2015年、ネット選挙が解禁されてから初となる統一地方選挙が行なわれました。
ネット選挙解禁後2回行なわれた国政選挙(衆参1回ずつ)では、インターネットを利用した選挙活動に手応えを感じられなかった候補者が多く、各政党やマスコミは「ネット選挙が集票に与える影響は限定的」と評していました。
しかし、地方選挙――とくに市町村議会議員選挙では対象となる有権者が少なく、数百票、数十票の差で当落が左右されることも珍しくはありません。そのため、インターネットの活用が当落に与える影響は、国政選挙よりも大きいのではないかと考える向きもあります。
そこで今回は、統一地方選からおよそ半年後の2015年11月に千葉県我孫子市で行なわれた市議会議員選挙の結果と、候補者におけるSNSなどネット媒体の利用状況から、インターネットが地方選挙に与える影響と候補者の課題について考えてみたいと思います。
意外? 納得? ネット媒体の利用は得票数に影響しない!?
表1は、2015年の我孫子市議会議員選挙候補者におけるネット媒体の利用状況について、政くらべ編集部が独自に採点したものです(満点は100)。これを見ると、候補者の得点は全体的に低く、20点も獲得していればまだよいほうで、0点の候補者も少なくありません。
おそらく、多くの候補者が「これまでの選挙戦のスタイルを変えたくない」「インターネットに力を入れても票には繋がらない」など、ネット媒体の利用に消極的な考えを持っているのでしょう。しかし、国政選挙に比べ、ネットの利用が当落に大きな影響を与えるのであれば、選挙結果には点数の高い候補者ほど、多くの票を獲得する傾向が見られるはずです。
ところが、選挙結果とネット媒体の利用による得点を合わせたデータ(表2)を見てみると、ネット媒体を積極的に利用している候補者が、必ずしも多くの票を得ているわけではないことが分かります。つまり、ネット媒体の利用は得票数に大きな影響を与えなかったというわけです。
また、当該選挙における年齢別投票者数(表3)を見ると、投票率は若ければ若いほど低く、当日有権者数からは、高齢化によって若者自体が少ないことが分かります。そもそも、ネット選挙の解禁が若者の投票率の向上を目的。その若者が少ないのですから、ネット媒体を利用する価値は低いと考えるのは仕方のないことかもしれません。
しかし、本当にネット媒体は、地方選挙を勝ち抜くうえで、利用するだけ無駄なツールなのでしょうか。
表1:2015年11月我孫子市議会議員選挙時立候補者のネット活用
候補者名 | ホームページ | ブログ | その他 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
坂巻宗男 | 5 | 0 | 0 | 5 | 0 | 10 |
野村さだお | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
池田大輔 | 0 | 0 | 20 | 0 | 0 | 20 |
豊島よういち | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
江原としみつ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
かい俊光 | 15 | 5 | 20 | 20 | 0 | 60 |
高木ひろき | 0 | 20 | 0 | 0 | 0 | 20 |
やぶき啓子 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
佐々木とよじ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ちの理 | 5 | 20 | 20 | 0 | 0 | 45 |
印南宏 | 10 | 0 | 0 | 20 | 0 | 30 |
かけ川正治 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
内田みえこ | 25 | 0 | 10 | 0 | 0 | 35 |
早川真 | 0 | 20 | 0 | 0 | 0 | 20 |
海津にいな | 0 | 0 | 0 | 20 | 0 | 20 |
松島洋 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
西垣一郎 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
関かつのり | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
椎名ゆきお | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
飯塚まこと | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 5 |
久野晋作 | 5 | 20 | 20 | 20 | 0 | 65 |
池田ひろと | 0 | 20 | 0 | 20 | 10 | 50 |
せりざわ正子 | 5 | 0 | 0 | 20 | 0 | 25 |
木村とくみち | 20 | 0 | 0 | 0 | 0 | 20 |
岩井こう | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
さわだあつし | 0 | 0 | 20 | 0 | 0 | 20 |
戸田ちえこ | 10 | 0 | 0 | 0 | 0 | 10 |
ひぐらし俊一 | 0 | 20 | 0 | 0 | 0 | 20 |
ホームページとブログを同一ドメインで利用している場合は……15点
選挙後3回以上の更新……5点
選挙時のみの更新もしくは当選後放置……-5点
選挙前3ヶ月以上放置……-5点
選挙前3ヶ月以内に3回以上更新……5点
その他媒体……10点
※facebookは友達申請しないと見られない場合は、公人としての活用ではないとみなして0点
※公明党、共産党はホームページを共同所有で各自のページをそれぞれが管理している
※今回は更新の質については加味しない
表2:2015年11月我孫子市議会議員選挙結果
候補者名 | 政党 | 新・現・元別 | 得票数 | 結果 | ネット活用 |
