地方に一石投じることはできたのか、初代地方創生相石破氏の功罪

初代の地方創生担当大臣として地方創生の旗振り役を務めてきた石破茂氏が、内閣改造で退任しました。2014年9月の就任以来、さまざまな地方創生策を打ち出してきました。東京一極集中に歯止めがかかった気配はまだ見えませんが、地方のあり方に一石を投じることはできたのでしょうか。

「地方創生」という言葉が国民に定着

石破氏が在任した約2年間で大きく変わったのは、「地方創生」という言葉が国民の間で定着し、厳しさを増す一方の地方の現状に国民の目が向いたことでしょ う。日本全国でも人口減少が進みつつありますが、地方では破滅的な段階に入ろうとするところが少なくありません。そんな中、安倍内閣が人口減少と地方の沈滞化打開のため、新たに設けた地方創生担当大臣に起用したのが石破氏でした。

石破氏が地方の現状を国民に知らしめたことで、地方自治体に地方創生の担当部署が次々に誕生しました。この動きは民間にも波及しています。

和歌山県和歌山市に本店を置く紀陽銀行、京都府宮津市の京都北部信用金庫など金融機関の大半が地方創生の担当部署を設けました。日本が人口減少に入り、地方が壊滅的な状況となることは既に予測されていましたが、国も地方も民間も問題を先送りしてきた感があります。その意識を変えたのは石破氏の功績といえるでしょう。

東京一極集中を是正する国の施策が続々

東京一極集中を是正するには、地方を元気にし、若者の流出を防がなければなりません。そのための施策にも石破氏は大胆に取り組みました。
大手企業の本社機能や中央省庁の地方移転、地方大学の振興、首都圏の高齢者地方移住の推進、企業版ふるさと納税の導入、テレワークをはじめとする働き方改革の推進などで す。地方に人を集めるため、政府が省庁の枠組みを超えてありとあらゆる地方振興策を打ち出したようにも見えます。

大手企業では小松製作所やYKKグループ、アクサ生命保険などが本社機能の一部を移転しました。中央省庁では文化庁の京都移転が決まっています。大手企業の移転はまだごく一部にとどまり、中央 省庁の移転も官僚の激しい抵抗で腰砕けに終わった感が否めません。しかし、東京一極集中の流れを変えようとする政府や石破氏の意思は、国民に伝わったでしょう。

抜け出せていない自治体の横並び意識

国民の目を地方の現状に向けることはできましたが、自治体の意識を変えられたとはいえないようです。
2015年度に各自治体がまとめた総合戦略は、訪日外国人観光客やサテライトオフィスの誘致、特産品のブランド化などどこも似たり寄ったりの内容となりました。

人口ビジョンも予測の根拠となる合計特殊出生率が異様に高く、人口減少の危機をほとんどの自治体が乗り切れるとしています。総合戦略や人口ビジョンをまとめなければ、国の財政支援を受けにくくなることから、「やらされている感」がありありとうかがえる計画を打ち出したわけです。計画策定をコンサルタント会社に丸投げし、他の自治体の成功例をそのまま採り入れた例も見えます。

石破氏は「やりっぱなし、(国に)頼りっぱなし、無関心が地方創生の妨げになる」と口を酸っぱくして主張していましたが、自治体の多くがその状況から抜け出せていないように感じられました。

財源移譲なしに進める地方創生の限界

地方創生には自治体を競わせ、アイデア競争をさせる狙いがあります。
過去に地域活性化に成功した事例の大半が、地元でしっかりとアイデアを練り込み、個性豊かな地域振興策を実現しているからです。木の葉を特産品に仕上げた徳島県上勝町、雪の中で温泉につかるニホンザルを「スノーモンキー」として欧米に売り込んだ長野県山ノ内町などがその代表例でしょう。

しかし、地方創生緊急支援金事業を見ると、練り込まれたアイデアは少数で、国の支援金交付方針にすり合わ せただけとしか思えない事業も見られます。花火大会の補助金、遠隔地が無理やりに連携したように思える観光客誘致事業などです。予算を国が握ったままで、自治体に渡さないことから、石破氏らの意図に反し、緊急支援金をえさに自治体を従わせただけの結果に終わったようにも感じられます。財源移譲なしに進める 地方創生の限界を見たように思えてなりません。

石破茂氏のページ 

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。

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