週刊朝日増刊「朝日ジャーナル リベラルへの最終指令」2016/7/7号 池上彰×原寿雄「安倍政権のメディア支配」)

そもそも、選挙の争点は政治家でもマスコミでもなく、われわれ有権者が決めるものだと思います。
投票所へ足を運ぶ方は、日常の暮らしの中で変えてほしいことや、自分や次の世代の将来のことなどを考えて投票先を決めます。そのなかで一番の決め手が争点なのです。

小さなお子さんがいる方は「子育て政策」が重要な争点になるかもしれません。農業を営む方は「TPP」を争点にしている方も多いでしょう。日常生活よりも、将来に向けたエネルギー政策や年金の財源などを争点とする方もいるでしょう。

選挙では、投票する有権者一人ひとりがそれぞれの争点を持っているのです。

参院選後の政治を想像すると見えてくる今回の選挙の争点

選挙の争点は有権者ごとに違うのですが、まだ何を基準に投票するべきか、すなわち自分のなかで争点を見いだせない人も多いのではないでしょうか? そんな方は、この参議院選挙後の政治を想像してみることをおすすめします。

まず、前提として参議院選挙は政権選択の選挙ではないということです。
内閣総理大臣は衆議院議員から選ばれますから、基本的に衆議院で過半数以上の勢力を持っている自民・公明の与党が政権を失うことはありません。

選挙運動のなかで、与党陣営が民進党と共産党が連立政権を組むことを批判していますが、少なくとも今回の選挙では、民共政権誕生はあり得ません。

また、参議院は議席数が242で、そのうちの半分の121議席が今回の選挙で改選となります。半分の121議席はそのままということです。

非改選議席121の内訳を見ると、与党が76議席で6割以上の勢力が残ります。一方の統一候補を立てている野党4党の勢力はわずかに28議席。今回の参院選で、与野党逆転のいわゆるねじれ状態を作るには、改選議席121の内、93議席を獲得しなければなりません。これははっきり言って不可能に近い数字です。

つまり与党がレームダック状態になることもあり得ず、与党がよほど大敗でもしないかぎりは、安倍政権がそのまま継続するということになります。

非改選議席の内訳

  • 自民65 公明11 与党合計 76
  • 民進18 共産8 社民1 生活1 野党連合合計 28
  • おおさか維新など、その他勢力 17

そうなるとやはり、参議院で与党が3分の2を獲得できるか、野党連合がそれを阻止できるかというところが注目になります。
この3分の2が意味するところはすなわち憲法改正の発議です。憲法改正の発議をするには、衆参どちらも3分2以上の賛成が必要となるからです。

参議院で3分の2の勢力(162議席)を獲得するには、与党は86議席が必要ということになります。
では、3分の2議席を獲得できた場合、できなかった場合の参院選後のシミュレーションをしてみましょう。

野党連合が53議席を獲得した場合 = 改憲阻止

4野党が53議席を獲得すれば、非改選議席と合わせて81議席となり、与党とその他の勢力をすべて合わせても3分2には届かなくなります。その結果、当面の憲法改正はなくなります。
今回の選挙では憲法改正反対の姿勢を打ち出している4党ですが、民進や生活は改憲に絶対反対というわけではありません。同じ反対派でも獲得した議席数などにより、力関係が変わってくるかもしれません。

自民党が97議席を獲得した場合 = 改憲が現実味

野党連合が参議院で過半数を獲得するのと同じくらい可能性は低そうですが、自民党が97議席を獲得した場合、参議院は公明党抜きでも3分の2の勢力を獲得します。衆議院は公明党抜きでは3分の2には届きませんが、あるいは改憲に消極的な公明党を外し、他の勢力と連立を組むなどということも起こりえます。

自民・公明で86議席を獲得した場合 = いつでも改憲発議が可能

今回の選挙で自民党は「改憲はもっと議論を深めてから」と言っています。しかし与党が両院で3分の2の勢力を保有していれば、いつでも憲法改正の発議ができる状態となります。公約には書いていない法律などを、成立させてきた経緯もあるだけに、「新しい判断」で憲法改正の発議が出される可能性はありえるでしょう。

自民+その他勢力で86議席を獲得した場合 = 改憲が前進。公明党の連立離脱も

自民党が参議院の3分の2を獲得するのは難しいですが、おおさか維新の会や日本のこころを大切にする党など改憲勢力と合わせて86議席獲得というのは充分に考えられます。公明党抜きで3分2の勢力があれば、改憲に消極的な公明党を外すという選択肢も考えられます。

与党+その他勢力で86議席を獲得した場合 = 改憲が前進。憲法改正の議論が活発に

自民・公明+その他改憲勢力で3分の2を獲得した場合、実質的には憲法改正の発議は可能となります。ただし、自民党とおおさか維新の会では、憲法改正の内容にかなりの隔たりがありますし、公明党は改憲には消極的です。各党の足並みを揃えるためにも憲法改正の議論は活発になるでしょう。

このように、選挙後の勢力図がどのようになったらよいのかを考えて、投票先を決めるというのもひとつの考え方ではないでしょうか。

武山雅樹

武山雅樹

40代男性、千葉県在住のフリーライター。グルメ雑誌、歴史雑誌、ペット誌、医療系フリーペーパーなど幅広いジャンルで活躍。最近は企業のインタビュー企画やWebサイトのライティングなども手がけている。