---|---|---|---|---|---|
坂巻宗男 | 無所属 | 現 | 4,229 | 当 | 10点 |
佐々木とよじ | 無所属 | 現 | 2,844 | 当 | 0点 |
印南宏 | 無所属 | 現 | 2,723 | 当 | 30点 |
飯塚まこと※ | 民主党 | 元 | 2,564 | 当 | 5点 |
久野晋作 | 無所属 | 元 | 2,310 | 当 | 65点 |
高木ひろき | 自民党 | 現 | 2,218 | 当 | 20点 |
ちの理 | 無所属 | 現 | 2,196 | 当 | 45点 |
かい俊光 | 自民党 | 現 | 2,192 | 当 | 60点 |
西垣一郎 | 自民党 | 現 | 2,093 | 当 | 5点 |
岩井こう | 共産党 | 現 | 1,782 | 当 | 0点 |
野村さだお | 共産党 | 新 | 1,766 | 当 | 0点 |
ひぐらし俊一 | 無所属 | 現 | 1,689 | 当 | 20点 |
戸田ちえこ | 公明党 | 現 | 1,664 | 当 | 10点 |
豊島よういち | 無所属 | 現 | 1,661 | 当 | 0点 |
関かつのり | 公明党 | 現 | 1,654 | 当 | 5点 |
椎名ゆきお | 自民党 | 現 | 1,555 | 当 | 0点 |
木村とくみち | 公明党 | 現 | 1,524 | 当 | 20点 |
江原としみつ | 公明党 | 現 | 1,517 | 当 | 0点 |
松島洋 | 無所属 | 現 | 1,494 | 当 | 0点 |
早川真※ | 社民党 | 現 | 1,480 | 当 | 20点 |
内田みえこ | 無所属 | 現 | 1,310 | 当 | 35点 |
海津にいな | 無所属 | 元 | 1,189 | 当 | 20点 |
さわだあつし | 無所属 | 新 | 1,120 | 当 | 20点 |
せりざわ正子 | 無所属 | 現 | 1,019 | 当 | 25点 |
かけ川正治 | 無所属 | 現 | 1,009 | 落 | 0点 |
やぶき啓子 | 無所属 | 元 | 546 | 落 | 0点 |
池田大輔※ | 無所属 | 新 | 258 | 落 | 20点 |
池田ひろと※ | 無所属 | 新 | 256 | 落 | 50点 |
表3:2015年我孫子市議会議員選挙年代別投票者数
年代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70位上 |
---|---|---|---|---|---|---|
投票者数 | 2,447 | 4,598 | 8,016 | 6,765 | 11,168 | 15,438 |
当日有権者数 | 11,060 | 14,926 | 21,025 | 15,410 | 19,380 | 26,236 |
投票率 | 22.12% | 30.81% | 38.13% | 43.90% | 57.63% | 58.84% |
天気予報にグルメ情報……質の低い情報はいらない!
選挙のときに限った話ではありませんが「明日は雪になるそうなので、足元にお気をつけください」「今日は○○をいただきました。おいしかった!」「今日は娘の誕生日で、ケーキを買いました」など、自身の政治信条や政策とはほとんど関わりのない情報ばかりを発信する政治家がいます。また、選挙中には「今日は△△で演説。明日は××に伺います」と、自分の予定だけを発信し続ける候補者もいます。
プライベートな話をしたり、天気が悪いからと見る人を気遣ったりするのは、親しみを感じてもらうのに有効な手段です。また、自分の予定を発信するのも「話を聞きたい」と思っている人には役立つ情報ですし、活動のアピールにもなるでしょう。
しかし、それは普段から政策などをしっかりと伝えている政治家か、十分な知名度がある政治家の場合のみです。有権者のほとんどが名前も聞いたことがない、市町村議会議員の候補者のプライベートな情報など、選挙区内の有権者さえわざわざ聞こうとは思わないものです。
当たり前ですが、政治家は政治を行なうもの。自治体が抱える問題点やその解決策、将来のビジョンなど政治に関する質の高い情報を、ネット媒体を通じて1人でも多くの有権者に伝えていくことが、政治家がネット媒体を利用する基本的な考え方であり、ネット媒体を集票へと繋げる近道でもあるはずです。
見てもらえなければ、効果がないのは当然のこと
選挙になると、ほとんどの候補者は選挙カーを使ったり、有権者の集まる駅前で演説をしたり、チラシをポスティングしたりと、1人でも多くの人に自分の名前や政治信条、政策を知ってもらうための様々な工夫を施すものです。
ところが、これがネット媒体を通じた情報発信になると、ほとんどの候補者は有権者に見てもらうための工夫ができていません。
基本的に、情報を発信しているだけで有権者に見てもらえるのは、十分に知名度の高い人のアカウントくらいのものです。せっかくマメに情報を発信していても誰にも見てもらえないのでは、情報発信をするモチベーションも低下。更新が滞ることで、さらに有権者が離れていくという負のスパイラルに陥ってしまう可能性もあります。それでは集票の役に立たないばかりか、足を引っ張る存在になりかねないでしょう。
質の高い情報を発信することを心掛けるのは当然ですが、文章力に自信があるのであれば、発言に少しエッジを利かせたり、ユーモアを交えたりすると、見た人が「面白い」と感じて、情報の拡散に一役買ってくれるかもしれません。また、若者に関する意見や情報を発信し、少しでも若者からの共感を得られれば、SNSに小規模なコミュニティができて、いつもの支援者集会とは別の「オフ会」を開催……ということも期待できそうです。
もっと手軽な工夫としては、政治家のツイートをトップページに表示するサービスを提供している政治ポータルサイトを利用すること。政治に関心のある人を中心に、情報はより広く、より速く伝わっていくでしょう。
アカウントを作成し、有権者が興味を持てない情報を発信しているだけでは、ネットを「利用」はできていても「活用」しているとは言えません。地方選挙の候補者が質の高い情報を発信し続け、その情報を見てもらう工夫を施していくことで、ネット媒体はとくに有権者の少ない地方選挙において、大きな影響力を持つ存在になるはずです。