日銀の新金融政策:イールドカーブコントロール

先週、日銀が新しい政策を発表しました。題して長短金利操作付量的質的金融緩和。年初にマイナス金利というサプライズ政策を導入し、7月にはETF購入倍増を発表し、また新しい政策の発表です。日本の経済に何が起きているのか、を見てみたいと思います。

結論から言えば、経済成長は+1%程度の回復基調に戻るとの予想を私は支持しています。

3年9か月前からざっくり見てみたいと思います。第二次安倍政権発足後のいわゆるアベノミクスで導入した大規模な金融緩和と財政政策によって、金利低下、円安、企業収益の改善、設備投資や雇用環境は改善、名目賃金は上昇、一方、金融緩和要因+円安要因-原油価格下落要因+消費税導入要因で緩やかな物価上昇、実質賃金を押し下げ(名目賃金上昇が弱い)、消費は後退。

今年に入ってマイナス金利の導入で一段の金融緩和が実施されるも、主に政治要因によって円高。新興国経済低迷も相まって企業業績の多少の弱含み。設備投資も弱含み。総需要の後退と円高要因によって(原油価格上昇要因を吹き飛ばして)物価上昇率低下。結果、日銀が目指す物価2%上昇は未だ達成されていない状況です。

つまりデフレからの回復基調は続いていて、物価が継続的に下落するような状況からは脱出できているものの、力強いわけではない。そして、重要なのは、これは上で述べたようなスタティックなデフレギャップや輸入物価だけが原因ではなく、未だにデフレマインドは根深いということです。昨年、地元のとある製造業の社長さんが、昔はちょっと景気が悪くなっても直ぐに上向くという感覚が体に染みついていたけど、今はアベノミクスとっても、ちょっと景気がよくなったからって直ぐに悪くなるような気がする、と嘆いていたことを思い出します。

従って、処方箋としては積極財政による需要創出と期待インフレ率改善のための更なる金融緩和というポリシーミックスが必要だということになります。

そこで前者に関しては、先月、未来への投資と題して積極財政に転じたので(以前は減税ベース)、総需要がGDPギャップ以上に創出されるはず。残りは期待インフレ率向上のための金融のもう一段の緩和が求められていました。

ただし、金利が下がればいいわけではない。金利を短期から長期まで結んだ曲線をイールドカーブと言いますが(長期の方が金利は高いのが普通なので右肩上がりのグラフ)、今年のマイナス金利導入で短期の下落以上に長期の下落が進み、イールドカーブがかなりフラットになっていました。こうなると銀行運営(貸出減少や収益低下)や年金資産運用で問題がでる。

そこで今回日銀が発表したのが、長期である10年債の金利は0%になるように操作する、短期は更に深堀もあり得る、これによってイールドカーブをスティープ化する、というもの。これを受けて市場も直ぐに反応し、10年金利は0%近くになっています。これにともなって20年債や40年債も上昇しました。さらに、オーバーシュート型コミットメント(というややこしい名前を日銀が付けましたが)、物価上昇率が2%を超えても安定するまでは緩和は続ける意思を明確に示しました。

これによって実体経済としては、先の記事で書いたように、金融機関が貸し出しに積極的になり、中小企業にとってもよい状態になればと思います。

ただ、手放しで喜べるかどうかは見守る必要があります。もうかなり大胆であることは間違いない。黒田総裁の危機感と気迫さえ感じます。

例えば、イールドカーブをスティープ化するということは、ある種のインプリシットなテーパリングではないかという見方もできるし、もっと言えば引き締めになって円高バイアスがかからないのかとか、政府が0金利で資金調達できるヘリコプタマネーに類似するという見方もあるし、0%にするために無制限に国債買い入れを強いられることはないのか、そもそも適切な金利水準はどうなのか、基本的に様々な要因で決まる特に長期金利をうまくコントロールできるのか、はたまた少し将来の話をすれば、既に450兆円も積みあがっている膨大な国債や投信の将来価値が円通貨の信用性にどうかかわるか、オーバーシュート型コミットメントで達成はどう判断するのか、判断して急に国債買い入れを止めたら金利が急上昇しないか、そもそも年限を切るのをあきらめたことになるのではないか、あるいは逆に、これまで日銀はいくらでも国債を買う方針でしたが適切と考えるレンジで買う方針に転換したので場合によっては国債売却インセンティブが低下して買い入れペースが鈍化しないか、などなど。気にし始めたらきりがないですが・・・。

いずれにせよ、この機に経済を立て直さなければならないわけで、放置してもいいわけでもなく、是として注視していかなければなりません。

出典:大野敬太郎オフィシャルサイト「オピニオン」

コラム:先憂後楽

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