12月に安倍首相は、地元の山口県長門市でロシアのプーチン大統領と首脳会談を予定しています。安倍首相とプーチン大統領の個人的な信頼関係が武器となり、北方領土問題に突破口を空けることができるのか?ここではキーマンと目される4人の人物の最近の言動から、北方領土問題が動くか否かを探ってみます。
世間の耳目を集めている北方領土交渉
1956年の日ソ共同宣言調印から60周年の節目となる今年、北方領土問題にマスコミや世間の耳目を集めています。その契機となったのは、今年5月、ロシアのソチでの日露首脳会談にあります。そこで安倍首相は、プーチン大統領に対して「新しいアプローチ」で平和条約交渉に臨むことを提案し、プーチン大統領も賛同しています。
この新しいアプローチとはいかなることを指しているのか?具体的な情報は流れてきていませんが、わかっていることは、今までの発想にとらわれず、グローバルな視点を考慮して未来志向で取り組むこととされています。これまで北方領土を「固有の領土」として主張してきた日本が、何らかの立場の変更をするのではないかと深読みする方もいます。
プーチン大統領は領土で譲歩する姿勢は見せておらず、どこまで日本側の主張を通すことができるのか、安倍首相の外交努力にかかっています。
4人のキーマンとは
北方領土問題のキーマンは、飯島 勲氏(安倍内閣官房参与)、鈴木宗男氏(新党大地代表)、佐藤 優氏(文筆家・元外務省主任分析官)、世耕弘成氏(経済産業相・ロシア経済分野協力担当相)の4氏です。
飯島氏は、小泉内閣で内閣総理大臣秘書官を務め、第二次安倍内閣でも危機管理やメディア戦略などを担当し各方面のメディアに露出しています。しかし、北方領土問題についてメディアで目立った発言をしていません。その手練手管の言動から「官邸のラスプーチン」と言われています。
鈴木氏は、2002年に斡旋収賄罪などで逮捕され現在は公民権停止の状態です。鈴木氏は森首相時代に内閣官房副長官を務め、この時が領土問題の解決に一番近かった時期と言われています。飯島氏と鈴木氏は議員秘書からの叩き上げという共通点もあり、小泉政権時代に近しい間柄になっています。
小泉政権時代、鈴木氏はアメリカ同時多発テロの特使としてバキスタンを訪問していますが、その時通訳として同行したのが佐藤氏です。また、鈴木氏と佐藤氏は森首相時代にロシア対応で共に苦労した間柄です。この時以来、飯島氏と鈴木氏、佐藤氏は親しい間柄になったと言われています。
鈴木氏は昨年の12月から頻繁に総理官邸に呼ばれ、安倍首相とロシアについて話をしています。首相からは「来年は節目の年、何とか私たちの世代で決着したいので協力してほしい」と言われています。以来、総理は、ロシアに太いパイプを持つ鈴木氏と節目節目で会って領土問題について意見交換をしています。
そして、自民党きってのロシア通と言われているのが世耕弘成経済産業大臣です。そもそも世耕氏が日露関係に積極的に係わるようになったのは、2005年小泉内閣で安倍官房長官当時からです。2012年安倍政権が発足したときに、世耕氏は官房副長官として安倍首相とともに日露首脳会談へ同行しています。この時に世耕氏が作成した経済協力プランがプーチン大統領からたいへん好評を得ています。ロシア側は世耕氏に大きな信頼を寄せています。
キーマンたちの最近の言動
鈴木氏「まずは2島返還。残りは施設権獲得も一案」(エコノミスト2016年11月15日号)
あくまで私見だが、まず2島を返してもらう。そのあとは、国後・択捉は共同経済活動や、元の島民が自由に行ける枠組みなどを考える。今回は、日露友好条約のような中間条約でも良いと思っている。1、2年後に平和条約を結び国境線を決めれば良い。
佐藤氏「ロシアの真の狙いは日米同盟への揺さぶり」(SAPIO 2016年12月号)
経済協力をすれば、ロシアは北方領土問題で譲歩するとの考えは甘い。プーチン大統領の関心は、アジア太平洋地域の安全保障環境を変化させること。現在の米露関係の緊張を考えると、アメリカ軍の活動が歯舞・色丹周辺に及ばないとことをプーチン大統領は返還の条件にするだろう。
世耕経済産業大臣「11月2日~6日ロシアを訪問」
ロシアを訪問し経済発展省などと経済協力の具体化を進めている。ロシア側から要望されているプロジェクトには、液化天然ガスの開発や北海道とサハリンを結ぶ大陸横断鉄道の敷設などエネルギー・インフラ整備が中心であり、北海道経済にも大きなメリットがある。
北方領土交渉は動くのか
ロシアにも日本にも世論があり、強力なリーダーシップを誇る安倍首相もプーチン大統領もそれを無視するわけにはいきません。また、プーチン大統領の側近には強硬派の人物も多数控えています。しかし、最終的に決断するのは安倍首相とプーチン大統領の2人です。
ここ最近のキーマンたちの言動から推し量るとすれば、北方領土交渉は「2島変換+経済協力+α」で動き出す予感がします。アメリカとの関係が整理されるまで平和条約締結には少し時間がかかると思われます。
戦後の日本にとって日米同盟は生命線です。安倍首相の決断によってはそれが崩れ去る可能性もあります。いずれにせよ、首脳会談に向けて両首脳の覚悟と知恵が問われています。