12月のプーチン大統領来日、北方領土交渉解決の鍵は「引き分け」

ロシアのプーチン大統領が12月来日し、安倍晋三首相と北方領土問題について意見を交わします。北方領土の返還交渉は4島一括返還を求める日本と、第2次世界大戦で旧ソ連領となったと主張するロシアの意見が対立しています。ただ、今回は進展の可能性も秘めているようにも見えます。

占領から70年以上、平行線たどる両国の主張

国後、択捉、歯舞、色丹の北方4島は終戦の1945年まで日本が統治していましたが、日本の降伏後に旧ソ連軍が千島列島に侵攻、占領しました。日本はサンフランシスコ講和条約で千島列島の領有権を放棄しています。しかし、北方4島は千島列島に含まれないとして領有権を主張しました。これに対し、旧ソ連は国後、択捉両島の返還を拒み、1956年の日ソ共同宣言では平和条約の締結後に歯舞、色丹両島を日本へ引き渡すことで合意しました。しかし、平和条約交渉は両国の主張が平行線をたどったまま、全く進展していません。

旧ソ連が崩壊し、ロシアとなったあともこの状態は変わりませんでした。1998年の橋本、エリツィン会談で日本は「4島を日本領と確定させればロシアの施政権を認める」、2001年の森、プーチン会談で「歯舞、色丹の先行返還と国後、択捉の継続協議」という妥協案を示したこともありましたが、合意を得られないまま、占領から70年以上が過ぎています。

国後、択捉両島の軍事的価値が交渉の障害

ロシア側が国後、択捉両島を譲ろうとしないのは、軍事面の価値が大きいためと考えられています。

冬のオホーツク海は氷に閉ざされますが、凍りつかないのは国後水道と択捉水道だけ。両島を日本に抑えられると、太平洋艦隊がオホーツク海に閉じ込められかねません。しかも、オホーツク海には弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦が配備されています。日本に返還すれば日本の同盟国である米軍が自由にオホーツク海に侵入できるようになることから、潜水艦の防衛のためにも両島を手放したくないようなのです。

しかし、ロシアは今、原油安やルーブル安などから経済が苦境に立たされています。米国や西欧諸国とはクリミア問題で対立しているため、日本の経済協力に期待を持っているとみられます。最近、「北方4島は第2次大戦で得たロシア固有の領土」と主張していますが、これは交渉前の駆け引きとみられ、決して日本に見通しがない状況ではなさそうです。

面積等分で隣国との国境線画定した例も

ロシアは世界一広大な領土を持ちますから、中国、フィンランドなど17カ国と国境を接しています。隣接国とは多くの領土問題を抱えてきましたが、プーチン政権は次々に解決してきました。

ラトビアやエストニアとの国境線問題はEU(欧州連合)の仲介もあり、ラトビア、エストニア両国が主張を放棄して決着しています。中国との間で問題になってきたアムール川、ウスリー川流域の国境は、係争地を2分することで収めました。ノルウェーと争ったバレンツ海の排他的経済水域境界線も、面積等分で解決しています。柔道経験者のプーチン大統領はこれを「引き分け」と呼び、話し合いで譲歩し合う柔軟な一面も見せてきたのです。

日本が従来通り、4島一括返還を声高に主張しても解決の糸口は見えないでしょう。どういう形の「引き分け」に話を持っていくのかが、安倍首相の知恵の絞りどころです。

3島返還、面積等分、考えられるさまざまな妥協点

両国の主張を引き分けにするための方策としては、北方4島の面積2等分が考えられます。択捉島の面積は3,167平方キロもあり、国後島の2.1倍強、沖縄本島の約2.7倍もあります。北方4島総面積の半分以上を占めていますから、択捉島内に国境線を引くことになります。

もう1つは3島返還です。日本が国後島を手にする代わりに、択捉島を放棄するというものです。国境線は国後、択捉間の国後水道になります。

領土以外の方法で歯舞、色丹返還プラスアルファを検討することも考えられるでしょう。国後、択捉帰属協議の場を設ける、ロシアからのエネルギー確保などです。ただ、両国とも譲歩をすれば、その分だけ国内から反発の声が起きることは間違いありません。これを抑えるためには、互いに相手から明確な譲歩を引き出すとともに、利益を得たことを示さなければなりません。両首脳がどんな妥協点を見つけるのか、注目されそうです。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。