当たり前の暮らしを求めて

国が進める障がい者支援とはどういうものでしょうか。どんな障がいがある人も地域社会の中で暮らせるような環境を整えるための取り組みと、一度施設に入った障がい者が地域に戻り、普通に生活していくことはとても難しいという現状について書いていきます。

施設から在宅・地域へ

国は今、障がい者が地域の一員として普通に生活できる社会作りに取り組んでいます。障がい者支援施設や精神病院などではなく、自分で選んだ住まいで暮らし、地域の一員として社会生活を送れることを目指しています。それが障がい者の「地域移行」という取り組みです。

社会の理解がないために障がい者が地域で暮らすことが難しかった当時に、やむを得ず障がい者支援施設や精神病院などに入院した人たちが大勢います。その人たちを地域移行させていこうとしています。

では実際に、施設で暮らしていた障がい者が地域で生活をしていくという時には、どのような環境が必要になるでしょうか。例えば自宅で暮らす場合は、在宅で介助を行ってくれるヘルパーさんが必要になります。また、自宅が難しく施設での介護が必要な場合は、入所しても地域社会の中で暮らせるグループホームのような、小規模な施設が必要なので、それらを充実させていく必要があります。

昔の障がい者の苦悩

なぜ今、施設で普通に暮らしている入所者に対して、地域で暮らすことを促す必要があるのでしょうか?

昔の障がい者は、家族が介助を出来なくなると、誰にも知られずにそのまま亡くなってしまうということが多かったそうです。今ほどは社会の理解がなく、ヘルパーさんやデイサービス、ショートステイなどの支援もなく、障がい者は地域社会と断絶していました。そういう意味では、施設に入所できた人はまだ恵まれていたと言えるのかもしれません。しかし、これは半世紀ほど前の話ですが、当時のそのような事情から、自分の意思に反して入所するしかなかった人が、現在もそのまま入所生活をしていたりするのです。

最近になって障がい者が地域で暮らすという社会の理解や制度ができてきて、このような入所者を地域移行させるための相談員を増やすなど、国が対応を始めています。しかし今年度の地域移行の目標は施設入所者の30%でしたが、これは達成できない見込みです。来年度は「一万人の施設入所者を地域移行させる」に目標が変わり、数字は増えたようで実際は減っているのですが、この人数も達成できるかは疑問です。施設入所者の地域移行はまだまだ課題が多く難しいのが現状です。

今の障がい者は

私が住んでいる三重県では、大きな入所施設を建てる代わりに、グループホームがかなり増えました。しかし軽度障がい者向けのホームしかなく、結果的に家で十分暮らせる人がグループホームに入所するという、地域移行とは逆行した状態を生んでいます。

この背景には、グループホームの運営に対する自治体の補助が、重度であっても軽度であっても割合が同等であることが関係しています。実際には重度障がい者のグループホームでは軽度の場合よりも介護に人手がかかるのですが、国が定めた基準は軽度障がい者の介護を想定しているため、重度障がい者ホームは運営ができないのです。
重度障がい者の在宅支援も田舎では不足しているので、重度障がい者が自宅で暮らすのは難しく、しかし入所できるグループホームもないので、結果的に大きな施設や病院に入っているしかないというわけです。

選挙で福祉の充実を呼びかける政治家はかなりいるのに、残念ながら充実と言うにはまだまだほど遠いのが現実です。

夢と希望の地域移行

昔は施設に入所するしかなかった重度障がい者が、地域で暮らせるための制度や事業所が出来てきつつあります。しかし、私は2カ月間入所施設で暮らしましたが、世間からは隔離状態になるので、ここから地域移行を考えるのは無理だと思いました。自立生活体験室では、制度を学んだり施設外で暮らす体験はできますが、実際に地域で暮らすこととはまた別です。

今の制度では入所して地域と断絶するか、不自由な思いをしながら在宅で暮らすかの究極の選択を迫られます。入所しながらでも一定期間在宅生活に必要なサービス受給を認めてほしいです。

例えば市町村事業の中に、移動が困難な人を補助する「移動支援」というサービスがあります。大阪市ではこの移動支援を入所しながらでも利用することができます。すると大阪市の施設入所者はヘルパーさんと買い物に行くことができるので、地域移行が進みやすいのです。移動支援は現在、市町村によって利用条件が若干異なるのですが、地域移行を実現していくためには、全国レベルで大阪市のような支援が必要だと思います。

亀山孝博

亀山孝博

男性、三重県亀山市在住。無職、私は重度障がい者で生まれつきの脳性まひで、脳性まひも色んな種類があり、アテトウゼ型と言いまして手足が勝手に動いてしまう。