大学の経営難が問題になっています。獣医学部の新設問題など何かと話題を呼んでいる大学の新設ですが、一方で、少子化の波が大学経営を圧迫しています。
日本では、高度経済成長のもと大学への進学率は徐々に高まり、大学の新設が続いてきました。しかし、ここにきて大学は過剰となっています。18歳人口が今後も減少していく見込の中で大学の淘汰が、いよいよ現実化していくようです。
1980年代後半から増加し続けた私立大学
現在、日本には966の私立の短大・大学があります。日本の経済成長に合わせて進学率が上昇する中、1988年から2015年の27年間に289校もの大学が新設されてきました。単純に計算すると、年間10校程度の大学が新設されてきたことになります。1980年後半以降に大学の新設ラッシュが相次いでいたことがよくわかります。
そして、この時期に作られた大学の大半は私立大学です。その数は新設された289校のうち247校にも上っています。
私立大学の厳しい経営状況
しかし、こうして新設されてきた私立大学の約17校が現在経営難に陥っていると言われています。とくに地方の中小私立大学の経営は厳しい状況で、文部科学省の資料によると約半数の大学・短大が赤字の傾向を示しているとされています。
さらに、私立大学の入学定員充足率も低く、約4割の大学・短大が定員に満たない状況となっています。募集をしても入学定員の半分も学生を確保できていない状況です。経営が厳しくなるのは当然といえるでしょう。
1980年後半に新設ラッシュが続いた私立大学ですが、ここに来て厳しい経営状況に直面しているようです。
出典:厚労省・高等教育局私学部私学行政課長説明資料
さらに厳しくなる大学経営!?
その上、大学にとってはよくないニュースが続きます。
2018年以降、18歳人口はさらに減少することが見込まれている点です。わが国の18歳人口は、1992年の205万人をピークに2008年には124万人と約80万人も減少しました。その後、2009年から120万人前後でほぼ横ばいにこれまで推移してきました。
しかし、2019年頃からは再び減少を始め、2040年頃には88万人と、約32万人の18歳人口が減少する見通しとなっています。
18歳人口は大学にとっての収入源といえますから、その減少は大学経営に強い影響を与えるでしょう。今後、大学の経営はさらに厳しさを増すことが予想されています。
出典:厚労省・高等教育局私学部私学行政課長説明資料
大学進学希望者は増えていない
一方で、大学・短大へ進学を希望する学生の数を示す志願率は61.4%となっており、2009年頃から横ばいの状態が続いています。今後も上昇は見込まれていません。
現状は、大学への進学を希望する志願者の93.7%もの人が大学に入学しています。大学に行きたければ誰でも入学できる全入状態となっています。
そうなると、大学は合格者を増やすという方法で学生を確保することは難しいといえるでしょう。従来型の経営が厳しいことがよくわかります。
大学の倒産!被害者は学生!?
このような状況が続くと、今後経営が厳しい大学は倒産するしかなさそうです。大学も法人ですので経営が成り立たなくなれば倒産(学校法人ですので解散)するのは当然です。実際のところ、2000年以降に倒産した大学は14校もあります。
ですが、大学が倒産してしまうと一番被害を受けるのは学生です。確かに、大学は倒産しても学生が卒業するまで面倒は見るでしょう。
しかし、日本では大学卒業という学位だけでなく、大学名(ブランド力)も重要になります。とすれば、出身大学がなくなると学生は大学ブランドを失い、大きな痛手となります。
こうなると、就職等で影響がでてしまう可能性も高いといえるでしょう。
学生の不利益を考えると、大学経営を市場原理に任せておくわけにいかないとも思えます。
大学経営に国が介入!?
こうした中、文部科学省は経営が厳しい大学に対し、強い姿勢で介入する方針を示しています。赤字が続く大学には集中的に経営改善の指導をしたうえで、それでも改善が図れない場合には法人名を公表するとしています。
こうした危ない大学を公表することで、学生や保護者が大学を選ぶ上での参考とし、不測の損害を被ることを防止する思惑であるようです。
ブランド力が重要な大学にとっては経営状況の悪化を公表されることは致命的な影響を受けるといえます。学生はつぶれるような大学に行こうと思わないでしょうし、保護者も入学させないでしょう。
こういった点からすると、国は被害者が極力出ないようにしながら、増えすぎた私立大学の淘汰を進めようとしているのかもしれません。
大学が生き残るには!?
以上のような大学をめぐる厳しい状況からすると、今後、大学の淘汰が進むことは確実といえるでしょう。
大学はいよいよ生き残りをかけた改革に本気で取り組む時期に直面したといえます。高校を卒業した新卒の生徒のみを対象とする従来型の経営では、今後も生き残っていくことは難しいといえます。
これまでの固定概念を捨て、社会に開かれた教育機関として生涯学習の提供、夜間や土日に授業を行うなど社会人学生の取り組み等、新たなターゲットを模索する必要性に迫られているともいえます。
今後、大学の淘汰が進む中で、日本における大学の位置づけも大きく変化してくるかもしれません。これからの大学の方向性に期待したいところです。