加計学園の獣医学部新設で首相の関与疑惑、真偽の解明を一刻も早く

森友学園(大阪市)の国有地格安入手で安倍晋三首相夫妻の関与疑惑が国会で取りざたされたばかりですが、今度は安倍首相の友人が理事長を務める学校法人・加計学園(岡山市)が愛媛県今治市に獣医学部を新設する経緯に疑問の声が出ています。

安倍首相は関与を強く否定していますが、野党側は厳しく追及する構えで、国会審議から目を離せません。

理事長は安倍首相のゴルフ仲間、頻繁に面会情報も

加計学園が今治市に建設しているのは、学園が経営する岡山理科大の獣医学部です。開学予定は2018年4月。専任教員70人、学生の入学定員160人で、付属の家畜病院も建設します。3月中に文部科学省に対する設置認可申請を終え、既に工事に入っています。

通例であれば文科省は大学設置・大学法人審議会に諮問。審議会が申請に盛り込まれた教員組織や教育課程、財政計画などを審議し、8月ごろに結論を出す見込みです。

獣医学部の新設は獣医師数が増えすぎることを心配し、過去50年以上認められていませんでした。

しかし、政府は四国に獣医学部がないことを理由として国家戦略特区を使い、新設に道を開きました。学園の加計孝太郎理事長は安倍首相のゴルフ仲間といわれています。

野党側は民進党の大塚耕平氏が3月の参議院財政金融委員会で「首相と理事長は頻繁に会っているほか、首相の昭恵夫人が加計学園運営の保育施設の名誉園長に就任した」と指摘するなど、首相の関与を疑っています。

マスコミからも森友学園問題に続く首相の関与疑惑として取り上げる例が出てきました。

今治市が37億円近い土地を無償譲渡し、校舎建設を支援

疑惑の1つは今治市が大学用地を無償提供したことです。

市はふれあいの丘「新都市第2地区」にある大学用地16万8,000平方メートルを約36億7,500万円で市土地開発公社などから買い戻し、加計学園に譲り渡しました。

市と学園が結んだ基本協定では、獣医学部が開設されなかった場合、土地所有権が市に戻ると規定されています。

さらに、校舎の建設費など96億円が支援されることになりました。このうち、64億円が市の負担。「残りは愛媛県からの補助を得る」と市側は説明しています。

意地悪い見方をすれば、まさに至れり尽くせりのようにも見えます。

市議会の3月定例会では、開会日にいきなり無償譲渡議案が採決され、賛成多数で可決されました。

校舎建設などで市が学園を支援する議案は全会一致で可決です。委員会付託や一般質問での質疑もないまま、大急ぎで議決したわけです。

採決に先立つ審議では、市議から「生活に苦しむ市民の理解を得られていない」と反対する声が出ましたが、菅良二市長は「貸与だと自然災害で補修が必要になれば市が負担しなければならない。覚悟を決めて譲渡する」などと答弁しました。

その後、採決から1週間も経たないうちに建設用地で一部の重機が稼働を始めました。地元では「あまりにも手際が良すぎる。設置ありきで物事が進んでいるのではないか」との声も聞かれます。

特別の便宜を図ったとして野党側から疑惑の目

今治市は小泉内閣が始めた構造改革特区に過去15回、獣医学部の新設を提案しています。

基幹産業である造船業の不振などから市に沈滞ムードが漂う中、若者が集まる大学の誘致を念願としてきたのです。

加計学園はそのパートナーとして長く共同歩調を取ってきました。国家戦略特区の獣医学部新設には、希望の声が今治市のほか、京都府綾部市と新潟市からも挙がっていました。

特に京都府と京都産業大は鳥インフルエンザ研究の実績をアピールしてやる気満々でした。しかし、1月に全国1校限りとして政府が事業者を公募したところ、応募は加計学園だけ。

京都府は政府が2016年11月に獣医学部の空白地域に限って新設を認める方針を打ち出したことで、大阪府立大に獣医師養成コースがある関西で新設が困難と判断したもようです。

新潟市は大学側の準備ができていなかったとしています。

政府は「獣医学部新設に反対してきた日本獣医師会の意見などを考慮した」と説明していますが、野党側は「政府が加計学園に特別の便宜を図ろうとしたのではないか」と疑惑の目を向けているのです。

民進党はプロジェクトチームを組み、追及の構え

民進党は4月、加計学園に関する疑惑を追及するプロジェクトチームを発足させました。

今後、週1回程度会合を開いて対応を検討するとともに、今治市で実地調査を進める方針を明らかにしています。「首相が関係していないことは全くあり得ない」として首相の関与を国会でただす姿勢です。

これに対し、安倍首相はこれらの疑惑を完全否定しています。

3月の参議院予算委員会では、社民党の福島瑞穂氏の追及に対し、「理事長から頼まれたことはないし、働きかけもしていない」と主張。

福島氏の「政策がゆがめられているのではないか」とする質問に対しては、「もし働きかけて決めたのなら、責任を取る」と否定し、「私をおとしめようと質問するのはやめた方がいい」と色をなして反論しました。

高い支持率に支えられ、長期政権を続ける首相にとって、森友問題に次ぐ大ピンチです。

野党側が政権を追い込むチャンスと意気込んでいることから、国会の論戦は今後、さらに激しくなりそうです。国会には一刻も早い解明が求められていますが、安倍首相もきちんと説明責任を果たす必要があるでしょう。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。