選挙結果を左右する「風」、参院選や都知事選でどんな風が吹いたのか

選挙で特定の候補、政党に有権者が雪崩を打って投票することを「風が吹く」と呼びます。主に特定の支持政党を持たない無党派層の動向を示し、組織を持たない候補者にとって風の動向が当落の鍵を握ることになります。今夏の参院選や東京都知事選ではどんな風が吹いたのでしょうか。

参院選は自民、公明の与党へ緩やかな順風

参院選では、与党の自民が56議席、公明が14議席を獲得して勝利しました。これに対し、野党は民進が32議席、共産が6議席、社民、生活が各1議席獲得しました。

自民は3年前の参議院選で得た65議席に及ばなかったものの、比例区で2001年以来となる2000万票超えを達成しています。公明も議席を増やしていますから、風は依然として与党に向いて吹いていたことは間違いないでしょう。

ただ、投票率は選挙区54.70%、比例区54.69%。3年前を2ポイントほど上回ったものの、1947年の第1回以降で4番目に低い数字となりました。だから、それほど強い風ではなかったように見えます。

アベノミクスはやや色あせつつある感もしますが、旧民主党政権に対する国民の怒りが消えていないこともあり、野党共闘を実現しても与党に吹く緩やかな風を覆せなかったのが実情と考えられそうです。

都知事選では小池氏に風が吹き、地滑り的大勝に

東京都知事選は、小池百合子氏が291万票余りを獲得し、大勝しました。
2位で自民、公明が推す増田寛也氏、3位で民進など野党共闘が推す鳥越俊太郎の合計得票にほぼ匹敵する得票を得たのですから、風は小池氏に向かって確実に吹きました。

自民の大臣経験者でありながら、古巣の自民と戦う改革派をアピールした手法は、2005年郵政選挙の際の小泉純一郎元首相とよく似ています。

先出しじゃんけんで最大のライバルとなりそうな桜井パパこと元総務官僚の桜井俊氏の出馬をつぶし、増田氏を応援する石原慎太郎元都知事の「厚化粧発言」をさらりとかわして自身の得票に結びつけるしたたかさも見せつけました。自作自演の風がつぼにはまり、小池支持の強風に変わったようです。

知名度が高く、風を吹かせる可能性があった鳥越氏が、女性スキャンダルなどで自滅したことも、小池氏の追い風となったことは間違いありません。

振り子の理論で風が吹くことも

風は政権与党や現職首長に対する不満が引き起こすことが多いものです。
2009年の総選挙では、閣僚で相次いだ不祥事や内部対立から国民が自公連立政権への不満を募らせ、旧民主の地滑り的な圧勝をもたらしました。2012年は旧民主政権の相次ぐ公約違反や東日本大震災での対応に国民が猛反発し、自公連立政権の復活を後押ししています。

首長選では前任者と相反する候補者を選ぶ傾向が見られます。
東京都知事だと革新都政の美濃部亮吉氏の後、保守系で内務官僚出身の鈴木俊一氏、無党派でタレント出身の青島幸男知事と続きました。青島氏が都議会や都幹部と対立し、公約を放棄すると、その次はタカ派的な言動で行動力のある石原慎太郎氏が登場します。

いわゆる振り子の論理というもので、このままではいけないと感じた有権者が振り子を戻そうとするわけです。今回の都知事選も、上から目線の発言で都民の反発を買った舛添要一前知事のアンチテーゼとして、女性でソフトなイメージの小池氏に風が吹いたとの見方ができるでしょう。

ポピュリズムの暴走を防ぐため、有権者の成熟が必要

風任せの選挙はときに国を誤った方向に導くことがあります。有権者の不安や恐れをあおるだけの選挙となり、ポピュリズムに陥る可能性があるからです。

その典型が戦前のドイツでしょう。世界で最も民主的といわれたワイマール憲法のもとで政権を奪ったのはナチスでした。ヒトラーは世界恐慌に有効な政策を打ち出せない政権を批判して勢力を伸ばし、合法的に政権の座につきました。

有権者が成熟していないと、誤った方向に向かう可能性があることを示唆しています。日 本の有権者はかつてのドイツのようにならないだけ成熟したのでしょうか。投票率は低いままです。候補者のルックスで投票したり、政策を十分に理解しないまま候補者を崇拝したりする例も見られます。

トレンドやメディアの論調、組織の意向に左右されず、自分の頭でしっかりと考える有権者になることが求められています。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。

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