公益インフラ事業手がける日本初の官民会社、大津市が設立へ

4月の都市ガス全面自由化に備え、滋賀県大津市が公営ガス事業を早ければ2019年度から官民共同出資のガス会社に移す方針を明らかにしました。電力、通信事業に乗り出すほか、将来は市の水道事業も移管し、公益インフラ事業全般を担う全国初の官民出資会社を目指す考えです。

コンセッション方式で新会社にガス事業を移管

大津市の都市ガス供給戸数は約9万5000戸。現在は市企業局が都市ガスを販売しています。公営ガスとしては宮城県仙台市に次ぐ大手で、西日本一といわれる低料金で販売し、財務内容も良好です。市は官民会社との間で「コンセッション方式」の導入を検討しています。

コンセッション方式は所有権を国や自治体に残したまま、運営を民間に委ねる方式です。

宮城県の仙台空港で2016年から導入されたほか、大阪市が北区中之島に2021年度開館を目指す「大阪新美術館(仮称)」でも導入が検討されています。大津市の場合はガス管の所有権を市に残したまま、ガス供給設備の運転操作や維持管理、料金の徴収などを民間企業と作る官民出資会社に任せることになります。

民間のノウハウや資金を活用して競争力を高めるだけなら、単に事業譲渡で済ませても良いのですが、市の関与を残すことで現在の安価な料金設定を維持することができます。

将来は電力参入や水道事業の移管も視野に

市は2016年末から新会社設立に興味を持つ企業を募り、意見聴取を進めています。既に大手電力会社、大手ガス会社など15社以上が関心を表明しており、新年度に外部有識者による検討に入る予定です。

ガス事業の開始は2019年4月を目標にしていますが、その後官民会社は電力も取り扱い、ガスと電気のセット販売に乗り出す方向。その間、市は施設を保有し、ガス管の拡張工事や更新を受け持つとともに、ガス使用料金の上限を条例で定める計画です。

さらに、2022年4月には新会社が市の水道事業の業務受託することも視野に入れています。いわば市の公益インフラ事業を一手に引き受ける地域会社に育てようという考えです。近く関連議案を市議会に諮り、可決されれば本格的に動き出すことになります。

4月のガス自由化で公営維持を断念

市がこうした対応に踏み出した背景には、4月のガス自由化があります。これまで一般家庭向けの都市ガス販売は地域のガス会社が独占してきましたが、4月からは自由に新規参入でき、料金も独自の判断で設定できるようになります。

経済産業省によると、新規参入を認められたのは2016年末現在で大手電力会社など9社。2016年4月の電力自由化と比べ、ガス管が全国津々浦々まで敷設されていないこともあり、大幅に少ない新規参入数で、盛り上がりに欠けているのも事実です。

しかし、大津市は京阪神、名古屋方面の双方とガス管が接続され、いつ新規参入があってもおかしくない状態。公営企業のままでは機動的な料金対応ができず、ガスと電気のセット販売に着手して対抗するのも難しくなります。ガス自由化を受けた措置として取りあえず、都市ガス販売から民間に任せようと考えたわけです。

民間の効率性で税収減少時代に対応

全国でも新潟県柏崎市や群馬県富岡市などガス事業の民営化に動いたところがありますが、いずれも事業譲渡という形でした。大津市がこの方法を取らなかったのは、水道事業も視野に入れているからです。

大津市は京都市や大阪市のベッドタウンとして人口増加を続けてきましたが、既にピークに達し、今後減少に向かうと予想されています。人口が減れば当然、税収も減少します。しかも、ガスや水道という公益インフラの整備はおおむね終わり、これから施設が老朽化して維持管理にコストがかさむようになります。民間の効率性や機動性でこの問題を乗り越え、安くて良いサービスを市民に提供していこうと考えたわけです。

自治体の公営事業民営化は全国各地で検討が進められていますが、それぞれの事業ごとに検討されるケースがほとんど。大津市の挑戦は全国の自治体から注目を集めそうです。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。

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